氷雨と大牙……大牙と五郎と夜夢の闇2
五郎の構えた刀が、夜夢に向けられる。
「掛かってこいや、雷国は、鳳雷の生まれ……」
「雷国だと……お前……それが本当なら、オラは、本気でやらねば、なんねぇ!」
感情を露にする夜夢の表情と殺気は、戦場で向けられるそれと同様のものであった。
五郎はそれを感じ、剣を構える。
大牙が戻るまでの僅か、と、言うには果てしない一時間程の時間が五郎を襲う。
夜夢に向かって斬り掛かる五郎、異能を使い、体内に微量の電流を流し、反応速度と瞬発力を上げる。
五郎の巨体から、凄まじい加速を帯びた剣が休むことなく、放たれ続ける。
「ウオリャァァッ! ハア、ハア、まだだ!」
狂戦士のような、荒々しい剣を前にした夜夢は、飽きれたように杖を構えると、振り下ろされた五郎の剣の真横から、腹部に杖の先端を突き放つ。
「ぐほっ……ハア、ハア、まだまだ……」
明らかに腫れ上がる五郎の腹部、肋骨も数本はいってしまっているだろう。
それでも、倒れようとしない五郎の姿が夜夢の目の前に存在した。
「なすて、倒れねぇ……すぬ程、いてぇだろうに……傀動なんて、諦めて……普通に暮らせ、御前も、もう一人も……」
「勝手なこと、言ってんじゃねぇ……オレはオレが目指す傀動になるんだよ! 勝手に諦めさせようとするんじゃねぇ!」
五郎はそう言うと、力尽きるように、その場に倒れ込む、夜夢も終わりであろうと考え、完全に意識を失わせる為に五郎に近づく。
夜夢は次の瞬間、慌てて五郎から離れる。
五郎の側には吹き矢の針が輝き、夜夢は、僅かでも回避が遅れていたら、命中していた事実に驚きながらも、大牙の位置を確かめるように杖で地面を叩く。
しかし、大牙は川の流れに向かって、石を投げ放つ、無数の音が反響する最中、五郎に向かっていく大牙。
「五郎さん、遅くなってごめん。直ぐに逃げよう」
「……ハア、ハア、馬鹿言うな、最大の好機じゃねぇか……鎖を貸してくれ、あの女に、一泡吹かせてやるからよ」
五郎は鎖を確りと握ると、夜夢のたっている位置を確認する。
大牙も五郎のやろうとしている事を直感的に理解すると吹き矢を夜夢の背後に向けて、連打する。
夜夢が軽々と吹き矢を躱しながら川に近づいた瞬間、大牙は恐怖を振り払うように駆け出していく。
五郎は瞬きをせず、一瞬の隙を見つけるように目に神経を集中させる。
大牙が、夜夢に弾き飛ばされた瞬間、五郎は鎖から川に向けて、体内の電流を放出する。
「ひぎゃぁぁぁ……やっだな……!」
夜夢が五郎の方角を向いた瞬間、数本の吹き矢の針が夜夢の体に命中する。
その場に倒れ込む夜夢の姿を確認すると、大牙は腰が抜けたようにその場にへたりこんだ。
「よっしゃあッ! オレ達の勝利だ!」
動けない体で拳を握り、喜ぶ五郎、大牙は直ぐに震えたままの体で、夜夢の元に向かい、川から離れた位置まで引っ張っていく。
本来の目的は殺し合いではなく、夜夢に協力して勝つことであり、二人は最初の条件を見事にクリアした。
意識を取り戻した夜夢は、後日からの修行について、朝に語ると伝えるとその日、三人は樹海の小屋で眠りにつくのだった。