風国からの提案……3
理由はどうであれ、大牙は自分の今の実力を全力でぶつけられる事実に強い興奮を感じていた。
人間相手に本気を出せない事実があったからだ。
そんな大牙を諭すように、氷雨が釘を刺す。
「大牙よ、今から本当の戦場だ。うかれているようだが、命を賭けた戦いだ。油断はするなよ」
真剣な眼差しと、少し強い口調で氷雨がそう口にすると、大牙は座り直し、頭を下に向ける。
「はい!」
普段は砕けた関係に見える両者であったが、真に思う言葉がある際、大牙は弟子として、その言葉を心に刻んでいく。
氷雨もそれを理解しているからこそ、それ以上を口にしない。
大牙の年齢とは似つかわしくない、並外れた、力や理解力が大牙の異能による物だと氷雨も理解していた。
「大牙、お前の異能は、危険すぎる……人生を軸に話せば、全てが敵に成りかねない力だ……振りかざす方向を見誤るな、よいな」
氷雨はそうか足り、話をしていた室内から退室した。
残された面々の視線が大牙に向けられる。
しかし、次の瞬間、大牙の耳に付いていた眼球を思わす、不気味な耳飾りから突如、夜夢が、更に横に置いていた二本の刀の一本が紅琉奈となり、左右に腰掛ける。
「大牙、安心して、私が必ず守るから」
「うん、私が大牙を必ず守る」
大牙に向けてそう語る、二人の美女。
五郎が小さく呟く。
「なぁ、慶水……なんで、アイツだけ」
「言わないでください、女々しく見えますよ」
各々の考えが巡る中、雲船は順調に国境に向けて飛行していく。
夜更けになり、雲船の甲板に一人、煙草を加える五郎の姿があった。
「ふぁ~、なんとも言えない気分だぜ」
そんな五郎の背後から静かに歩み寄る人影。
「何を黄昏てんだい? アンタには似合わないよ、五郎」
「ん? なんだ、百姫か……悪かったな似合わなくて、黄昏るくらい、自由にさせてくれ」
百姫に向かい、そう口にすると五郎は静かに煙草を灰皿に押し付ける。
再度、新しい煙草の葉を紙で巻くと側に置かれた見張り用の松明で火をつける。
深く煙を肺に入れ、ゆっくりと吐き出す。
「俺はいつまでも生きられるだろうか、呪いが本物なら、俺は人生の半分を失った事になる」
五郎の不安と弱音が言葉にされた瞬間、百姫が背中を強く叩く。
「痛っ」
「らしくないよ! いつからそんな腑抜けになったのさ! アンタがいつ死ぬかなんて、わからない、だけどね……最後までアタイが見届けてやるから……だから、シャキッとしな!」
頬を真っ赤に染めた百姫の言葉に、動揺する五郎。
「な、なにをいってんだ? バカ野郎、そんな、そんなこと言われたら、余計に死ぬのが怖くなるじゃねぇか」
「アタイだって、アタイだって……アンタに死んで欲しくないんだよ、女に此処までいわせんじゃないよ……五郎、アタイはアンタと生きたいんだ」
静かに両者が見つめ合う、其処から会話がなくなるが、静かな口づけが、答えとなる。
五郎もまた、死ねないと強く心に誓い、雷国にある赤進甲弾流の書物を手に入れ、呪いの解除方法が無いかを探すことを決める。




