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仕事は好き。夢中になれるし、頑張れば結果が残せる。
恋愛はキライじゃない。けれど面倒だと思う時が多かった。
仮にも恋人になったのならば、相手に夢中になっている姿を見せなくてはならない。
ある程度は演じることもできる。
だけど…しばらくすれば、どうしても疲れてしまう。
だから別れは早く、そしてあっさりと終わる。
楽だった。変に続くよりも、きっぱりと終わることが。
多分、本気で恋をしてことはないんだろう。
だけどそれでも充分だと思ってた。
恋はいつか終わるけれど、仕事は頑張れば続けられるから。
そんな冷めた性格から、ここ最近じゃまともな恋人も作らず過ごしてきたのに…。
「油断、したかなぁ…」
化粧室で大きなため息。
「ん? 波希課長、どうしたんです?」
ランチタイムを終え、アタシと同じように化粧直しにきた3人組の女性社員に声をかけられる。
「ん~。ちょっと恋愛で失敗したかも?と思ってね」
「えっ! 波希課長でも失敗することあるんですか?」
「信じらんなぁい! 恋愛でも仕事と同じように、上手くやる人だと思っていました!」
「もしかして、フられちゃったんですか?」
「アタシはそんなに器用じゃないわよ。…まあどちらかと言えば、別れに失敗したというか…」
あっさり終わってほしかったのに…。
「あ~。もしかして相手がしつこく食い下がってきているとか?」
「最近そういう男、多いですよね」
「いつまでもしつこかったら、警察に連絡したほうがいいですよぉ」
「そっそうね」
…でもアタシの場合、原因とキッカケは自分自身の責任だったりする。
しかも相手はあの白神課長、滅多なことでは相手にもしたくない。
「波希課長には元気でいてほしいんですよ」
「そうそう。今月も、そしてこれからもずっと一課を負かす為にも、元気でいてください!」
「もしもの時には、アタシ達に頼ってくださいね? 及ばずながら、力になりますから!」
「あっありがとう。その時はよろしくね」
「「「はいっ!」」」
3人の笑顔に照らされて、ちょっと元気を分けて貰えた気がする。
実績ができたおかげで、課の部下達も信頼を寄せてくれるようになったし…。
…だから万が一にも、彼と付き合うなんてことにはなってはいけないんだ。