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氷雨と大牙……紅琉奈の力

 外に歩き出した百仮は、紅琉奈に向けて、剣を構える。


 緊迫した空気が流れる最中、大牙が自身の震える足を強く叩く、そして、氷雨に頭を下げる。


「母様が言ってた。助けて貰ったら、恩はしっかり返せって、氷雨……怖いけど、いってくる」


 大牙の子供らしからぬ言葉に、慌てる氷雨、しかし、その表情は、清々しい程に真っ直ぐであり、止めねばならないと頭で理解しながらも、氷雨の口から言葉を奪いさっていた。


「死ぬぞ……百仮老師は、お前が思うほど、優しい御方じゃないんだ!」


 ニッコリと、笑みを浮かべる大牙は、外に向けて駆け出していく。


 既に外では、百仮の面が般若(はんにゃ)へと、変わっており、両手に刃が握られている。


 紅琉奈は、爪を更に鋭く、太く変化させていた。

 黒い鉄のように輝く、その爪は小刀の刃を太く、長くしたような状態になっている。


 百仮が両手の刃を紅琉奈に向ける。


 風が吹き抜けるように、振り下ろされる二本の刃。


 紅琉奈は、襲われる瞬間に、成人した女性の姿から、十代の少女の姿に変化する。


 身に付けていた着物すらも、形を変えていく、百仮の放った刃が、着物の袖に触れた瞬間……


 ガキンッ! と、激しくぶつかる金属音が、鳴り響く。


 回転するようにして、舞う姿は可憐にして美しく、一舞ごとに、風が舞い上がり、華やかさを増していくようであった。


 百仮の斬撃を受け流しながら、次第に、剣に合わせて、袖を当てていく紅琉奈。


 振り下ろされた刃が、袖を滑り、更に角度を変えて、振り上げられる。


 強靭(きょうじん)な力で振り上げられる刃が、美しくも凶悪な着物の袖に押し戻されていく。


「グヌヌヌ……!」


 歯を食い縛るように声をあげる百仮。


 紅琉奈が、完全に腕を振り上げ、互いに距離が開く。


 その僅かな隙に、大牙が中央に飛び込んでいく。


「紅琉奈ッ! 百仮さんもやめて!」


 大牙が駆け出したと同時に、百仮と紅琉奈も動き出していた。


「其処を退けッ! 小僧!」


 百仮の声が響く、既に間に合わないであろう、速度で切り出される両者の一撃……駆け出す氷雨、全員が一ヶ所に集まり出した瞬間、紅琉奈が覚悟を決めたと言わんばかりに加速する。


 大牙を自身側に引き込む、紅琉奈、百仮に背を向ける形になった瞬間、紅琉奈は笑みを浮かべ、泣いていた。


「え……!」

「……!」


 大牙、氷雨は、紅琉奈の表情を目の当たりにしたその時だった。


 紅琉奈の片腕が黒い鋼の盾のように形を変化させる。


 百仮の一撃を何ら問題なく、受け止めると、悲しそうな表情で、大牙を見つめる。


「大牙、嫌わないで……ワタシは、力になりたい……ワタシの力は不気味だから、嫌われたくない」


 涙を流す紅琉奈の、もう片方の腕が漆黒の刃に変化する。


「お前のせいだ、大牙に嫌われたッ! お前がつまらない事をするからァァッ!」


 百仮への怒りをぶつけようとする紅琉奈、身構える百仮、しかし、そんな緊迫した空気のなかで、紅琉奈の着物の裾を掴む大牙。


「紅琉奈……さん、俺は別に紅琉奈さんは、嫌いじゃない……でも、俺、鬼を退治する傀動になるんだ……だから、本気で俺に力を貸してくれるなら、一緒に傀動になってほしいんだ」


 その瞬間、紅琉奈は、頷くと、大牙に抱きついた。


「大牙が、ワタシを必要としてくれた。ワタシ、頑張る」


 純粋な笑みを浮かべる少女の姿をした紅琉奈に、百仮と氷雨は驚きを露にする。


 先程までの殺気は消え去り、無防備に百仮に向けられた背中、しかし、百仮はその背中を斬る真似はしなかった。


 それは、甘さではなく……位置でも倒せると言う、確信が持てたからである。


 静かに大牙を見つめる百仮は刃を鞘に収めたのであった。 

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