氷雨と大牙……風鬼襲来、鬼に抗う鬼……その1
大牙に抱きついたままの、紅琉奈を前に、再度、剣を構える百仮。
氷雨も、それに続き、剣を構える。
「小僧、なんと愚かなことを……氷雨、いざとなれば、儂がやろう……お前には辛いだろうからな」
百仮の言葉の意味を理解して、氷雨は無言で頷く。
氷雨が、先手を取ろうと駆け出す。
タイミングを合わせるように、紅琉奈が動き、氷雨の一撃を受ける瞬間に体のサイズを少女から大人へと変化させる。
「貴様のせいで、大牙を……赦さん、鬼がッ!」
氷雨の叫び声が響いた瞬間、紅琉奈は視線を結界の天井に向ける。
紅琉奈は、氷雨を無視するように、地面を蹴り、結界の天井に向けて、飛んでいく。
「何を! 逃げる気なのッ!」
叫ぶ氷雨、しかし、結界の外側を目にした瞬間、氷雨と百仮は、目を疑う。
巨大な風船のような姿をした鬼が気配を消したまま、近づいていたのだ。
半透明な姿をしていた、巨大な風船のような鬼の瞳が、ギョロリ、と、神社の中に向けらる。
直ぐに百仮が口を開く。
「あれは、風鬼か!」
氷雨は、即座に大牙に向けて駆け出していく。
大牙は、状況が理解出来ないまま、呆けている。
「大牙、直ぐに逃げろッ! あの鬼々も、風鬼も、私達で、なんとかする……お前は、本当についてない奴だな……」
氷雨が優しく微笑み。大牙の背中を叩く。
立ち上がり、風鬼と鬼々に向けて、視線を向ける氷雨と百仮。
風鬼が結界に触れた瞬間、激しく結界が震動する。
更に激しくぶつかる風鬼、次第に結界に皹が入っていく。
結界が破られた瞬間、紅琉奈の鋭い爪が、風鬼の体に襲い掛かる。
鬼同士がぶつかり合う姿に、呆気に取られる百仮。
風鬼は紅琉奈の存在を邪魔だと、判断すると、腹部に突如、穴が開かれる。
次の瞬間、大量の無鬼が、腹部の内側から姿を現す。
砕かれた、結界の内側に次々に飛来する無鬼達、すべての無鬼は風鬼により、使役されており、額や腕には、風鬼の所有物の証である青文字で『風』の文字が刻まれている。
無数の無鬼が、百仮と氷雨、そして、大牙に向かって襲い掛かる。
その瞬間、風鬼を仕留めようと飛び出した紅琉奈が、大牙に向けて、舞い戻る。
地上に降りた大量の無鬼に対して、爪で斬りかかった。
百仮と氷雨が、無鬼と闘う最中、大牙を抱き締める紅琉奈。
安全を確認するように、大牙に視線を向ける。
無鬼が、紅琉奈と大牙に襲い掛かると、無鬼の顔面を掌で掴み、地面に叩きつける。
「た、助けてくれたの……」
大牙の声に反応する紅琉奈。
「ワタシは大牙の刃、大牙を護る、大牙の力になる」
次々に無鬼が、討ち取られる最中、風鬼の体が次第に縮まり始める。
風鬼の体内から、無鬼が姿を現さなくなると、風鬼は怒りを露にしたように唸り声をあげ、地上に向けて、急降下する。
「なんで、鬼が、人間を護るのかしら? 本当に理解できないわぁ? アタシの可愛い家畜を、こんなに殺して……本当にイライラしちゃうわ……ぐぁ!」
そう語る風鬼に対して、前触れもなく、背後から、紅琉奈の凄まじい蹴りが、風鬼の顔面に命中する。
その動きに誰もが、ついていけず、無鬼を片付けた百仮と氷雨は、唖然として、その光景を目の当たりにした。
風鬼が、よろめいた瞬間、紅琉奈からの凄まじい、爪による斬撃と凄まじい蹴りが連打されていく。
「ワタシは、大牙を怖がらせるお前がキライだ!」
紅琉奈の連撃が止み、吐き捨てるように発言された言葉、それを聞き、風鬼の眼が見開かれ、雰囲気が変わる。
「ふざけるな……人間は餌でしかないッ! 無鬼の分際で!」
そう語る風鬼の腹部に、紅琉奈の蹴りが炸裂する。
「ワタシは人間を食べない。ワタシは鬼を喰らう……お前が、ワタシの餌だ!」




