表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/116

村人を夜国へ……4

紅琉奈、夜夢が行動を開始して直ぐ、広場から僅かに離れた位置で巨大な土煙が舞い上がる。

それを合図と言わんばかりに大牙達が見つけた広場と違う方からも複数の粉塵が舞い上がっていく。


最初の土煙、その場に居たのは紅琉奈と夜夢の2名であった。

飛び出してすぐに大勢の兵士が集まる町を紅琉奈は発見していた。

町と言えば聞こえはいいが町の中は閑散としており、町民の姿はなく、兵士達が酒場で酒を飲み、僅かに見える町民達はそんな兵士に対して怯えるように身を縮めている。

兵士達は長くその町に滞在しているのか町民に対して暴力は当たり前であり、酒場には喧嘩であろう怒号が響いている。


そんな町の路地裏で数人の兵士が若い女を囲むようにして道を塞いでいた。


「やめてよ! アンタ達なんか早く町から出ていけ!」

震えながら力強く声を張り上げる娘の姿がそこにあった。


「言うじゃないか……つまり、王への反乱分子って事だよな?」

娘の腕を掴み、睨むようにして笑う男に他の兵士達が笑いながら頷く。


「反乱分子は死罪だっけか……まぁ忘れたが、とりあえず捕まえて調べるしかないな」

いやらしい笑みを浮かべると力任せに娘の腕を引っ張り地面に押し倒す。


「まずは持ち物検査だな、お前ら押さえとけよ!」

男の言葉に他の兵士達が娘を押さえつけると娘は両目に涙を浮かべる。


「ッう、殺せぇぇぇッ!」

「うるせぇッ! 口を塞いどけ!」

娘の口に布が巻かれる。すべてを理解した娘が絶望を感じた瞬間だった、兵士達の1人に向けて力いっぱいに握られた拳が撃ち放たれる。

突然吹き飛ばされた兵士に慌てる他の兵士達。


「なんだお前ッ! 俺達は風国王から命令を受けこの町を守る国軍だとわかってねぇのか!」

「俺達への攻撃は風国王への反乱となる!」


そんな男達の前に姿を表したのは夜夢であった。その拳は未だに強く握られており、普段の冷静な表情は一切なかった。


「構いません……今からお前等が生きて帰れるという思い込みも潰します」

夜夢はそう語ると兵士達を自身の闇に包み込み、視界が無くなった状態から問答無用に拳を突き出していく。

男達が動かなくなると夜夢が娘を起き上がらせる。


「大丈夫?」

「は、はい、大丈夫です、あの……」

娘が怯えたように質問をする。質問の内容は夜夢は何者なのか、そして何をしにきたのか? っと言う当たり前の内容であった。


夜夢は話すべきか、一瞬悩んだような仕草を見せるが軽く説明する事を決める。

風国の王に対して思う所がある事実と鬼の殲滅、民の開放と平安をもたらしたいと言う事実を説明した。


「わかってくれたならば、村から早く逃げなさい……今から此処も戦場になるから」

「……私達に逃げる場所なんかありません、みんな此処しかないから……」

悔しそうに俯く娘の頭を優しく撫でる夜夢。


「明日の朝までに……」っと夜夢は黒雲の事を口にしようとして、それをやめた。


「今だけ離れろ、明日迄でいい、家族や友人だけでも逃げろ、わかったな、じゃないと死ぬぞ?」


娘は話が終わるとその場を離れるように駆け出していく。

夜夢はその場に転がる男達の屍を掴むと闇の中に引きづり込み、何も無かったかのようにその場を後にした。

その後、紅琉奈と合流した夜夢は、一時間だけ紅琉奈に待って欲しいと伝え、苛立つ紅琉奈もそれを了承し、町の内部を遠目で観察する事となった。

時間が限られている中での自身の身勝手な行動に夜夢が若干の後悔をしていると紅琉奈は優しく背中を叩いた。


「夜夢、よく分からないが……御前は賢い! だから、悩むな! 大牙もきっと分かってくれる」

「大牙ならか、確かにそうかもしれない……ありがとう」


一時間が過ぎようとした頃、兵士達がいない畑に向かう通路、そこを数名の人影が移動していく。

荷物らしい荷物はなく、まるで農作業にでも向かうように見える身軽な姿、しかし、明らかに人数のおかしい集団、その中に助けた娘の姿を確認した夜夢の表情は安堵に包まれていた。


「心配の種が無くなったみたいだな」と紅琉奈が口にすると夜夢は小さく頷く。


それから間も無く、紅琉奈は全身の力を片手に集めると巨大な刃へと腕を変化させる。

即座に町の入口で見張りをしていた兵士達に容赦なく切り込んだのである。

町の正面から堂々と放たれた斬撃が兵士達を肉塊に変えると紅琉奈は刃を巨大な鋼の拳に変化させ、騒ぎを聞いて集まりだした兵士に叩きつける。

僅かな間に広がる地獄絵図の様な状況に兵士達が敵襲を知らせる笛を吹く。

それを聞いた兵士の1人が走り出し町の中央に造られた見張り小屋へと駆け上っていく、登りきると鐘木(しゅもく)を握り、慌てて巨大な鐘を打ち鳴らす。

※鐘木・・・トンカチの様な形をした鐘を鳴らす道具


「敵襲ッ!」

カン、カン、カン、カンッ!


それを聞いた紅琉奈は地面を全力で蹴ると天高く舞い上がる。


「五月蝿い……だから、とりあえず潰すッ!」


力任せに巨大な拳を見張り小屋へと振り下ろす、小屋が木っ端微塵に吹き飛び拳が地面に触れた瞬間凄まじい粉塵と土煙が天高く舞い上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