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プロローグ

新作を書いてみました。


今までの世界観とは違った和物となっています。御時間がありましたら、読んで見ていただけると嬉しいです。(*^^*)

「はあ、はあ……急いで大牙(たいが)、止まったら駄目よ」


 幼子の手を引きながら林道を必死に走る親子。

 焦るその後方から響く人ならざる者の足音が次第に迫っていく。

白い肌に真っ赤に血走った瞳を輝かせた異形の巨漢、狩りを楽しんでいるかのようにゲラゲラと笑みを浮かべながら、人では持ち上げられないであろう巨大な棍棒を振り回し親子に迫っていく。


 幼子に向けて鋭く伸びた爪が襲い掛かり、母親は幼子を前に引っ張ると異形の巨漢に背中を向ける。

 無慈悲な爪が母親の背着に触れた瞬間、真っ赤な血液が夜空に照らされるように飛び散った。


 母は、力なく幼子を守るように踞る。


 笑いながら次第に近づく巨漢は爪に付着した血液を舐めとる。が、直ぐに親子から視線を背け、臭いを確かめるように鼻を動かす。


「エサが増えた……オンナのエサ!」


 下卑た笑みを浮かべる異形の巨漢、棍棒を握り直すと、親子からゆっくりと離れていく。


 その先には、銀髪の美しい二十歳くらいの女の姿があり、巨漢は、下卑た笑みを浮かべ、雄叫びに似た奇声をあげる。


「ゲヘヘ、潰して、食べる! エサァッ!」


 勢いよく、棍棒を振り回し、銀髪の女に襲い掛かる巨漢、しかし、勢いよく振り下ろされた一撃をあっさりと躱す、銀髪の女は、次の瞬間、刀を抜くと天高く飛び巨漢の頭上から刀を振り下ろす。


挿絵(By みてみん)

絵 古川アモロ氏


「お前みたいな、雑魚じゃ相手にならねんだよ! 無に還りなッ! ハアァァッッ!」


「ヴァアァァァ……」


 真夜中の静けさを掻き消すように、森の中に叫ばれた絶命の叫び、二メートルを越える異形の巨体が、一人の女剣士の刃の前に無惨に斬られ、大地に吸い込まれるように黒い砂となり、消えていく。


「大丈夫か?」


 巨漢を倒したとは、信じがたい細身の体。銀髪の髪を後ろに束ね、夜の闇に蒼い瞳を輝かせた女剣士がそこに立っていた。


 鍛え上げられた腕に握られた刀。それを鞘に収め、ゆっくりと親子に向けて、歩みを進める。


 銀髪の女剣士の名は、氷雨(ひさめ)


 六国(むこく)の一つ、水国の剣士の家系の産まれで、その類稀な剣の腕と精神力から、若くして六国傀動衆(むこくくどうしゅう)に選ばれた実力の持ち主である。


 傀動(くどう)……異形なる鬼、『無鬼(ムキ)』を屠る為に鬼を斬る存在、鬼斬り刀と呼ばれる特殊な刀を操り、六国に暗躍する鬼を滅ぼす集団であり【六国傀動衆(むこくくどうしゅう)】と呼ばれている。


