村人を夜国へ……2
無理矢理に表へと出された反対派の村人達、外で待機していた村人や大牙達からの視線が一斉に集まり出す。
「さて、女、子供でも槍を手に数で勝てると言ったか……なら、証明して見せろ!」
氷雨はそう言うと反対派の男数名に武士を渡すように黒雷の戦闘員に向けて指示を出す。
最初こそ悩むように顔を見合わせた彼等も、氷雨の睨みつけるような視線に対して武器を手渡す事を決めた。
「こんな物を持たせて、何をさせるつもりだ!」
「そうだ、我らは村の代表であり、こんな事をしている暇はないのだぞ」
「そうだ無礼にも程があるぞ!」
反対派の言葉に対して苛立ちを表情にしっかりと出した氷雨は自身の刀を地面に置くと大きく息を吸い込む。
「女、子供が出来るのであれば、キサマら大人は更に成果が出せるのだろうなぁッ! ならば、今、私を討ち取って見せろ! 女、子供が傀動の兵を取れると言うならば、今やって見せろ!」
村中に声が響くように、誰もが聞き逃さぬように氷雨は腹から声を張り上げた。
反対派の村人達は他の村人達により囲まれ、逃げ場がなくなり、氷雨と対戦を余儀なくされる。
氷雨1人に対して、村人から反対派の人間を更に呼び出し、50数人の男達と対決する事になる。
心配そうに氷雨を見つめる村人達に対して大牙と五郎は反対側で武器を握る反対派の村人に哀れみの視線を向ける。
「大牙、合図を出せ」そう氷雨が呼びかけると大牙は両者の顔を見てから試合開始の合図として手をふりあげてから下に向けて勢いよく振り下ろした。
合図と同時に氷雨が駆け出していき、先頭の村人に向くて握った拳を叩きつける。
顎に拳をくらった村人が膝から崩れ落ち、振り向きざまに蹴りが飛ぶ……試合と言うには余りに酷い状況に傍観していた村人達の中には目を背ける者すらではじめていた。
最後の一人が両膝をついて地面に倒れると同時に氷雨が大声で叫ぶ。
「他は居ないのかッ! お前らが言う勝てるを実際に見せろ! 相手は腐っても傀動なんだ……女、子供が束になってかてる? ふざけんなッ! 無駄に死人を出す選択を選んで命をぞんざいに扱うなッ!」
そんな叫びを無言で聞いていた夜島が氷雨の肩に手を置き、その瞬間に氷雨は怒りに握りしめた拳を開き試合が終わる。
風見は夜島に再度深々と頭をさげる。そして、反対派の人間を含め、村人達が夜国に移動する事が決定したのだった。
その日の夜、風見は氷雨達を招き囁かながら食事会を行う、屋敷と言うには小さくも大きくもなく良くも悪くも慎ましいと言う感想を皆が感じていた。
食事会の最中、多くの情報が語られる。
「百仮殿、夜島殿、すべてが終わった後、風国はどうなるだろうか……民達をどう導けばよいのか……」
弱気の発言をする風見に対して夜島が酒を飲みながら口を開く。
「風国がどうなろうと正直に言えば知らん」
「……」
「だがな……民がついてくるなら、王は自信を持て不安を顔に出さず弱音は呑み込め、そして、命尽きるその日まで戦い続けろ」
「民の為に……私は変わらねばならないのですね……」
2人の会話が終わると同時に百仮が発言する。
「国は、民が居れば何とかなるものよ、愚王が腐らせた土地も農夫が耕し、新たな土地には作物が実る、そうなれば国は復活するじゃろて」
そんな会話が交わされ、囁かな食事の席、宴とは呼べぬような微々たる料理と酒を皆が噛み締めながら終わりを迎える。
静かに夜が過ぎていくのであった。




