9 誘拐された。
俺は、誘拐されたらしい。部屋に閉じ込められてしまった。
周りを見てみると、ここはどこかの山を削ったアジトなのか、地面は土のままだった。部屋の中には数人の人がいた。何故かみんな幼い女の子じないか。これは、もしかして奴隷商に売られる予定の子供たちとかかな・・・。って、俺もそうか。女の子たちは、壁のそばによっておとなしくしゃがんでいる。これは、助けないといけないなぁ。見た感じ、身なりのいい子が多い。たぶん、貴族の娘さんとかが多いのかなぁ。
ここはまだ行動に出る状況ではないかな。とりあえず、いたずらでもするか・・。俺は無詠唱で小さな火の玉を作り出した。ぼっと音がしてあたりが明るくなる。周囲の子がびっくりしていた。俺は、その火の玉をそのままドアノブのところまで動かしてドアノブにくっつけた。つまり温めているわけだ。
しばらくすると、犯人の誰かがやってきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
犯人がドアノブをつかんだと同時に、じゅーーーっという焼ける音がした。うわぁ、熱そうだぁ。とりあえず、俺はドアの近くまでよって後ろ向き、彼女たちを守るための結界を張った。おなじく自然の魔力を補充して存在し続ける結界だ。念のため、中からも外へ出られなくしてある。俺は小さな声でみんなに言った。
「悪い奴を懲らしめてくるから、ちょっと我慢しててね。結界を張ったから外には出られなくなっているけれど、ここにいれば安全だから。必ず迎えに来るからね。」
また、しばらくすると水をかける音がしてドアが開かれた。
「誰だ魔法を使った奴は。」
「はーい、俺です。」
「てめー、こっち来やがれ。」
俺は、手錠を嵌められて、また腕を引っ張られて別の部屋へと連れていかれた。魔法が使えるのに、猿轡もせずにそのまま連れて行くのだな・・、こいつバカか。まぁ、俺の場合はされても無詠唱だから問題ないのだけど。
そして、俺はボスのところへと連れていかれた。俺からすると、ボスのところまで案内させた。
「ボス、こいつ魔法を使いやがって手を火傷させられた。気を失うくらい痛めつけていいっすか?」
ボスは俺の顔を見て、
「何だ男か。構わんぞ。猿轡くらいしておけよ。中々いい男だから顔はやめとけよ。」
はぁ、このボスも今すぐ俺が攻撃魔法を打ってくるとは思わんのかね。子供だと思ってなめすぎなんじゃないだろうか。俺は、とりあえず隣の男の腹を思いっきり蹴った。男はサッカーボールの様に飛んで行った。やばい、強く蹴りすぎたかな?死んでないことを祈る。そして、椅子に座ったままのボスを、落とし穴に落とす。立ち上がった時に首まで土で埋めてやった。誰か来たらいけないので、ドアの前に3メートルくらいの大穴をあけておくと。これで良し。
問題は、ボスの前に座っていた男だった。この男、どこかで見たことがあると思ったら、ギルドマスターさんじゃないですか。どうやら、俺をこの組織に売ったのはギルドマスターらしい。
「くっ、お前は魔法が使えたのか。。竜神族とはいえ子供、抵抗できないと思ったのだが・・。」
こいつとは話もしたくないな。俺は音を通さない四角柱の結界で男を閉じ込めた。結界の中で何かわめいているが当然聞こえない。ドンドンと結界をたたくモーションを繰り返すだけである。その時、ドアが開かれた。まだ仲間がいたのか。残念ながら穴には落ちなかった。仲間がそのまま「何者だー」っと叫んでいる。仕方がないので、俺は扉の前の穴を埋めた。
そのまま逃げられたら困ったけど、律義にこちらに向かってくる。俺は、試してみたいことがあったので俺の周りに四角柱の結界を張った。剣を抜いて走って向かってくる男。そして、結界にぶつかって一瞬ひるむ。俺は、早く切りかかってきてほしいのだが。男はやっと理解して、結界に向かって剣で切り付けてくる。カン!!カン!!キーン!! 俺は、この結界の強度が知りたかったのだ。何回目で結界が破られるのか。カン!!カン!!キーン!!カン!!カン!!キーン!!カン!!カン!!キーン!!。なかなかの強度な結界だ。まだ壊れない。俺は、結界の中で男を応援した。がんばれ。
あれから、数分が経過したがまだ結界は壊れていない。男は諦めたのか攻撃しなくなった。ぎゃーぎゃー喚いている。うーん、こいつの力量じゃテストにもならないと言う事か。仕方がないので、自分から結界を解除して次のテストを実施する。父さんがやっていた威圧である。自分の体の周りには膜のような結界が同じように貼ってあるので、さっきから剣は俺を切ることはできない。同じようにカン!!カン!!キーン!!とはじいている。だんだんと、相手の顔が青くなっているが・・・。まずいな。威圧もしていないのに恐怖されても困る。
俺は、早くテストをしないといけないと思い、魔力を多めに確保するようにイメージしていく。そして、威圧のイメージ。相手に恐怖を与える。範囲はこの部屋の中だけ。強さはショックで死なない程度に強めで。魔法発動!!
