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まあ確かにいたら、週末に朝方まで飲むなんて真似、できないだろうな。
…まあアタシもそうだけど。
「独り身同士が一夜を共にすることなんて、世の中には万の数ほどある。そんなに気にすることじゃないよ」
「…ずいぶん詳しいんですね」
「まあキミよりは歳を取っているからね」
と言うよりも、こういう経験が多いのでは?
とは言えなかった。
…やっぱりアタシも人のことを言えないからだ。
「じゃあ…昨夜のことは、忘れてくれます?」
そこでやっと、彼はこっちを向いた。
「キミは忘れたいのか?」
「当たり前です! 自分がやらかした失態ほど、抹消したい記憶はありません!」
「ふーん…」
なっ何その含みは!?
不気味さを感じて、思わず後ずさる。
「わたしは忘れたくないな」
「…それはアタシに対する精神的な嫌がらせですか?」
「いや、ただ単にあんなふうに女性に求められてきたことがなくてね。忘れたくないと言うより、忘れられない、かな?」
ぐっさー!
こっ言葉の刃が、胸に深く突き刺さった!
つっつまり、こんな失態をした女性は、彼が生きてきた中では誰1人としていなかったと…。
「まあ求められたこともそうだけど、キミの体も、かな」
「…触り心地が良かった、と言ったら怒りますよ?」
皮肉なことに、痩せていると触り心地は悪い。骨を撫でているようだと、男友達が酔った勢いで言っていたことを覚えていた。
だから触り心地が良いと言うのは、それなりに肉付きが良いという意味だ。
「いやいや、そうじゃなくて」
彼はイスから立ち上がると、近付いてきた。
なっ何かとんでもない身の危険を感じる!
けどこのバスローブ姿では、外に出られない!
戸惑っている間に、腕を捕まれ、ベッドに投げられた。
「なっ!」
その拍子に頭に巻いていたタオルが解けて、二の腕まで伸びた髪がシーツに広がる。
「いつも強気でバリバリと仕事をしているキミからは想像がつかないぐらい、魅力的で扇情的だったよ」
そう言ってアタシの髪を一束手に取り、口付けをした。
この姿の方が、普段の彼からは想像がつかない。
「あの、でも、ホラ。お互いの立場がありますし、ね?」
だからアタシは必死に止める。
この雰囲気はマズイ、かなりヤバイ!
「今日から連休で会社はお休み。そんな味気ないこと、言わないでくれよ」