 女剣士は、あっさりとした口調で終わりを知らせるも、小さく震えて、動こうとしない幼子。

 母親らしき女はそんな幼い、我が子を守ろうと背中から抱きしめるようにして庇い、すべてが終わった後だと言うのに微動だにしない。


「ハァ、ハァ……」


 荒い息と背中に刻まれた深い爪痕が命の終わりを告げようとしていた。


「これも何かの縁だ、墓ぐらいは作ってやる……名を名乗れ、願うなら、その幼子も一緒におくってやるが……」


 女剣士は母親の手に抱き締められた幼子に人差し指を軽く向ける。

 その背中からは、夥しい大量の血液が流れており、誰が見ても助からぬ傷であることは明白であった。

 母は一瞬、歯をグッと噛み締めると優しい声で、幼子の頭をゆっくりと撫でた。


「ハア、ハア、墓はいりません……どうか、この子を……名は……(たい)……」


 我が子を抱き締めたまま、名前を語れぬまま、母親は眠るように生涯に幕をおろしたのだ。


「お、おい……たく……厄介な物を……私は面倒なんて御免だからな!」


 困ったように視線を幼子に向ける女剣士。


「母様、母様! 母様……母様!」


 涙を流し、“母様”と叫ぶ幼子の声が夜の静けさを再度ざわめかせる。


「悪く思うな、チビ助……この世はそんなに甘くないんでな」


 幼子を見捨てる覚悟を決めた女剣士が背を向けて、歩きだした瞬間、木の枝を凄まじい速度で移動する複数の人影が一斉に動きまわる。


「血の臭いにつられてきたか、本当に厄日だねぇ」


 ガサガサ……ガサガサ……


 木々の上から、白い肌の人と言うには、余りに異形な者逹が地面に着地する。


「ガァ、ニンゲン? ガアァ!」


「ニンゲン、ニンゲン……ニンゲン……」


「メシ……メシ!」


 微かに知能があるのであろう、理解できる程度に言葉を発している。

 しかし、それは交流や会話を求める物ではなく、餌を認識する為の言葉でしかない。


 歩みを進めようとした女剣士の足が止まる。


「考えが変わった……餓鬼ッ! そのままだと、母の願いも虚しく、そいつ等に食われることになるぞ」


 女剣士の言葉と姿を現した異形逹の姿に恐怖する幼子。

 手足をガクガクに震わせ、一歩踏み出す事すら難しい状態だった。


「なに震えてんだ! 生きたいと願うなら、私の元まで走ってこいッ!」


 幼子は母と最後の別れを告げるようにグッと母の体を抱き締める。

 女剣士が大声をあげた瞬間、異形逹の視線が母の屍と幼子から外れた。

 幼子が走り出すと、それを確認して、すぐに女剣士も同様に駆け出していく。


 幼子に向けて、大きく口を開く異形の鬼。


 開かれた口が口元から腹まで大きく広がり、幼子を丸飲みに出来る程に巨大であった。

 肉の腐ったような臭いと、生々しい鉄の臭いが次第に幼子の全身を包むように迫っていく。


「エサ、エサ、エサッ! メシッ!」


「はぁ、はぁ、はぁ、嫌だ、嫌だ! 死にだくない、いぃぎだい!」


 幼子の視界に内側から見る始めての閉じられる口と無数の歯。

 地面ごと丸飲みにしようと足元からすくい上げられる始めての感覚。


 幼子が死という本当の意味を全身に刻み込まれる。

 肌が焼けるような感覚が、死を即座に幼子の脳裏に焼きつけ、現実を受け入れさせようとした時だった。


「糞餓鬼がッ! 勝手に人生を決められてんじゃねぇ! 足掻いて、足掻いて、足掻き続けろッ!」


 暗闇に飲み込まれる瞬間、まるで月明かりのように、叫ばれる声と一筋の刃が目の前に存在した世界を切り裂き、光を生み出した。


「生きたいなら、手を伸ばせッ!」


 女剣士の手を掴み、幼子は泣いた。


 声にならない叫び声を聞いた瞬間、女剣士は手を強く引っ張り、自身の体に抱き締めるように包み込むと、片手に握られた刃を振り下ろす。


「キギャアッ!」


 一人の異形が切り裂かれた瞬間、他の異形逹が集まりだす。


「仕方ないな、これも縁だ、この厄介者は私が引き取る。私の者に手を出す奴は、人だろうが“鬼”だろうが切り裂くのみッ!」


 幼子の目に写る女剣士の姿は勇ましく、そして、恐ろしい物でありながら、安心する存在となった。


 すべてが終わり、黒い霧に包まれる女剣士。


