風国からの提案……5
氷雨は、羽尾の言葉に違和感を感じていた。
王に会わせたいと語るが、それは実力を確かめた後の話であり、最初の時点で、そう語っていなかった事実が氷雨の中で引っ掛かっていたのだ。
「何故、今それを言う、本来ならば、最初に伝えるべき、案件じゃないのか?」
真顔でそう答える氷雨に羽尾は、返答をする。
「実を言えば、風国は今、一枚岩ではないんですよ、前王が死去して数年足らずで、国は荒れ、更に信頼なき王は国の刀となる傀動達が、声を1つにした際、謀反の疑いありと、捕らえる始末……まあ、そんなかんじですね」
「ならば、何故、私達を王に会わすと口にする」
「氷雨様、そう怒らずに、私が会わせたき王は、現風国王では、御座いません、真の国民より、指示されし真王に御座います」
氷雨は動揺を露にする、風国の前王が死に、新たな王が即位したと言う話を耳にしていなかったからだ。
それは、夜国の夜島達も同様であり、皆が困惑する。
「おい、今の話が真実ならば、何故、風国に我等を招いた!」
声を荒げて、羽尾に睨みつける夜島。
「風国はすでに、雷国と繋がりがあり、先に風国の王を捕らえねば、近日中には、雷国へと、報せが届くことでしょう、しかし、現王が、雷国から信用されていないのも事実に御座います」
羽尾が語ったのは、雷国は、あくまでも、風国に動くなと釘を刺している事実と、それに対して、風国は雷国に信用されようと躍起になっている現状であり、話を聞いて貰う為に雷国へと使者を向かわせようとしている事実であった。
氷雨は悩むも、現実を知ることが必要と判断し、羽尾の言う、真王の元に向かうことを決める。
風国の国境から、遠くない荒れ果てた土地に作られた小さな村に案内される氷雨達、其所には貧しい畑が広がり、耕された畑でありながら、作物は殆んどなく、貧困の言葉が浮かぶ。
そんな小さな村の集会場に案内されていく。
室内には、一人の若者が、奥に正座で座り、数人の男達が、左右に座っていた。
氷雨達の姿を目の当たりにすると、正座をしていた若者が、駆け寄り片膝をついて、両手を合わせて、頭を下げる。
「このような、辺境の貧しい土地に足を運んでいただき、感謝致します。私は風蓮、前風王が、血族にして、最後の生き残りに御座います」
風蓮と名乗る若者は、そう語り更に頭を低くする。
「お前が誰であるかは、今はいい、それよりも、本題に入りたい、風国は本当に雷国と繋がっているのか?」
「はい、風国の今の王は、腹違いの兄に当たる人物です、今の風国は、雷国を頼らねば、滅びる程に貧しくなりました。民を救うためにも、御力をお貸し願いたいのです」
民を救い、前王が作った豊かな国を取り戻したいと、口にする風蓮。
そんな言葉を聞きながら、氷雨が鋭い視線を向けて、喋りかける。
「理想はよい、事実を、知りたい。風蓮殿、戦力はいかほどか?」
「はい、此方は総勢、七百が限度、女、子供を合わせても、千に満たない数に御座います」
少し悩むも氷雨は、考えを言葉にする。
「ふむ、ならば、総力戦か……女、子供といったが、死者を増やすな。なあ、夜島よ、その七百と女、子供を夜国に移動できるか?」
「アア? 正気か! そんな事が知られれば、夜国と風国が戦争になるだろうが!」
夜島の言葉に羽尾が声を出す。
「それは、ありません。何故ならば、この地域は……既に見捨てられた土地なのです」
羽尾が説明を開始する。
鬼が動かぬ朝に、現在地の村から更に離れた場所にある無人の村に、見捨て人と呼ばれる口減らしの者達が護送される。
本来はそれで、鬼に食われて終わりを迎える。
風国もまた、雷国、同様に鬼を利用して反乱分子を処分していたのである。
そんな中で、生き残った者達が、更に離れた土地に移動して力を蓄えているのが、現在の村であると明かされる。




