アタシとカレ
「んっ…」
ぼんやりと頭が覚醒するにつれ、まぶたが開く。
眩しい…朝だ。
昨夜、カーテンを閉めないで寝ちゃったっけ?
昨夜は…ああ、そうだ。
所属する営業二課が、先月会社でトップの成績になり、上からご褒美(お金)を頂いた。
なので営業二課総出で、飲み会を開いたのだ。
最初は居酒屋で、二次会はカラオケ。
次の日から連休に入るので、みんな大盛り上がりだった。
そして終わる頃には、みんなグデングデンに酔っ払ってしまったので、アタシはタクシーを手配したりして、最後まで1人で残った。
アタシもタクシーで帰れば良かったんだけど、すでに外は白くなりはじめて、少し待てば始発も動き出す頃だった。
だから駅まで1人で歩いて行った。
人気が少なく、それでも澄んだ空気が気持ち良かったことは覚えている。
それに営業成績のことで上機嫌になっていたので、鼻歌を歌いながらスキップしていた気がする…。
まあ普段のアタシなら絶対にしないけど、状況が状況だったし、誰もいなかったからやれたことだった。
そしてアタシは…どうしたんだっけ?
とにかくベッドに入っているから、家には帰って来れたんだろう…と思っていたのに。
「目が覚めたかい?」
「んっん~…」
「水、飲むか?」
「うん…」
喉は渇いていた。昨日、お酒を大量に飲んだから………って、えっ?
今、アタシ、誰としゃべっている?
一気に意識が覚醒した!
「だっ誰!」
叫びながら飛び起きたら、目の前には知った顔があった…。
「しっ白神課長…。どっどうして?」
白神邑斗、48歳、男性。
アタシの営業二課とはライバルの、営業一課の課長だ。
一見は穏やかそうな中年男性と言ったところだけど、アタシが営業二課の課長になるまで、会社のトップ成績は彼の営業一課が独占している状態だった。
喰えない人だから、他の課では悪口としてキツネやタヌキと言っていた。
だが同じ営業一課の社員からは、『鬼』と影ながらに言われているらしい。
…同じ課にいなければ、彼の本性は見えないらしい。
いつもはスーツにメガネの姿しか見ていないけど、今はバスローブ姿だ。
メガネもしていないし、髪型が崩れているだけに若く見える。
甘い匂いがするから、きっとシャワーを浴びたんだろう…とまで考えたところで、今の場所に気付いた。