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氷雨と大牙……心眼と呼ばれた少女

 雷動一派との、試合が強制的に決めた氷雨と四人、多くを語らないままに、一ヶ月後となった。


 その間、氷雨は、嫌がる紅琉奈を連れて、一ヶ月の間、五人分の鬼狩りを行う。


 傀動の見習いという立場から、正式な傀動になった大牙と紅琉奈には、最低限のノルマが与えられている。


 傀動見習い、もしくは、新人傀動には、一月に五体の討伐、もしくは、発見を師である存在に認めてもらい、老師衆に報告するという構図が出来上がっている。


 ただし、此れはあくまでも、形でしかない。


 氷雨は自身の管理下となった三人の新米傀動の大牙、紅琉奈、五郎の討伐目標である、計15体と氷雨、心眼の討伐分の4体の鬼合わせて、19体の鬼を討伐する為に雷国へと移動していた。


「氷雨より、大牙と居たかった……ワタシと大牙を引き離すなんて、氷雨は鬼だ!」


「鬼はお前だろ! それより、紅琉奈よ。大牙の力になりたいなら、今は耐えろ……近くに居すぎれば、お互いに強くなれぬ時もある。一ヶ月だ、我慢せよ」


 頬を膨らませながら、軽く外方(そっぽ)を向く。


「それより、頑張らねば、大牙が、苦しむことになるぞ? 紅琉奈……何せ、大牙と五郎を預けた相手は心眼の夜夢(やむ)だからな……出来れば、週一で様子を見たいしな」


 氷雨の言葉に対して、不安を表情に出す紅琉奈。


「どういうこと? あの心眼(布被り)は、そんなにヤバイ奴なのか?」


「布被りか……奴は眼をやられている……本来の景色や表情はわからないだろうが、人並み外れた聴覚を使い、心音と音を反響させる事で、周囲を即座に判断する」


 説明を聞いた紅琉奈は、そんな相手が何故、危険なのかが理解出来ずにいた。


 しかし、氷雨の説明は更に続いていく、心眼の夜夢とは、本当の名ではなく、その戦闘からつけられた通り名である事実を知らされる。


 心眼の夜夢は、名無しの傀動として、六国の一つ、夜国(やこく)で、力を発揮する。


 鬼により、村から逃げた孤児であり、人の優しさを知らぬままに、夜国の傀動に道具として、使われる為に拾われ育てられた少女であった。


 夜国の傀動は、犠牲を出しても、敵を完全に駆逐するという戦い方であり、身分や地位等は、優先されない。


 だからこそ、夜夢は、師匠であった男や、兄妹弟子が目の前で鬼に食われようと助けずに、鬼を殺す事を最優先に戦い続けていた。


 次第に夜国の悪夢として、名無しから、夜夢と呼ばれるようになる。


 そこからも、無言で鬼を葬る姿は夜国の多くの新米傀動達の目標となっていく。


 そんな最中、夜国を震撼させる出来事が起こる。二本の角を有する『二角』が三ヶ所に現れ、更に『三角』の侵入を許してしまったのだ。


 三角の存在は、多くの夜国内にいた傀動衆の命を奪う事となる。


 夜国の上位傀動達が、別の三角を討伐する為に国をあけて、三日程の出来事であり、夜国は鬼により、一晩で崩壊の危機を迎えたのであった。


 そんな夜国の状況を理解したように、無鬼の群れが夜国に雪崩れ込む。


 隣国であった雷国は、夜国の状況を把握すると、国境に傀動を大量に配備し、救出ではなく、国境に近づくすべての存在を葬るという、暴挙に出たのだ。


 反対側の炎国は、即座に救援と討伐部隊を夜国に向かわせる為、炎国内に滞在していた他国の傀動にも招集をかける。


 それこそが、心眼の夜夢と氷雨の出会いに繋がる。


 炎国の傀動衆と、氷雨を含む他国の傀動が動きだすと、その流れに雷国も動きを見せる事となり、夜国に多くの傀動が集まる事となったのだ。


 氷雨が夜夢を発見した時、既に、二角を一人で討伐するも、両目から血を流し瀕死の状況であった。


 氷雨は夜夢に尋ねる。


「生きてるか? 死んでるなら、助けないが、生きたいか?」


 夜夢は、その言葉に苛立つも、何故か、笑ってしまっていた。


「オラは、死ぬんかな……本当に、つまんねぇ、生きざまだったなぁ……」


「はぁ、答えになってねぇな、面倒な奴だ。死にたいなら、勝手にしろ……と、言いたいが……本当に面倒臭い連中だな」


 瀕死の夜夢を狙って集まる無鬼の群れ、氷雨は、遣る気のない溜め息を吐く。


「目の前で、死ぬなよ、死に損ないが死んでも私のせいじゃないが、寝覚めが悪いし、酒が不味くなるからなァッ!」


 その日、氷雨は、無鬼の屍を積み上げる事となる。


 それと同時に、夜夢は、人生で初めて、道具ではなく、人として救われた事実に涙を流したのだ。

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