すると、魔法が発動した直後、攻撃がやんだ。俺は相手の目をじっと見つめる。じーーーっとみつめる。相手はガタガタと震えだした。俺は相手を軽く蹴っ飛ばした。そのまま敵は起き上がることができないようだ。うん、実験は成功である。
そして、俺はアジトにいる犯人たちをすべて首だけ残して埋めていった。うん、殺さないだけ感謝してほしいものだ。それに、失禁している奴もいて近づくのが嫌だったのだもの。埋めるに限る。もちろん、ギルドマスターも埋めたよ。問題は、どうやって町に帰るかだが、アジトから出てみると町は案外近かった。
娘たちは一緒に森を歩くのは危険と判断したので、俺一人で町へ向かった。
俺は、歩いてリオの門までやって来ると、検問所の兵士たちに事情を話し、宿に戻っているだろう父さんを呼んできてもらった。父さんは兵士を置き去りにしてとんでもない速さで検問所にやってきた。父さんは俺が手錠を嵌められいているのを確認すると、案の定キレた。
「父さん、詳しい話を聞いたと思うけど、まだアジトには娘たちが捕まっている。案内するから助けるの手伝って。」
「わかった。」
うわー怒ってる、怖い。俺はみんなをアジトまで案内した。着くまでに、父さんに誰も殺さない事を約束させた。
「誘拐されたのは、父さんが油断しててアレクを1人にしたからだ。すまなかった。」
なんか謝られた。
「父さんのせいじゃないし、俺が普通の人間に負けるわけないじゃない。ああ、今回の誘拐、俺を売ったのはギルドマスターだよ。あいつが全部悪い。でも、殺すのはダメだよ、ちゃんと裁判で裁いてもらおう。それに、確か犯罪奴隷になるとお金を貰えるんだよね?生活費の足しになるよ!」
「そうだな。」
アジトに着くと、父さんはズカズカと警戒もしないで中に入っていく。そして首だけ出して埋まっている犯人たちを見てため息をついた。どうやら、少しは冷静になってくれたようだ。父さんは1人ずつ腕力だけで引っこ抜いていく。首を絞められる形で引っこ抜かれる犯人たち。首だけちょん切れないだろうかとちょっと怖い。引っこ抜かれた者はそのまま兵士に向かって投げられる。そしてすぐ拘束されていった。犯人が持っていた鍵の束を兵士の1人が奪い取り、俺の手錠を外してくれた。
俺は娘たちが捕らわれている部屋に向かい、結界をといた。兵士たちが保護に向かう。よかった、これでひとまず安心である。父さんのところへ戻ると、ギルドマスターと向かい合って睨んでいた。
「息子が、お前を殺すなと言うのだ。命拾いしたな。息子に感謝せよ。」
そう言うと、父さんは立ち去った。俺も後をついていく。ギルドマスターは恐怖からか、その場で座り込んでしまった。アジトから外に出ると、馬車が数台待機していた。馬車の一台は、たぶん誘拐犯達が使っていた馬車だと思う。そう、俺が連れてこられた馬車だ。俺たちは、保護された娘たちと一緒の馬車に乗り込んでいく。と、その前に言うことがあった。
「あ、兵士さん。俺が誘拐された時に、リオのどこかの門からここのアジトまで運ばれたと思うんですよ。検問所で荷物検査とかしないんですか?もし、検査していても素通りさせていたのなら誘拐組織に加担している兵士がいるかもしれませんよ。」
そう、兵士の中に裏切り者がいる可能性があった。
「な、なんだと・・・。おい、検問所に誰か行かせろ。裏切り者を逃がすんじゃねーぞ!!」
「はっ!!」
兵士さんのリーダーらしい人が、命令した。一頭の馬が検問所まで駆けていく。
俺たちは、そのまま馬車に揺られてリオの町に帰った。その日は、疲れたのでそのまま宿に帰ってぐっすり眠った。リオに着いてからのんびりできていない気がするなぁ。。