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氷雨と大牙……鬼々の抱擁、紅琉奈と大牙

 手招きする少女の姿をした無鬼、百仮と氷雨は、慌てて大牙の前に移動する。


「氷雨、どうなっておる! 結界は破られておらんだろに!」


「分かりません、結界を通り抜けたとしか」


 百仮の表情が曇り、額から流れた汗、炎による物ではなく、明らかに無鬼を前にした結果であった。


「こやつは……只の無鬼ではない、抜かるなよ、氷雨よ!」


「はい!」


 (つか)を掴み、片手を(さや)に掛け、身構える氷雨。


 鋭い視線を送る百仮、そんな二人を前に、大牙を見つめる無鬼の女。


「ジャマしないで……」


 無鬼が突然、喋りだすと、百仮と氷雨に緊張が走る。


 生暖かい風が吹き抜けた瞬間、百仮の横を一瞬で通り抜ける無鬼。


 氷雨が、一歩前に踏み出すと、鞘から刃が抜かれ、正面に姿を現した、無鬼に斬り放たれる。


 刃に、斬った感覚は無く、氷雨は、即座に大牙に向けて、声をあらげる。


「大牙ッ! 走れ、ハアァァッ!」


 無鬼が氷雨すらも、無視して大牙に向かっていく、その背中に目掛けて、氷雨の刃が斬り掛かる。


 その僅かな一瞬、無鬼が氷雨に向かい、振り向く、次の瞬間、氷雨の頭部を掴む無鬼の腕があった。


 氷雨の体が、後ろ向きに宙に浮いた瞬間、勢いよく地面に向けて、叩き付けられる。


「グハッ!」


 地面に叩き付けられた氷雨の眼に、大牙の怯える表情が入り込む。


 大牙の表情を見た瞬間、怒りが氷雨の体内を駆け巡る。


 それと同時に氷雨は混乱していた、間違いなく捉えた筈の無鬼が一瞬で攻撃に転じていたからだ。


 しかし、氷雨の行動により、百仮が即座に動き出す。

 百仮の面が、蜘蛛の面に変わる、その瞬間、伸ばされた両腕から、数百の細い糸が神社の庭を覆うように張り巡らされていく。


「氷雨、無事か……こやつは、無鬼ではない、『鬼々(きき)』の『角無し』じゃ!」


 鬼々(きき)……無鬼が、他の無鬼を食らい続けて進化した存在。


 角無し(つのなし)……進化後にも関わらず、角が頭部に現れない鬼、無鬼と違い知能が存在している。


 敵が鬼々である事実に、氷雨の動きが即座に変わる。

 起き上がると同時に、体の一部分を親指で痕が残る程、強く押す氷雨。


「無鬼でないなら、先に言え……大牙が、怯えているだろうがッ! クソ鬼が!」


 鬼々が口を開く。


「ワタシは、名前がない……記憶もない……大牙が欲しい……」


 鬼々から、語られた大牙の名に、氷雨が怒りを露にすると、百仮が面重ねるように、一角鬼の面に付ける。


 一人の鬼を相手に、二人の傀動が迎え撃つ、鬼々は静かに息を吐き、真っ赤な瞳を輝かせる。


 鬼々が、動き出した瞬間、氷雨の刃が放たれる。


 最初の一撃より、更に早く、複雑な軌道で斬りつけていく。


 それを、回避する鬼々の背に、百仮の放った糸が付着する。


 粘着質の糸が鬼々の動きを一瞬、鈍らせた瞬間、氷雨と百仮が同時に刃を放つ。


 氷雨の剣が、鬼々の肩から胸にかけて、刃を振り抜き。

 百仮の剣が鬼々の片腕を切断する。


「ぐあッ! ううぅぅ……」


 鬼々の叫び、次の一撃で全てが終わると、百仮と氷雨が、確信する最中、大牙は胸騒ぎを感じていた。


 胸騒ぎの利用は、鬼々の姿を眼にした時に感じた違和感であった。


 大牙の前に現れた際の姿から、変化がなかったからだ。


 氷雨と百仮の話を思い出し、大牙の全身が震える。


 それを現実にするように、鬼々は、残った片手の掌に口を作り出すと、腰にぶらされていた、巾着(きんちゃく)を掌から体内に吸収する。


 次の瞬間には、空になった巾着が吐き出される。


 鬼々の体が成熟した女性に変わり、切り落とした腕が再生する。


 百仮と氷雨が、驚く間もなく、鬼々の腕の一振りで、吹き飛ばされる。


 蜘蛛の糸すら、飴細工のように軽く振り解かれていく。


 鬼々は大牙の前に立つと、艶っぽく見詰め、淫靡な瞳を向ける。


 美しくも恐ろしい唇が開かれ、大牙に向けて、声を掛ける。


「名をつけてくれ……大牙、ワタシの選んだ、大牙、ワタシに名を……」


 混乱と恐怖に支配され、大牙は声をあげる。


「く、くるな……くるな」


紅琉奈(くるな)……それが、ワタシの名……大牙、紅琉奈……怖がらないで、大牙」


 鬼々の体が更に輝き、成熟した姿から、最初の少女の姿へと変化する。


 動けない、大牙の首に手を回し、抱擁(ほうよう)する紅琉奈。


 唇が触れた瞬間、大牙の頬が赤く染まる。


 それと同時に、紅琉奈の腕に“大牙”の文字が真っ赤に刻まれる。


「ワタシは、紅琉奈、大牙の刃になる存在……」

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