村人を夜国へ……1
話を聞いてから、夜島に視線を向けた氷雨、そんな向けられた視線に諦めたように首を左右に振る夜島。
「はぁ、わかった。だが、本当にやるのか? 色々好き勝手やりすぎてるんだろうに」
「だからだ、これだけ短い期間に各国を引っ掻き回したのだからな、今更、1つ2つ増えようが、もう気にする気もおきん」
夜国へ亡命させる事が決まると羽尾と風連の2人は安堵の表情を浮かべる。
死者も多く出るだろう事を覚悟していた2人は夜島の即決にも近い返答に感謝の言葉を述べると深々と頭を下げたのだった。
「決まったならば急ぐぞ。とっとと夜国に向けて運ばせる」
「じゃあねぇ、だがお前らが乗ってきた黒雲と白雲の二隻を使ってもギリギリに見えるんだが、本当にいいのか?」
「ん? 何が言いたいんだ」
「予想だにしない事態が起きた際に退路が狭まる事になるぞ? 」
「今更だ、それに見てみよ、大牙達の表情を、逃げるなどと口にする様にみえるのか?」
「・・・違いねぇな、無粋な質問を口にした、だが実際に黒雲と白雲、二隻の雲船を夜国に向けるとなれば風国はともかく、雷国は見逃してくれんだろう?」
そんな夜島の一言に氷雨は鋭い眼で刀を前に向ける。
「敵であるなら倒すのみだ、相手から仕掛けて来るなら、好都合じゃないか」
「あはははははっ! 確かにならば、急ぐか!」
即座に氷雨達は五郎と百姫に提案を話す、最初こそ渋った表情を浮かべる百姫の背中を“バシンっ!”と叩かれる。
ビクッ! と身体を震わせた百姫。
「悩むなよ。もう雷国には恨まれてんだ。なら、苦しむ奴らを助けてやるのが俺達の役目だろ?」
「簡単に言うねぇ、まぁそうだね! なら、今すぐに黒雲と白雲に乗せてやるよ!」
話が決まると村に向けて黒雲と白雲が向かう。
村に辿り着いた黒雲と白雲の二隻、百姫の指示で入口付近の開けた場所に着陸させる。
その様子を警戒するように小さな家々から向けられる視線。
羽尾と風連の2人が先行して村の中に入り、その後、戻った風連の案内で皆が村へと歩みを進める。
村の奥にある大きな集会所、大きいと言っても五十人程度が入れる程度のものであり、氷雨達側から氷雨、百仮、百姫、夜島の四名と夜島の身を守る為、庵時と楽夜坊の二名の計六名が室内に入る。
室内には既に村の人間達が不安そうな表情で待ち構えており、奥座には1人の青年が正座をした状態で氷雨達に向けて頭をさげる。
「御初に御目にかかります……私が此度、皆様をお呼びした風見隼人と申します」
深々と下げられた頭、それと同時に室内にいた村人達も同様に頭を下にする。
「頭を上げられよ、それに此度の一件、風国の未来...…いや、傀動がどうあるべきかを考える時やもしれぬでな」
「そう言ってくださることに感謝いたします」
その後、すぐに用意された席に腰掛ける百仮、氷雨達もそれに続き座り、庵時と楽夜坊は夜島の背後にて立ったままに会話が開始される。
話し合いが開始されて直ぐ、氷雨達は村人達を夜国に移動させるときりだすと室内にざわめきがうまれた。
当然だが、賛成の意見が過半数を超えていたが反対を口にする者も僅かながらに存在していた。
「今、少ない戦力を更に削るなど、それよりも皆で一気に計画を実行するべきであろう!」
「落ち着け、どちらにしても女、子供だけでも助かるなら、その方が良いであろう」
「女、子供でも槍を手にすれば敵を討つ可能性も有り得るだろうっ!」
反対派の意見を耳にして、苛立ちとざわめきが室内に不穏な空気を漂わせる最中、氷雨が立ち上がる。
「今、反対してる奴、表に出よ!」
怒りで握られた拳が小刻みに震える姿に百仮が止めようとするがその動きを夜島が止めに入る。
「百仮老師、流れを見ましょう……どちらにしてもこのままじゃ時間だけ無駄になりますし」
「……まったく、氷雨はまだまだ若すぎるわぃ」
無理矢理に表に出された村人に氷雨は剣を渡すと“かかってこい”と言わんばかりに指を動かして挑発して見せた。




