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と、思っていたのに…。
「…ん? メール?」
三時に休憩を取っていたアタシは、ケータイにメールが来ていたことに気付いた。
開けて見て、思わずオヤツに食べていたショートケーキをふき出すところだった。
「んぐっ!?」
メールを送ってきたのは、白神課長だった!
体を小さくしてメールを見てみた。
それはとある料亭の名前と、時間だけが書かれていた。
…もしかして、この時間に、この場所へ来いってこと?
じょっ冗談じゃない!
でも…行かなかったらどうなる?
あのことを言い触らしは…しない? する?
…分からない。付き合いがほとんどないだけに、彼の本性が分からないのだ。
でも分からないからって、あえて知りたいとも思わないんだけど…。
とりあえず、彼の本心を知る為にも行ってみるしか選択はないだろう。
もしいかなければ…と想像するだけで、恐ろしい考えが浮かんでしまうから。
コーヒーを一口飲み、今日の分の仕事を時間までにどう片付けようか、考え始めた。
夜、アタシは時間通りに指定の場所へたどり着けた。
はじめて来る場所で、ちょっと緊張する。
隠れ家的な料亭は高そうで、アタシは思わず自分の手持ちを確認した。
まあ彼が割りカンとか言い出すことはないだろうけど、念の為に!
…とりあえずカードがあるし、万が一には大丈夫だろう。
深呼吸をして、料亭の中に入った。
料亭は入ってすぐ、受け付けカウンターがあった。
和服姿の女性に彼の名前を言うと、案内された。
奥へと進み、和室の前で女性は戻った。
…う~ん、ああいう女性が彼の隣にいたら、お似合いだろうな。
和服が似合う、落ち着いた女性。
まだどこか浮ついた心が残るアタシにとっては、眩しい存在だ。
まっ、考えたってしょうがない。
彼のことは、実際本人から聞けば良いんだ。
この襖の向こうにいる、彼に。
「白神課長、入りますよ」
「ああ、どうぞ」
襖を開けると、すでに彼はお酒を飲んでいた。
…そう言えば、連休前、アタシと同じぐらいの時間お酒を飲んでいても、彼はケロッとしていたっけ。
酒豪とは恐ろしい存在だ。
「お待たせしましたか?」
「いや、わたしが先に来てたんだ。キミは時間ぴったりだよ」