氷雨と大牙……紅琉奈と氷雨、うどん屋の無様な男
朝の太陽が完全に顔を出す頃、小屋に戻ってくる氷雨と紅琉奈。
巨大な猪に、熊といった多くの獣を互いに狩り、庭に並べていく。
引戸を開く紅琉奈と氷雨。
「さあ、大牙、師匠の凄さを教えてやる、外に来い!」
「随分と立派な口ですね? 負ける戦いも、最後までやりきる……流石、ワタシには真似出来ない……大牙、よくみて、ワタシの勝ちだから」
互いに譲る気のない、勝負の勝敗が、大牙に委ねられる。
二人に手を掴まれ、外へと、ぐいぐい引っ張られる大牙の表情が次第に恐怖に染まっていく。
外に並べられた、大量の獲物を目にした大牙は、勝敗に関わらず、驚きを露にする。
獣は、熊に始まり、ウサギや山鳥も揃い、川からは、大きな魚が大量にあげられている。
山菜に冬に実る果実まで、幅広い種類のしょく罪が集められていた。
「こんなにあると、三人じゃ食べきれないよね、あ、麓の村にもって行けばいっか」
大牙の言葉はそう言うと、紅琉奈と氷雨に微笑んで見せた。
内心は、恐怖でいっぱいであり、間違えた選択をすれば、火の粉は、巨大な炎になるだろうと、大牙は理解していた。
しかし、予想外にも、紅琉奈はあっさりとそれを受け入れた。
氷雨も、同様に庭に並べた獲物から、食べる物だけを、雪の中に沈め、他の獲物を縛り、担ぎあげる。
氷雨の体のサイズからは、想像出来ない姿に、大牙は驚愕する。
「氷雨……すごいね、巨大な猪って、一人で運べるもんなんだね」
大牙の言葉に、氷雨は笑った。
「此れは、気道を開いているだけだ、人の本来の力を引き出す、六国傀動衆の秘技の一つだ」
大牙はワクワクしていた。
それほどに、圧倒的な光景であり、傀動と言う存在に魅了されていた。
そんな時、紅琉奈が喋り出す。
「氷雨は、すごい……悔しいが大牙を理解してる」
不思議そうに紅琉奈の言葉を聞く大牙、そんな発言に笑みを浮かべる氷雨。
「どういう事?」
質問する大牙の言葉に、氷雨が笑って訳を説明する。
「山で少し語ってな、お前が、獲物を見て、何と言うかとな、私は村に持ち込むだろうと、言ったんだ」
少し悔しそうな紅琉奈であったが、その顔は清々しい物であった。
山を降り、村に大量の獲物を運び込むと、物々交換が開始される。
大量の酒、米、野菜が交換され、僅かながらに塩と味噌も手にいれる事となる。
村人達も、以前の鬼襲来から、山々に入る事を恐れており、三人の持ち込んだ獲物を喜んだ。
昼過ぎまで、村で過ごしていた三人は、朝餉として、村で、うどんをすすり、山へと戻ろうとしていた。
そんな最中、うどん屋の扉が力強く開かれる。
「此処に、傀動がいると聞いた! ドイツだ!」
うどん屋の客の視線が、三人に向けられる。
「あんたらか、この前は、世話になったな!」
力強く声を張る、筋肉質の背の高い男。
「村にとどまってて、良かったぜ。話がある……嫌とは言わせないぜ! オレの名はッ!」
男が名乗りを口にしようとした瞬間、氷雨と紅琉奈が、目にも止まらぬ早さで動きだし、男の腹部に同時に蹴りを入れる。
「ふがっ!」
無様に、うどん屋の外に引き飛ぶ男。
「遅い朝食を、楽しんでおるのに……」
「大牙と初めての外でご飯なのに……」
「「邪魔するなッ!」」
息のあった一撃が同時に炸裂し、男が外で気絶する。
氷雨は、勘定を済ませると三人は、早々にうどん屋を後にする。
男を放置して、小屋に帰る三人。
小屋に戻ると、直ぐに獲物の解体が始まる。
夕暮れまで続いた、解体作業が終わろうとした時、うどん屋に現れた男が、小屋に姿を現したのだった。




