氷雨と大牙……大牙危うし、鬼の涙1
激しい流れの中で、大牙は必死に自身の眼に色鮮やかに染まる道から外れないよう、必死に意識を保っていく。
同時刻、炎国の国境付近から、凄まじい速度で修山に向けて移動する者達がいた。
眼を真っ赤に染めた紅琉奈と必死に後を追う、氷雨と五郎である。
紅琉奈の移動速度は氷雨の予想よりも数段、早いものであり、五郎に取ってそれは、別次元の移動速度であった。
「五郎っ! 無理をするな、近場の町で待機していろ!」
「気遣い、すみません! 構わずにいってください」
氷雨の言葉を聞くも止まろうとしない五郎、しかし、紅琉奈を見失うワケにはいかず、氷雨は呼吸を整えてから、一気に加速していく。
そんな三人の先頭を進んでいた紅琉奈だが、突如、方向を変更する。
大きな河川の上流に向けて、一気に飛んでいく。
上流にある山の頂きには、 湖があり、紅琉奈は其処を一直線に目指す。
湖に到着すると、湖の底に向けて一気に潜り、水脈を変化させた刃の爪で切り裂き、入り口を抉じ開ける。
一気に噴き出さした地下水、その中から紅琉奈が大牙を見つけ出すと、その腕を掴み一気に地上へと浮上する。
勢いよく、天に向けて舞い上がる大量の水が一瞬の豪雨のように地上に降り注ぐ最中、紅琉奈は大牙を抱えると直ぐに追ってきていた氷雨の元に向かう。
山の入り口で突然の豪雨に驚く氷雨、そんな氷雨の前に、ずぶ濡れの状態で意識の無い大牙を抱き抱えた紅琉奈が姿を現す。
「氷雨、大牙が、大牙がッ!」
紅琉奈は、大牙を抱えたままに泣きそうな声をあげる。
「落ち着けッ! 先ずは寝かせよ。水を吐き出させる! 五郎の助けもいる、直ぐに迎えにいけ、奴も此方に向かってる筈だ!」
氷雨に言われ、後を必死に追ってきていた五郎を見つける紅琉奈。
「はぁ、はぁ、くそ、なんて速いんだ……」
「五郎! 今すぐ行くぞ!」
突如、姿を現し、更に名前を呼ばれ、五郎は動揺する。
「な、紅琉奈! お前を捜しに氷雨さんが」
「黙れ、今すぐにこい! 時間がない、大牙が死んじゃう」
紅琉奈の表情を見て、五郎は直ぐに紅琉奈の背中にしがみつく。
「喋るな、離すな、舌を噛まれたりされたら面倒……」
五郎は2分にも満たない間に、その凄まじい速度から、世界がボヤけ、数回意識を失いそうになるも必死に耐えていく。
紅琉奈の足が急に止まり、放り出されるように前に転がる五郎。
「いてぇっ」
「来たな、直ぐに心臓を! 雷動ならば、知識はあるだろう! 今すぐだ!」




