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風国と雷国……4

撤退戦とする雷国兵達の表情はまさに血気に満ち、手に握られた得物は力強く握られ、前進する度に甲冑が擦れる様に音を鳴らす。


前衛は確実に生きて雷国の地を踏むことは叶わないであろう事実を皆が理解しながらも、今食い止めねば撤退する同胞が更に血を流す事実を理解しているからこそ、死して壁にならんと考えていたのだ。


雷国の斥候が敵影を目視できる距離まで接近し身を隠す。

斥候の視界には、黒雷の姿を確認すると先手を取るために仲間に手を動かし合図を送る。


斥候隊が覚悟を決めると剣に手をのばす、しかし、それと同時に黒雷の斥候も彼等、雷国兵を発見しており、先に奇襲を仕掛けたのである。


「ぐあっくそォーーー」

「本隊に早く! うわあああ」


斥候隊の叫び声が周囲から鳴り響きそれは次第に小さく消えていく。


黒雷の面々が斥候の殲滅と逃亡を許さぬ連携で即座に排除すると部隊の背後から馬黄が姿を現し、空に向けて雷砲をうち放つ。


「これでウチらの役目は終わりかな、あとは適当に敵の目を此方に向けさせるよ、いいね!」

「何を勝手に仕切ってんだ! テメェはいつから指揮官になったんだよ」

「銀大の頭じゃ、注意引く前に暴れて終わりで作戦が無駄になるだけじゃん! だから、アタシが代わりに指揮してるんだよ!」

「テメェッ! 少しは反省してると思てたが、やっぱり頭ん中お花畑の糞餓鬼なのはかわらねぇな!」


馬黄と銀大の言い争いに慌てる黒雷の面々、しかし、斥候が全滅もしくは、敗北した事実を馬黄の雷砲で理解した雷国兵は黒雷に向かって一気に迫っていく。


それを見て馬黄と銀大は笑みを浮かべると互いに敵である雷国兵に斬撃と雷砲をうち放つのであった。


戦闘が開始されたと同時に別で廃村へと近づく者達がいた。

大牙、紅琉奈、夜夢、五郎、慶水を中心に黒雷の別部隊からなる30人程の部隊と夜島率いる夜国の部隊であり、左右にわかれて移動を開始していた。

目的は敵陣からの早馬の殲滅と敵の殲滅、反撃並びに逃亡を行おう者は問答無用で始末する。


数時間にも及ぶ戦闘が終わりをつげる……その場にいた雷国兵の殆どが戦闘の中で命を失い、僅かに生き残った兵士達も絶望からか、その瞳は既に亡者の様に変わり果てたものとなっていた。


黒雷、夜国の兵からも少ない被害が出ており、この作戦に参加した約3分の1の人員がその命を散らしたのだ。


大牙達は勝利を手にしたが、それは喜び歓喜をあげ誇れる結果とは程遠い結果になった。


「……馬鹿野郎、なんで死んじまうかな……やっと好き勝手出来るようになったのに馬鹿だね」

そう呟く馬黄の膝の上に頭をのせ横たわる銀大。


それを見てうつむく面々、銀大は後方から来た雷国の増援にいち早く気づき、数名の部下と共に増援部隊に向けて戦闘を開始していた。

その際、数百の敵に囲まれる形となり、敵将を討ち取るも脇腹を剣で斬られ、負傷しながらも残った雷国兵と互角に渡り合ったのだ。


その後、合流した馬黄の部隊により、雷国兵は駆逐され、立ったまま剣を離さぬ銀大を発見する。

銀大の周囲には切り刻まれた雷国兵の姿があった。


「……かってに、殺してんじゃ、ゲホゲホ……ねぇ、馬鹿女……ぅぅゲホゲホ」


「ぎ、銀……大、銀大、生きてたのか! よかった、本当によかった……アンタが死んだと思って、本当によかった」


銀大が意識を取り戻すと馬黄は泣き出し、周りに集まった部下達も喜びを口にする。

その後すぐに応急処置が施され、銀大は廃村から夜国へと送られる事となった。その際に馬黄と黒雷の者達も護衛として一度、風国を離れる事となった。


廃村での戦闘が終結したと同時に他の村や町を拠点にしていた雷国兵達が次々に襲われていた。

百仮と氷雨、風国の反乱軍である羽尾と風連達により村や町が解放されていく。

当然ながら、敵は雷国兵だけではなく、風国軍の兵士もいたが、一部のまともな思考を持った兵士達が軍を離反(りはん)し、反乱軍へと加わる。


村を任されていた領主達が任された領地を放棄して風国城に次々と報告と奪還を求める姿に風国は身動きが取れなくなっていた。


雷国兵への総攻撃から一週間が過ぎ、風国内は内戦状態となっていた。

既に風国に雷国兵の姿はなく、生き残った雷国兵達は皆、夜国に護送され裁きを待つ事と決まった。


また、領主の中にも逃げずに反乱軍と志しを同じくする者も少なくなく、今の風国の在り方に憤りを感じていた領主達が反乱軍に加わると風国全土に王への放棄を断罪を求める声が広がり出す。


そして、旗印として反乱軍を指揮する風見(かざみ)隼人(はやと)の名が国民により口々に語られ、風国王は完全な悪として民衆から怨みの対象へと変化していく。


風国王都は閑散としており、数週間前には雷国と同盟国になった祝いすらしていた事実が嘘のように静まり返り、王都から逃げ出す民が後を絶たない状況であった。


「ワシはここまでか、終わるならば、それも致し方ないか……だが、何故、ワシがワシだけが死なねばならん、雷国の役立たずが! 何とかせねば……本当に……」


風国王は焦っていた、起死回生の一手が見つからず、既に宰相といった知恵を与えた者達はこの世にはいない。自身で思考し、すべてを丸く収める方法を模索する。


そんな最中、王の間に男が慌てて駆け込み急ぎ報告を口にする。


「陛下! 一大事にて失礼致します、王都に反乱軍と思われる一団が接近、更に民衆と思われる者達が……途方もない人数で数は分かりませんが、まるで包囲する様に王都へと迫っております」

「な、な、くっ……何とか蹴散らせ! 兵をすべてぶつけよ! 敵は皆殺しにして構わんッ!」

「敵には民衆もおります、本当によろしいのですか……」

「口説いッ! ワシに反旗を翻す愚かな民衆など要らぬ! 皆殺しにして、その家族に逆らえばどうなるか見せしめにしてしまえ! 生け捕りにした者あらば、生きたまま火を放っても構わん! ワシより大切な命など存在せんからな、よいな!」


怒りのままにそう口にする風国王の姿がそこにあった。


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