風国からの提案……1
夜国とのぶつかり合いから、十日、夜島を筆頭に、氷雨と夜夢から訓練を受ける夜国の武士達の姿が存在していた。
本来なら有り得ない光景であったが、氷雨達の存在はそんな夜国の考え方すら変える程の印象を与えていたのである。
最初こそ、否定的だった者達も、日にちを重ねると、素直に従うようになる。
訓練の内容は簡単な物であり、夜国に存在知る夜城から一番近い山まで走り、指定の場所で待機する夜夢から札を貰い帰ってくると言う物から始まる。
山までの道は、石も多く、足が地面に触れる度に履き物を越えて、足の裏に痛みが走る程である。
そんな道のりを越えて、山の入り口にある浅く巨大な川を歩いて渡る。
濡れた衣服のままに山を掛け登れば、夜夢の待つ開けた山の一部分に到着する。
夜夢は全身を確認すると、問題がなければ、札を渡す。
問題とは、衣服が濡れていない、履き物に泥汚れがないなど、不正をしていないかの確認と言えた。
短い期間での訓練でありながら、その効果は絶大であった。
普段、馬を使い移動する者は、足腰が鍛えられ、普段、馬に乗らない者も、不馴れな足場で的確に移動する術を体に叩き込まれていく。
身分等は関係なく、ただ一人の男として歩む。
その事実が、下級武士には心地よくもあり、下級武士に負けたくないと、上級武士達が泥だらけになりながら、意地を示す。
下級と上級の武士の距離感が縮まり、素直に話せるようになり始めると、雰囲気は更に良くなっていく。
最初こそ、反抗的な者も多くいたが、そんな者達も、次々に氷雨と紅琉奈、更に夜夢と言う、力と恐怖で捩じ伏せられていった。
そんな日々が更に数日続いたある日、百仮を連れて、風国に向かった黒雷の雲船が無事に夜国へと帰還する。
雲船から降り立った百仮は、急ぎ、氷雨達の元に向かう。
百仮の帰還を喜ぶ氷雨達、しかし、予想外の怒鳴り声に氷雨達が驚愕する。
「お前達、鬼を狩らずに過ごしておるが、傀動として、行動せねば、監視がつく……今すぐに鬼を滅してこい」
氷雨達は、雷国で多くの鬼を狩ってはいたが、すべての報告をしていなかった。
更に言うなれば、五郎と大牙は既に、三日もすれば監視対象となると百仮は口にする。
作戦結構前に、詳細を明るみに出すわけにはいかないと、皆が悩むが、結論は簡単であった。
大牙が皆の考えを言葉にする。
「なら、鬼を狩りに行こうぜ、夜国には鬼が余り出ないから、風国に入れれば助かるんだけどな、何とかして貰えないかな」
そんな呟きに、雲船から、一人の男が地上に向けて飛び降りる。
「とう! と、話はきいたよん、風国に入りたいなら、入れてあげるさ、実に面白い話さね」
そう口を出して来たのは、細身の体に、チャイナ服を思わせる服を纏い、細い眼をニッコリと笑うようにして語る優男のような人物であった。
「おっと、挨拶が遅れまして、私は羽尾と言います、風国から、夜国が信頼に足るかを見極めに来た、使者にございま~す」
そう語ると手を胸の前に移動させ、頭を下げる羽尾。
「さて、どうしますか? 風国としては、鬼か減るのは実に嬉しいですが……大人数で来られるのは、嬉しくないのですよ、危機感が出ますからねぇ……わかります?」
茶化すような言葉に、百仮が咳払いをすると話を割るようにして、口を開く。
「茶化すな、羽尾よ、お前さんの悪い癖たぞ、本来の話に戻すが、今、探りを入れられるのは良くない結果に繋がる……つまり、風国に力を示す事で、協力するか否かを決めるとの事だ」
百仮と羽尾が語ったのは、風国に対して、氷雨達が赴き、二日で風国の満足いく結果を出せと言う物であった。




