風国と雷国……2
怒りのままに放たれた怒号、それを嘲笑う百仮……僅かな静寂、それを撃ち破るように将軍が声を上げる
「かかれっ!」
号令が掛かると同時に雷国兵達が十人一組となり、一斉に駆け出して行く。
雷国兵のすべてが傀動であり、歴戦の猛者であった。
しかし、そんな雷国兵達を前に大牙達は一気に駆け出して行く。
大牙の左右に紅琉奈と夜夢の姿があり、大牙の体内に二人が合流すると大牙の刀が巨大な刃となり力強く振り抜かれる、振り抜かれた刃に夜夢の使う闇の力が重なり漆黒の刃が空を舞うようにして、雷国兵達に襲い掛かる。
漆黒の刃が雷国兵を包み込みと刃に触れた兵士達の体内に刃が炸裂し体を突き破る様に無数の黒い刃が姿を現す。
「ぐあっ!」
「うわぁぁぁッ」
兵士の叫び声がこだまする。
「あまりいい気分しないな、人間同士が殺し合わないといけない戦場なんて……」
大牙の言葉に紅琉奈と夜夢が無言で内側から抱きしめるのを感じた大牙は静かに敵兵へと鋭い視線を向け、大牙は駆け出して行くのであった。
次々に倒れる雷国兵の姿に将軍の顔が怒りに歪み、最初の余裕にも似た強気な表情はそこにはなかった。
「何をしておるかッキサマ等ッ! 敵は僅か、数で有りを得ておる事実を忘れたかッ! 我等に敗北等有り得ないの、雷国の戦士よ! 敵を粉砕せよッ!」
将軍の叱咤が飛び、雷国兵達が長槍に稲妻を纏わせて陣形を立て直す。
「ウォッオォォッ!」
兵士達の掛け声が大地を震わせる。
その瞬間、凄まじい勢いで氷雨が前に出る。その手に握られた刃に氷が纏われると大地に向けて斬撃が叩きつけられる。
突撃していた兵士達の足が氷に包まれ、凍った足が“バキッ”と鈍い音と共に砕け散る。
足が砕かれた兵士達が一人、また一人、っとその場で倒れると倒れた兵士の全身が氷に包まれ雷国兵が完全に動かなくなり、その身がひび割れ砕け散る。
「弱いな……まったく手応えがないな、二角の方がまだ厄介に感じるくらいだな」
そう語る氷雨の姿、そして砕け散った兵士の姿を目の当たりにした兵士達はその足を止めていた。
雷国兵の士気が一気に消え去るのを肌に感じだ将軍が痺れをきらし、前線に向けて動き出す。
「我自ら敵を屠るッ! 行くぞッ! 我に続けぇぇーッ!」
将軍は馬に跨ると側近の兵を連れて戦場に向けて馬を走らせる。
巨大な馬に跨り、矛をしっかりと握り締め百仮を標的と決めた将軍は突撃していく。
「敵将、我が矛の血肉となれいッ! 」
全身の力を矛に集中させると矛が金色に輝き出す。周囲の空気が次第にパチパチッ! と電気が流れ、黄金に輝く鎧からも光が溢れ出す。
癋見の面をつけた百仮は勢いを一切落とすこと無く突き進む将軍の姿に身構える。
「若さよなぁ……しかし、まだまだ青い……青すぎるが故に、未熟者と言うんじゃ……」
百仮の衣服から真っ赤な霧が布を通して舞い上がり、袖が赤く染まり背中には黒い羽根の様な柄が浮かび上がる。
袖が鋼の強度まで強化されると両手を大きく広げ、指に繋がれた鈴を鳴らす様に舞い踊るように将軍の方へとその視線を向ける。
そして、百仮は勢いのままに突っ込んでくる将軍の前に一瞬で移動する。
歩数を突然ずらされた事により、百仮を慌てて振り払うように将軍が矛を斜めに振り下ろす。
そんな豪快にして強靭な矛の一撃を百仮は軽々と回避する。
矛を握っていた将軍の腕を足蹴にする様に肩まで飛んで見せる百仮。
そして、勢いを殺さぬままに将軍の頭部目掛けて百仮の腕が勢いよく振り抜かれる。
一瞬の出来事であった。
将軍が勢いよく吹き飛ばされ落馬すると地面にその身が叩きつけられる。
「ッ! く……まだだッ!」と慌てて立ち上がる将軍は矛を手に立ち上がると両手で矛を握り直す。
その様子を大人しくなった馬の上から見下ろす百仮。
「負けを認めよ……うぬならば、言わんでも分かるじゃろぅて、命は一つ、失うにはまだ早かろう……どしゃ? 認める気になったか?」
「はぁ……はぁ……我等、雷国に敗北はないッ! うおぉぉぉぉーーーッ!」
「力量を知り、尚も諦めぬか、愚問じゃったな……ならば、此方も手を抜かずいかせてもらう……」
「ほざけっ! 我が前に敵はなしッ! 立ちはばかる総ては灰燼に帰すと知れッ! 消えろォォォッ!」
「愚かなり、癋見不変悪鬼暴来依ッ!」
百仮の面が突如、悪魔を思わせる様に口の部分が開き、口から紫色の煙が吐き出されるとそれを両手に纏わせる。
互いの矛と袖がぶつかり合い戦場に鈍い音がこだまする。




