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氷雨と大牙……大牙と夜夢に襲い掛かる者……1

 氷雨と夜夢が夜中まで酒を飲み、眠りについた。


 時間が流れていくに連れて、小屋の戸に朝の風が流れ込む。


 大牙が目覚めると、横には小さな寝息を発てる紅琉奈の姿、その手足が大牙を抱き抱えるように絡まり、顔を赤面させた。


 声にならない動揺と高鳴る心拍、そんな大牙の心と理性を打ち砕くように、絡まった手足が離され、寝返りをする紅琉奈の着物が(はだ)け、美しい胸元が露になる。


 幼くも、男である大牙からすれば、それに見入る事は、良くない事だと理解していた。


 紅琉奈を起こさぬように、部屋を抜け出すと大牙は、慌てて外に飛び出し、深呼吸をする。


 今にも破裂しそうな心臓の高鳴り()を押さえるように冷たい朝の空気を体内に吸い込んでいく。


 そんな最中、朝から風呂を炊く氷雨の姿に大牙は驚かされる。


 大牙に気づいた氷雨が、人差し指を口にあて“しー”と、大牙に合図を送り、手招きをする。


 呼ばれるがままに、風呂炊きを交代する大牙、そんな横で、腰に掛けた瓢箪(ひょうたん)から直接、酒を飲む氷雨の姿があった。


「ふぅ、生き返る、実に、素晴らしい登場だな、師匠の為に犠牲の精神とは、立派だぞ大牙」


 楽しそうにそう語る、氷雨の声は少し小さめであり、大牙も、それにつられ、小声で会話をする。


 そんな最中、風呂についた小窓から、夜夢が外に向けて声をかける。


「氷雨様……あんの、そろそろ……申し訳ないんで、交代すますよ?」


 咄嗟に口を塞ぐ大牙、そんな姿に笑いを堪える氷雨、しかし、夜夢が小窓から顔と体を乗り出すと、空気が一変する。


「氷雨様……じゃ、ねぇな! 誰だ! 杖が……はあ!」


 杖が無いせいで、大牙だと認識出来ない夜夢は、咄嗟に風呂桶にお湯を入れて、小窓から外に向けて浴びせ掛ける。


「熱ッ! う……」


 声を出してしまった瞬間、駆け出す大牙、そんな大牙を追う為、即座に服を(まと)い追い掛ける夜夢。


 二人が姿を消した後、ケラケラと笑みを浮かべる氷雨は、置き手紙を(したた)めると、寝ぼけ眼の紅琉奈と、簀巻(すま)き状態の五郎を担ぎ、雷国とは反対に位置する国境へと向かっていく。


 水国の隣国である炎国(えんごく)へと、三人で向かったのだ。


 大牙の姿が無く、苛立つ紅琉奈であったが、氷雨の指示に仕方なく従う。


 氷雨が認めた置き手紙には、風呂炊きを大牙に任せた事実と炎国に向かった内容が記されており、最後に“大牙が読むが信じろ”と、流れるような達筆の文が記されていた。


 そんな事とは知らぬ夜夢と大牙、二人の必死な鬼ごっこが開始される。


 大牙は、故意ではないが、風呂を覗く形になった事実に慌て、夜夢は風呂を覗かれた事実よりも、氷雨に何かあったのではないかと冷静さを失っていた。


 互いに冷静さを失っている状況で、本気で敵だと思い探す夜夢。


 本気で逃げる大牙。


 樹海を必死に逃げる大牙の足音を探す夜夢は、自身の存在を無にするように気配を消し去り追跡を開始する。


 大牙も山での修行で手にした覚えたばかりの隠密術を使い、身を隠す。


 大牙は直ぐに名乗り出れば済む事は理解していたが、姿を現せば、即座に切られると大牙の本能が告げていたのだ。


 緊張に包まれた樹海の一角、大牙は次第に近づく、凄まじい殺気に心臓が口から飛び出すのでないかと恐怖を感じながら、口を塞ぐ。


 そんな大牙の隠密術を嘲笑うように、夜夢が大牙の隠れた木々に向けて、巨木を切断し傾ける。


 激しく大地が揺れ、動物達が逃げ惑い、空に山鳥が羽ばたく。


 そんな最中、夜夢は大牙の存在を見つけると杖を握り直し、勢いよく襲い掛かる。


 獣が獲物を見つけて食らうように、杖の先端を大牙に向ける夜夢、それと同時に、樹海の上空から巨大な雷撃が地上目掛けて落下する。


「夜夢さん、危ないッ!」

「な? うわっ!」


 杖の先端が大牙の頬を掠めると同時に、大牙に押し出されるように落雷を回避する二人、即座に身を隠し。


 落雷の落下地点に立つ数人の集団、その中で頭一つ飛び抜けた美女が口を開く。


「なんだい? 今の一撃を回避したってのかい? 偶然なら強運だが、()()に眼をつけられて、生き残った奴は、いないかんね」


(あね)さん、取り敢えず、山焼きでも、しやすかい?」


「賛成、姐様の為にビリビリ放電しちゃうんだから」


 大牙と夜夢の元に姿を現した集団は雷国の存在である事実は大牙にも即座に理解出来た。


 しかし、大牙はどうするべきか、悩んでいた。


 雷国の異能を操る傀動を相手に戦えるのだろうか、もし、負けてしまったら、多くの疑問が頭に浮かぶ最中、夜夢が大牙の頭をぐっと、胸に押し当て、頭部を低くさせる。


 次の瞬間、大牙と夜夢の頭上を稲妻の刃が通り過ぎ、逃げていた獣達が次々にたおれていく。


「何してんだい? 銀大(ぎんだい)


「あ、いや、気配がしたんで、先手をうったんですが、動物でした……すいやせん姐さん」


 敵が本気だと理解した大牙と夜夢は、出方を窺うことになるのだった。

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