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「そうは言っても…キミ、ずいぶんと落ち込んでいるじゃないか」
「自分のバカさ加減に呆れているだけです」
「まあまあ。まずはキミもシャワーを浴びてくるといい。スッキリするよ」
「そう…ですね」
ベッドのシーツを体に巻いて、とぼとぼとシャワールームに向かった。
彼が先に使っていたせいか、ほのかにあたたかくて、そして良い匂いがした。
あの人の匂い…とぼんやり思ったところで、理性が襲ってきた!
いけないいけない!
たった一晩の相手なら、今までもいなかったワケじゃない。
こういう相手には深入りはダメ。
気持ちを切り替えて、シャワーを浴びることにした。
体を全て洗い終えた後、湯船に体を沈めると、深いため息が出た。
「ふ~」
…思い返してみると、彼は何だかあんまり動揺していないように見えた。
もしかして…こういうこと、前にもあったんだろうか?
確かに歳にしては顔立ちは整っているし、仕事もできる。性格は…ちょっと人を食ったところがあるけれど、そこが魅力的だと思える人もいるだろう。
…でも一番の問題はそこじゃない。
あの人は…結婚していなかったっけ?
と言うか、恋人は?
何せ20も歳の差があると、プライベートなことはほとんど情報が入ってこない。
しかもライバルだと、知りたくもないという気持ちがある。
敵を知るより、己のことの方が大事だと思ってきたからだ。
でもそれもちょっと失敗だったかもしれない。
もし女性の影を少しでも知っていれば、こんな失態はしなかったかもしれないのだ。
「はあ…」
もう、どうしよう?
泣きたい気持ちを抑えながら、アタシは湯船に全身浸かった。
長くおフロに入ったのは、その間に彼が部屋を出て行ってくれることを望んだからだ。
でもバスローブを羽織って部屋に戻ると…。
「やあ、長かったね」
…いたし。
しかもスーツを着て、メガネをかけて、髪も整えて、いつもの見慣れた姿だ。
「白神課長…。部屋を先に出てくださいと言ったじゃないですか」
「うん、でもキミがあんまりにひどく落ち込んでいたからさ。心配で」
窓際に置かれたイスに座り、テーブルに新聞を広げて見ながら言われても、説得力がない。
やっぱり喰えない人だ。
「…昨夜のことは、アタシが全面的に悪かったです。反省しています」
「そんなに深く考えることないのに」
「考えますっ! しっ白神課長に奥さんや恋人がいたら、余計にです」
「そんなのいないから、安心していいよ」
と手をヒラヒラ振ってきた。