氷雨と大牙……地下からの脱出2
「なあ、黙って、捕まってくんねぇか? ガキと女をいたぶる趣味は無いんだが」
銀大の言葉に大牙が更に強く睨み付ける。
夜夢は銀大に対して質問をする。
「オラ達を捕まえて、どうする気だ! いきなり攻撃すて、オメェ等は何もんだ!」
頭を軽く掻く銀大。
「凄い訛りだな、夜国の者か……面倒だな……俺達は黒雷ってもんだ。まあ、察しはつくよな?」
夜夢の雰囲気が一変すると、杖で地面に強く叩く。
「理解すたよ、オメエ等は、夜国の者にとって赦しちゃなんねぇ、存在だ!」
「まあ、そうなるわな……なら、仕方ないよな……女の手足を切り落とす趣味はねぇ、直ぐに気絶させてやんよ!」
鬼斬り刀を構え電撃を刃きに流す銀大。
互いに動けば、先手を取られると悟り、僅かな空気の揺れすらも、間合いを確かめる為に使っていく。
緊迫した空気が流れる最中、夜夢の見える世界の道が変化する。
「大牙ッ! 此方さ来い、一気にいくど!」
夜夢の声に迷うことなく、駆け出す大牙。
銀大が慌てて、鬼斬り刀を振ろうとした瞬間、夜夢が壁際に大牙を押しあて、体で覆う。
次の瞬間、銀大の背後から凄まじい爆発が起こる。
「ぬわぁ! うわあぁぁ!」
「ぎゃあぁぁ」
銀大と部下の男達が急流に吹き飛ばされて、流されていく。
「うわ、やり過ぎた……まあ、銀大なら、大丈夫だな……うん、それより! 姐様への手土産発見!」
夜夢に庇われ、無傷の大牙は、夜夢から、血の匂いがする事実に気づき、立ち上がると、背中を確認する。
爆発の際に飛んだ破片が突き刺さる背中には、無数の出血が確認できる。
「夜夢さん、大丈夫!」
「オラはいいから、逃げれ……」
最後まで大牙を庇おうとする夜夢。
「何なんだよ……さっきの奴の手下かよ!」
大牙の言葉に苛立ちを露にする馬黄の姿があった。
「はあぁ? 銀大の部下だ? 本当に男は馬鹿しかいないの? あんな奴の部下なワケないじゃない」
「なら、お前は誰だよ!」
「口の悪い子だ……まあ、いいわ。私は雷砲の馬黄! 偉大なる主、落雷の百姫姐様の右腕さ!」
馬黄の名乗りが終わると、夜夢が再度、立ち上がる。
「大牙、オラはもう、動けねぇ……だども、オメェは生ぎろ……氷雨様にあんがとうって、生き延びたら伝えてけれな」
大牙は力の無さに苛立ち、更に力を望みながら、夜夢を庇うように前に立つ。
「はは、オメェは酷い男だな……女の最後の願いば、すっかり聞いてくれな……嫌われっと……」
夜夢がそう呟く最中、大牙は確りと夜夢を見て、力いっぱいに笑う。
「一人にしないから、二人で氷雨達の元に帰るんだ」
二人の会話を苛立ちながらも、聞いている馬黄。
「お別れ会は終わったかな? 私ってば、優しいから、お別れの挨拶に時間をあげたりするんだよね……それに、お子様は買い手が多いし……怪我させたくないし……女はいらないかな……」
ニヤリと笑い、身構える馬黄。
「大牙……すまねぇ、オラの異能を渡せたら、オメェだけでも、逃げれんのに……」
「気持ちだけで嬉しいよ、だから、諦めないで、夜夢さん」
「最後くらい、呼び捨てで構わねぇ、仲間として、感謝だぁ」
「うん、夜夢も諦めないで、絶対に助かるから!」
二人の会話が終わると同時に、馬黄が筒状の棒に異能を集め、輝きだす。
その棒を勢い良く振り回すと、筒の中から、無数の輝くビー玉ほどの大きさの玉が放出される。
激しい爆発が空中で起こると、砂埃が周囲に充満して視界が見えなくなる。
馬黄は、やらかしたと焦り、入ってきた入り口に陣取る。
そんな移動した直後、馬黄の片足に軽い痛みと痺れが走る。
「っ! なんだよ……瓦礫でも刺さったのかな」
馬黄が足を確認すると、其処には、吹き矢の針が刺さっている。
爆発する瞬間に放ったと言うには、余りに遅れたタイミングでの命中、視界が無い中で、吹き矢を飛ばし、命中させたと考える馬黄は多少動揺する。
「流石にあり得ないっしょ……偶然でしょ……」
再度、棒を握る馬黄の手に目掛けて、粉塵の中から、数本の吹き矢が放たれる。
吹き矢は馬黄の片手と腹部に命中し、その場で身動きが出来ない状態にされる。
「な、なんで……あり得ないっしょ」
粉塵が薄まる最中、眼が金色に染められた大牙の姿がそこにあった。
腕には【紅琉奈】の文字の横に【夜夢】の文字が刻まれている。
「夜夢のお陰で、俺は異能を開花させた……だから、絶対に助けるよ」
大牙の異能と言う言葉に夜夢は、笑みを浮かべる。
大牙は夜夢の体に触れると、夜夢は金色の光になり大牙の腕の文字に吸い込まれていく。
「その毒は、痺れ薬だよ、1日もあれば、動けるから、もう……追って来ないで」
そう言うと、大牙は自身の眼に記された道が急流の先に続いている事を確認すると、急流に飛び込んだのだ。




