氷雨と大牙……風鬼襲来、鬼に抗う鬼……その2
紅琉奈の言葉に、風鬼は起き上がると同時に苛立ち、腹部の大穴を開くと、物凄い勢いで周囲すべてを飲み込むように内側に風を吸い込んでいく。
風鬼の両手が前に伸び、結界内部に渦を作り出す。
百仮と氷雨の動きが完全に止まる、紅琉奈は大牙を護る為に移動した後、その場に動きを止める。
風鬼の作りました渦が、次第に勢いを増す中、氷雨が声をあげる。
「おい、鬼女! 紅琉奈と言ったな、大牙を守りたいなら、力を貸せ! お前が私達を攻撃するな! そう約束するなら、私達が、風鬼を伐ってやる!」
氷雨の提案に、驚く百仮であったが、それを止めようとはしなかった。
「確かに、風鬼の相手をしながら、あの鬼々の相手など、出来ぬか……く、厄介、だが、仕方ない」
返答を待つ二人、しかし、紅琉奈は大牙を片手に抱えた。
「なぁ、あの鬼女っ! これじゃ、最悪の展開じゃないか、アア! クソが」
「いや、コイツは好機じゃ、少なくとも、大牙の気は感じられる……あの鬼々が離れるならば、風鬼を即座に斬るのみ、よいな!」
百仮の言葉を聞き、氷雨は頷く、それを理解したように、紅琉奈は大牙を抱えて、勢いよく、結界をぶち破り、村から放れていく。
いつでも、逃げられたと言わん、ばかりの行動に苛立つ氷雨であったが、その怒りを刃に込める。
瞬時に百仮は、『風』の字が刻まれた、三角の鬼の仮面を装備し、両手を合わせる、と、上下に左右の腕を捻りながら、力強く円を描く。
風鬼の作った渦の内側と外側に、左右真逆の渦が作り出さていく、瞬く間に風鬼の渦が飲み込まれて掻き消される。
「ちょっと……な、なんなのよ! さっきまで、反撃すら、まともに出来なかったじゃないの!」
力が力で捩じ伏せられると、風鬼は叫ぶように慌て出す、しかし、既にそれすら、無意味な時間とかしていた。
刀を握る氷雨、風が止むと同時に、風鬼の遥か頭上に飛ぶ、宙を舞うようにして、太陽を背にすると、一気に刃に振り下ろす。
「喋るな、時間の無駄だ! いいから……消えろッ!」
「そんな、待ちなさいよ、ちょっと、ま、ヒギャアァァーーーーッ!」
一撃で風鬼を切り裂いた氷雨は、慌てて、大牙と紅琉奈が、向かった方角を睨みつける。
「老師、今すぐに追いましょう! 此のままでは、大牙が!」
「落ち着けッ! 冷静にならねば、見える物も見えなくなる、傀動であれば、尚更のこと、立場をわきまえよ!」
即座に百仮が、大牙の気を捜し始める。
結界が完全に消えた瞬間、神社の周りは、村に鬼が現れたと騒ぎになっていた。
更に、番兵が百仮と氷雨の前に駆け寄る。
そして、慌てた番兵が、風鬼を追っていたであろう、傀動が村の入り口で、血を流し気絶している、と、傀動である二人に報告する。
「あの……鬼女ッ! やりやがったわね!」
そんな騒がしく成り始めた頃、百仮が大牙の気を発見する。
大牙の気が見つかった先は、氷雨と大牙の暮らす、修山であり、村の騒ぎをおさめるように、番兵へと伝え、村を後にしたのだ。