表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/116

氷雨と大牙……心眼と呼ばれた少女2

 氷雨と心眼の夜夢がどうやって出会い、信頼関係が出来上がったかを聞いた紅琉奈であったが、疑問を感じてか、氷雨に質問を口にする。


()せない、それだと、今も夜夢が強い理由と、心眼と呼ばれる理由になってない」


「お、よく気遣いたな、心眼の夜夢がその名で呼ばれるようになったのも、夜国での戦いだ、紅琉奈? もし、戦場で視力を失ったら、どうする……」


「どうするって、死ぬまで戦う!」


「そうか、だが、眼に見えるすべてを失うと言う事は、言葉にするより、遥かに辛い状況なんだよ」


 視力を失った夜夢は、命を助けられた事実に、感謝と喜びを感じながらも、僅かな間だが後悔した。


 完全な暗闇、嗅覚から伝わる戦場の焼ける臭い、耳からは、何処からか分からぬ、足音と叫び声が頭に向けてこだまする。


 精神と心を砕き、更に踏みつけるような現実を易々と受け入れられる者は少ない。


 そんな初めて感じる底知れぬ恐怖と不安を、一瞬で集めたような現状に置かれた夜夢の心は、崩壊寸前であった。


 しかし、氷雨は夜夢に、怠そうに声をかける。


「お前、死ぬぞ? 戦場にいるんだ、死ぬ覚悟があってだろうが、そんな不細工な顔で死んだら、閻王(えんおう)に笑われるぞ? 最後まで笑って死ぬのも、傀動の勤めだ……ほら、動くな」


 氷雨が取り出したのは、黒地に白い太陽が描かれた手拭いであった。


「炎国で買った物だ、黒地に白い太陽と、全てが逆さらしい……染む間違いだそうだ、間違い転じて、善き柄だ。間違わねば、私が、買うこともなかっただろう、お前も一度の間違いで諦めるな、生きよ」


 夜夢は、後悔した、鬼に視界を奪われた事実を、誰も救ってこなかった事実を、そして、氷雨と言う存在の顔を見れない事実を……


 そんな、氷雨に傷だらけになった最後の二角が襲い掛かる。


 他の傀動との戦闘から逃げていた二角は、背を向けた状態の氷雨、大量に流れる夜夢の血の臭いを嗅いで、氷雨が手負いであると判断したのだろう。


 死ぬ気で襲い掛かる二角、当然だが、氷雨も、夜夢も、その存在に気づいていた。


 しかし、その背後から、更に逃げてきた無鬼の群れが氷雨と夜夢に向けて、襲い掛かったのだ。


 そうなれば、先に襲い来る、無鬼から相手をする事となる、それは氷雨にとって、予想外の展開であった。


「ははは、本当に面倒な日だッ! 本当なら、炎国の温泉と酒を楽しみにしていたが、無駄に汗をかかされる!」


 氷雨の息が次第に、荒々しくなると、無鬼達の血が流れ嫌な臭いが周囲に放たれる。


 その香りに群がるように、集まり出す無鬼達、更に疲弊する氷雨の様子に夜夢が声をあげる。


「もういい、もうええから、早く逃げて!」


「黙れ……訛り娘……気が散る……ハア、私が助けると決めたんだ。黙って私に助けられろ……あと、動くなよ。ハア……ハア……其処以外に行かれると、流石に護れないからな」


 氷雨の言葉に周囲を完全に囲まれている事実を夜夢は理解する。


「なすて、なすて! オラを見捨てれば、済む話だったのに!」


 叫ぶ夜夢の声を捩じ伏せるように氷雨の激が飛ぶ


「黙れッ! うっせえ! 黙れ、お前を助けて、お前に酒を奢らせる! それでチャラだ、泣き言はウザいんだ、最後まで笑ってろ……な?」


 夜夢は初めて、生きたいと願い、生きて欲しいと思う人に出会った。


 力を望んだ、世界を怨み強くなってきた少女は、目の前の声の主を助けたいと、願いながら……


 傀動としての異能が開花する。


 氷雨の背後から、まるで、水滴が水に落下して、波紋を拡げるように、静かな音が夜国全てに鳴り響く。


「オラは、アンタ様に生ぎて欲しいッ! 一緒に歩みてぇんだ! 名前すらすらねぇまま、死なせねぇ!」


 次の瞬間、氷雨を含む夜夢の視界であった範囲に入る全ての存在から光が失われる。


 それと同時に、氷雨の嗅覚と聴覚がすべてを氷雨の脳に理解させる。


 氷雨の視界が復活した瞬間、其処には、夜夢と大量の無鬼の屍と二角の角がへし折られた屍が黒い霧に変わっていく不思議な光景が広がっていた。


 氷雨は、言葉を失うと同時に額に手を当て笑い出す。


「あはは、ヤバイなお前、本当に強いんだな?」


 夜夢は氷雨の声を聞き微笑むと、氷雨の頬に触れた瞬間、異能を初めて発動した疲れから、肩にもたれるようにして意識を失う。


 闇を造りだし、その中で、すべてを見透し、戦う事から、心眼の二つ名で、呼ばれるようになるが、夜国では夜夢の存在を快く思うものは少なかった。


 結果として、夜夢は、夜国を去る道を選択する。


 そして、手土産の酒を握り締め、氷雨の元を訪ねたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