氷雨と大牙……氷雨と夜夢は縁側にて
大牙が布団に寝かされ、その隣には、隔離された形で五郎が、布団に縛られた状態で放置されている。
「な、なあ? 五郎となんかあったのか? 幾らなんでも、扱いが酷くないか?」
流石の氷雨も、気にする程の状況であったが、夜夢はそれでも、五郎を赦す気は無いと告げる。
紅琉奈はそんな事を気にする様子は皆無であり、大牙の横で眼を開いたまま、横になり、鼻唄を気持ち良さそうに唄い、笑みを浮かべる。
夜夢を連れて、月夜に照された縁側に移動する氷雨。
「氷雨様……?」
不思議そうに声を発する夜夢に対して、氷雨は徳利と二つの猪口を縁側に置く。
「まぁ、座れ。聞きたいことも、有るだろうし、静かに月を見ながら、語ろうじゃないか?」
氷雨に言われるまま、縁側に腰を置く夜夢、その瞬間、氷雨が縁側と二人を包むように小さな結界を作り出す。
「此れで、会話が外に漏れる事はない、遠慮なく語れるだろう」
少し優しい声でそう語る氷雨に夜夢は、笑みを浮かべ、その間に氷雨が猪口に酒を酌み手渡す。
「氷雨様は、本当に変わられますたね、オラと、出会った頃は、もう少しツンケンした雰囲気ですたが……ふふ」
互いに手にした猪口を口元に運び、飲み干す二人。
雷国で何があったかを、氷雨が苦笑いを交えて語り出す。
氷雨と紅琉奈は雷国で暴れた後に、一晩を雷国の外で過ごし、次の日、朝から雷国へと、再度、侵入した事実を伝えた。
二日目は、雷国内で、防衛を固めたように、無鬼の放たれている牧場と言うべき施設に雷動の上級者達から中級者で襲撃に警戒する動きを見せていた。
そんな徹底抗戦の構えを見せる雷動に対して、紅琉奈が取った行動、それは雷動上級者のみを狙った徹底的な襲撃であった。
数十人の上級者達が、陣を構える中心に止める氷雨の言葉を無視するように瞬時に移動した紅琉奈は、次々に上級者の鬼斬り刀を噛み砕き、上級者の存在を無に返していったのである。
雷動の戦闘を考えれば、一人の存在に突破されるなど、有り得ない程の軍勢であったが、それをいとも容易く打ち砕かれる事となったのだ。
氷雨が頭を抱えた理由は、鬼斬り刀を食らう度に、紅琉奈の変化させる刃が、鋭く強固な物に変化していたからだ。
紅琉奈が手を盾にすれば、上級者の斬撃を食らおうと傷にならず、紅琉奈が斬撃を放てば、うけた雷動側の鬼斬り刀が砕けると言う状況になっていく。
鬼斬り刀一本での強化はたいした事はないのだろうが、上級者が鍛え上げた鬼斬り刀を大量に食らった紅琉奈は、既に鬼で語るならば、四角、五角の強さであろうと氷雨は推測していた。
昼の時点で、目的を果たした紅琉奈は、氷雨を無理矢理、抱えると大牙を求めて、修山に舞い戻ったと口にする。
最初は歩いて三日間かかった道中を、半日で移動する異常な成長に氷雨は言葉を失った。
夜風が優しく縁側に吹くと、酒を飲まねば、語れないと言わんばかりの氷雨の姿があり、夜夢は話を聞き、悩むも無言で二杯目の酒を飲み干すのであった。




