氷雨と大牙……大牙と五郎と夜夢の闇
大牙と五郎の二人による協力、それは、互いを確りと理解してこそ成し得る事が可能であり、互いを知らな過ぎる二人に取って、重大な問題点であった。
心眼の夜夢から逃げるように隠れる二人、当然だが単体攻撃に対して、夜夢は確実に潰しに掛かっていく。
大牙は五郎に向けて、手足を使い、合図を行う、頷く五郎。
互いに確信を得るように頷くと、大牙が動き、夜夢に対して最初の一撃を食らわせようと吹き矢を放つ、それと同時に五郎が剣を振るうと、大牙は、考えていた。
しかし、五郎は、木の上に移動しており、夜夢の頭上から奇襲をかけたのである。
当然、軽く回避され、地面に落下する五郎、その時点で勝負は決まっており、夜夢は頭を抱えながら、首を左右に振る。
そんな時、首に目掛けて、大牙が再度、吹き矢を放つ、一気に駆け出すと片手には小刀が握られている。
「まだまだ、はあぁぁッ!」
「チッ、小賢すう、悪足掻きすんな!」
慌てて吹き矢を弾き、そのまま、回避しようとする夜夢、その細い足が力強く掴まれる。
「おわ、と!」
「だはははッ! 捕まえたぞ!」
夜夢を確りと捕まえた五郎の腕に更に力が入る。
しかし、夜夢は、普通なら終わりの状況であっても、敗北を思考から除外し、本来の生き残る戦いを実戦する。
「嘗めすぎだ! オラは、氷雨様に、御前さん達を任されたんだ……是が非でも、強せな、役に立てねぇ!」
足を掴まれ、宙吊りにされた状態の夜夢は、即座に片足と体を動かし、足を掴む五郎の腕に反動だけで到達すると、小指を両手で下に向けて、引っ張りあらぬ方向に曲げる。
「ぐあッ! く、いてぇぇ!」
地上に足をつけた夜夢が即座に取った行動、大牙の攻撃を回避する為、地面に拳を叩きつけたのだ。
音が地を走り、空気を震わせ、駆け込んでくる大牙の姿を夜夢の世界に鮮明に映し出す。
それを理解していても、歩みを止められぬ大牙、夜夢の先を行こうと、無我夢中で足をひたすら、前に前に出し続ける。
「オリャアァァッ!」
全力で放たれた渾身の一振り、しかし、容易く回避され、その直後、後頭部に走る痛み、突き出された拳により吹き飛ばされる大牙。
無慈悲にして、無情、圧倒的な力は、絶対的な壁となり、大牙と五郎に襲い掛かる。
拳を開き、腰に掛けていた収縮させた杖を、手に取りると軽く下に向けて一振りする。
真っ直ぐに伸びた杖を、夜夢が一回転させ、地面に先端を振り下ろす。
「御前達……少しだけだが、強めに教えてやっから、死ぬ気で来ねぇと、無駄死にすっと」
大牙と五郎の額から、汗が吹き出し、夜夢から視線を離してはいけないと即座に二人は気づかされる。
体の小さな、盲目の女性を相手に男二人が動けず、後退りすらしている。
全身を包み込む恐怖がまるで、鎌を手にした死神のように心ごと、闇に引きずり込むような感覚が二人を襲う。
「おいおい、コイツはオレ等が、敵う相手じゃないぞ……どうする大牙」
「わからない、五郎……あのさ、足が凄く震えてるんだ……さっきまでは大丈夫だったのに……」
大牙の全身が小刻みに震える様子を確認すると、五郎は突然、大牙を掴み、抱えると、全身に異能を発動する。
「耳を塞げ、大牙……行くぞ! ふんぬぅぅ……ウオォォォ──ォォオッ!」
耳を塞いだ大牙の鼓膜すら、破けんばかりの雄叫びが五郎から発せられる。
それと同時に大牙を抱えたまま、走り出す五郎。
「え、ええッ!」
「舌を噛むぞ、黙ってろ、今は逃げるが勝ちだ!」
突然の雄叫びに、夜夢の反応が遅れる。
直ぐに杖で地面を叩き、五郎の位置を確認しようとする夜夢、しかし、五郎は即座に異能を足に集中させると地面を蹴り、宙を移動する。
夜夢の動きが止まり、五郎が着地すると動き出す。
再度、五郎が地面を蹴り、宙を移動すると、大牙は慌てて明後日の方向にある木に向かい吹き矢を放つ。
木々の葉が、“ガサガサ”と音を発てた瞬間、夜夢が其方に反応する。
次は、何もせず、ただ着地した瞬間に、別の位置に吹き矢を放ち、位置を誤魔化す。
かなりの距離が取れたと五郎が判断すると、川に向けて移動する。
川を挟むようにして、夜夢を待ち構える二人。
「此処が正念場だ……大牙、川の先にお前が住んでいた山に繋がる出口がある、意味はわかるな……いざとなったら、オレが時間を稼ぐからな」
「でも!」
「餓鬼は素直に大人の言うことを聞けって……あの女はマジにヤバイ奴だからな、死んだら意味ねぇからな」
五郎の言葉の重さを幼いながらに痛感する大牙。
「オレが時間を稼ぐ、その間に、あの鎖を持ってきてくれ、あれが有れば、なんとかなるからな、頼むぞ」
大牙は涙を流さぬように目に力を込める。
「わかった。俺が絶対戻ってくるまで、やられるなよ」
互いに頷くと大牙は一気に走り出す。
そんな最中、夜夢が川に辿り着き、杖で地面を叩く。
「嘗めてくれたな、オラから逃げれっと思ってる時点で、負けだかんなぁ」
五郎は苦笑いを浮かべるも、静かに鬼斬り刀を構える。