「終わったぞ。ついてこい餓鬼。今日からお前は私の弟子だ、死ぬ気で強くなれ、いいな」


「……あ、はい」


 そう答えた瞬間、幼子は意識を失い、倒れ込む。


「お、おいおい……たく、面倒な……起きたら、先ずは精神から叩き直すか……」


 女剣士は幼子を片手に抱えると真夜中の森を抜け、山に向けて歩きだす。


 冬になろうという、肌寒い風が吹き荒れる山道。


 その日から、幼子と女剣士の新たな生活が始まる。


 小さな小屋の中に寝かされた幼子。


 女剣士の気まぐれから、すべてが始まった瞬間であった。

 朝の肌寒い風が開け放たれた引戸(ひきど)から室内に吹き込んでくる。


 幼子の布団を剥ぎ取る女剣士。


「朝だッ! いつまでも寝てんじゃねぇ、糞餓鬼!」


 剥ぎ取られた布団の下には涙を浮かべ、枕に顔を(うず)める幼子の姿があった。


「う、うぅ……」


 頭に軽く手を当てる女剣士。


「はあ……泣くな、今日はお前の母の墓を作りにいく。現実を受け入れるには辛いだろうが、一緒に来い」


 泣きやむのを待ち、幼子を小屋の外に連れ出すと、真夜中に歩いてきた山道を下に向かって進んでいく。


 女剣士の背中には二本の木製のシャベルと革袋が背負われている。


 草木が季節の変化に枯れ始め、落ち葉が足元でザクザクと音を鳴らす。


 無言のまま、山道を二人が進んでいく。


 肌寒い風と白い息が幼子の頬を赤く染める。


「もう少しだ、頑張れ糞餓鬼」


 無言で頷く幼子。


 ある程度、見通しのよい林道に入ると女剣士が幼子の視界を奪うように手を伸ばし、歩みを止めさせる。


「覚悟を決め、呼吸を整えろ……この先に母の亡骸がある。辛いだろうが現実を受け入れろ」


「……」


 静かに頷く幼子の姿を確認し、女剣士は、ゆっくりと視界を塞いでいた手を退かす。


 声にならない叫び声が幼子の口から放たれ、命なき母に抱きつく。


 地面に乾いた血の跡が残り、母の冷たくなった体から温もりが感じられない事実に幼子は更に涙を流した。


「餓鬼……穴を掘るぞ。手伝え」


「穴って? 母様をこんな所に埋めるの!」


 幼子の言葉を無視するように林道の(すみ)に穴を掘り始める。


 その光景に拳を握り、大粒の涙を流す幼子。


「……餓鬼、お前の母は、お前のような親不孝者を命をかけて護ったのか? もしも、そうなら浮かばれんな」


「……」


 無言のまま、微動だにしない幼子。


「親の墓を他人に任せるような奴は、人間のクズだと、思わないか? 大好きな人の為に何が出来るか、考えろ糞餓鬼」


「糞餓鬼じゃない!」


 幼子はそう言うと残されたシャベルを手に必死に穴を掘り始める。


 大人用のシャベルを必死に動かし、泣きながら、必死に掌が真っ赤になるまで、掘り続けた。


 穴が掘り終わると、女剣士は母の亡骸を穴へと運び入れる。


 土を被せる前に幼子に向けて革袋から、小刀を取り出し、手渡す。


「最後はお前の手で終わらせろ……心臓を貫け、いいな」


「な……で、出来ないよ」


 女剣士は幼子に母の亡骸に向けて心臓を貫けと口にしたのだ。


「出来ぬなら、私がやろう……」


 小刀を取り上げようとする女剣士。


 その際に、女剣士は事実を幼子に語る。


 幼子と母を襲った異形の存在は『無鬼(むき)』と呼ばれる鬼である事実と無鬼に殺された者は月無しの夜(31日の晩)に無鬼となり、甦る事実の二つを軽く教えたのだ。



『面白かった』

『この方が分かりやすい』


色々な御意見をお待ちしています。


読んでいただきありがとうございました。(*´ω`*)

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[一言] 夏さん、お疲れ様ですm(*_ _)m 新作ですね♪ これからまた、あとの作品も読んで… 感想、書かせて頂きますね? 相変わらずの多忙と存じます… 更新、お仕事、頑張って下さいm(*_ _…
2020/01/05 18:10 退会済み
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