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風国と雷国……3

両者の力がぶつかった瞬間、互いの力が拮抗したように他の者に感じさせる。

しかし、百仮の袖は矛を次第に押し切るように押されていく。


「ぐっっ! ヌアッ!」


「苦しそうよなぁ……力ばかりに頼り、本質を見失った者は早々に身を滅ぼすは世の理……若さとは儚いものよなぁ」


百仮は更に力を込めると次第に矛の刃から“メキメキッ”と、音を出し振動するように震えていく。

それは将軍にとって想像しえない状況であり、初めての光景であった。

自身の得物が(ひび)割れる感覚、何が起きているのか将軍は知る由がなかった。

矛が(ひび)割れた理由、それは百仮の吐き出した紫の煙にあった。


全ての金属を腐蝕させ劣化させる百仮の技能の一つであり、百仮の纏う生地は他の技能により、強化されており煙の効力は無効化されている、しかし、将軍の矛はそうでは無い。


そして、矛が百仮が放った袖の一振に耐えられなくなりぶつかった部分が“バリンッ!”っと勢いよく弾け飛ぶ。

弾けた矛の切っ先が将軍の左眼に向けて弾け飛んでいくと、それを一瞬の刹那に感じた将軍は僅かな動作で回避する。


しかし、その僅かな動作が将軍の最後の行動となったのだ、矛を砕いた百仮の袖が将軍の右脇腹から左肩に向けて斜めに振り抜かれ、将軍の胴体が斜めに切り裂かれ“ドシャッ”と、水を含んだ布袋が破裂した様な音を出しながら地面に落下する。

自身が切り裂かれた事すら分からなかったであろう闘志に溢れた表情のまま、雷国の将軍はその生涯に幕を下ろしたのであった。


その瞬間、両者の闘いを静観していた雷国兵達の動きが停止する。

目の前の光景に時が止まったかの様な静けさが流れていた。

そんな彼等も既に止まるという選択を廃止した百仮により、僅かな間に肉塊へと姿を変えていた。


将軍が討ち取られたのと変わらない頃、大牙達も多くの雷国兵を討ち取っていた。

紅琉奈と夜夢の力を借りる事で強化された大牙に雷国兵の操る稲妻は完全に無効化され、稲妻が効かない事実に剣術や槍術のみで対応する雷国兵の姿があったが、大牙達の前にそれは余りに無力と言う他なかった。


「クソがッ! なんなんだオマエ!」

「バケモンが! うわああああ!」


次々と切り裂かれる雷国兵の叫び、紅琉奈と夜夢と一体化した大牙の姿は正しく雷国兵から見れば異形の力であり、稲妻を無効化し、得物の形状を変え、大小様々に変化させながら刃に闇を纏わせる。

戦場でそんな存在と相対したならば、それは悪夢と言う他ない。


その日、その膨大な武力のもとに全てを支配しようとしていた雷国は本当の意味で敗北を知る事となる。


雷国の精鋭部隊1万の内、将軍を含む400近い兵士が失われ、基地内にいた兵士や雷国の者達合わせて3000名近くが拘束される形となった。

その事実に風国国内に無数に配備されていた雷国兵達にも緊張が走る。


各兵団の中でも意見が割れ始めていた。

臨時で廃村に作られた野営地に逃げ延びた副将は即座に早馬を飛ばさせると、風国各地に放った各隊に将軍死亡の知らせを届けさせる。


その後、直ぐに各隊の隊長から使者に対して返答の書簡(しょかん)が渡される。


各隊から帰還した使者が各隊からの書簡を副将に手渡し内容を副将が確認する。

雷国に帰還すべきと考える者もいれば、将軍の仇を討つべきという意見もあり、副将は頭を悩ませる。


そんな副将の下に兵士が報告にやってくる。


「失礼致します。副将殿、此処より三里(さんり)の地点にて、敵影を発見、敵の総数100未満、武装有り、雷国の裏切り者である黒雷と衣服外見が一致、っと、見張りより報告!」


「もう……そんな近くに……くっ、何故こうなった」と、口にする副将が親指の爪を噛みながら目をおよがせる。


しかし、既に悩む時間すらない事実に副将は決断を迫られていた。


「仕方ない、直ぐに出撃用意、その後、この拠点を放棄する最低限の荷物も荷馬車に積んでおけッ! 誰か! 早馬を! 即座に同胞達に伝令を飛ばせ! 作戦続行、難有り、風国にて進行中の作戦、その総てを放棄、生きて雷国へ帰還せよとな!」


敵影が確認された方角を避け、次々に馬に跨った伝達兵が駆け出し、敵影を確認した方角には武装した雷国兵達が得物を手に隊列を組むと前進を開始する。


伝達兵を確実に各隊へと向かわせる為、雷国兵達は士気を必死に上げると「総員、突撃ッ!」と放たれた声に兵士達が一斉に駆け出して行く。



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