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6 馬車での初めての旅

 思えば、俺は前世も含めて馬車での旅は初めてである。竜神の森は木々が密集していて、昼間でも薄暗い。一応馬車が走れるだけの道はあるのだけど、すれ違いは難しそうだ。馬車には1人の商人と、俺と父さんがのっている。馬車を操るのは御者で商人に雇われているらしい。


 父さんは後方を監視しているみたいだが、森の中はまったく動物の気配とか鳥の鳴き声も一切聞こえない。こんなに静かな森は初めてだ。


「父さん、随分と森が静かだけど、魔物とか動物とかいるの?」

「動物はいないかなぁ。魔物はいるよ、動物を食べちゃったのかも。」


「父さん一人で大丈夫なの?俺も魔法で手伝うよ。」

「嬉しいけど、これでも竜神族の男だからなぁ。ひとりでも魔物の相手くらい楽勝だぞ?」


 そうなのか。ところで父さんは武器は何を使うのだろう。戦うところを見たいと思ったけど、怪我したりしたら嫌だからやっぱりいいや。というか、武器らしいものは何も持っていない気がするけど。何処かに置いてあるのか?


 父さんの仕事は鍛冶職人である。鍛冶と言っても武器とかではなく、フライパンとか、やかんとか。日常品の金物なんかを作ってる。そんな父さんが護衛なんてできるのか少し心配だったのだけど、やっぱりこの世界で二番目に強いとされている竜神族は普通ではないのだろう。


 初日は何事もなく、そのまま少し開けたところで野営をした。見張りは商人さんと父さんが担当している。食事は御者さんだ。俺は御者さんのお手伝いをした。俺は、腹いっぱい食べてからぐっすりと眠ることができた。朝起きると、イノシシみたいな魔物が朝食で出てきた。。夜のうちに出てきたらしい。はっきりいって、イノシシと言うには少し大きすぎる。倍以上あるのではないか。


 二日目は何事もなく過ぎ、三日目に盗賊が出た。森にあまり入らないのか、もうすぐ森を出るって時に前後から囲まれた。5人もいる。さすがにこれはまずいのではないか・・。


「と、父さん。5人もいるんだけど。どうするの?」

「まいったなぁ、竜神族に手を出すバカはいないと思ったのだけどなぁ。最近は、ほとんど森からでないから俺たちのこと忘れられているのかも…。」


 おいおい、全然大丈夫じゃなさそうだ。


「アレクー、すまんが後ろの二人、穴でも掘って落としといて。前の三人、先に倒してくるから。」

 そ、そんな簡単に言うけれど、3人に勝てるのだろうか…。


「わかった、無理しないでね。お金払えば見逃してくれるかも…。」

「そんな訳にはいくか、このお金はお前の学費と生活費だぞ。あと、村人たちからのありがたいお金も含まれている。死んでもやらん。あはははは」


 なんか、のんきに笑ってるけど。父さんは、馬車から降りて前方に歩いて行った。てか、武器は?素手で戦うのか??俺は仕方なく、後ろの二人の足元に深さ3メートルくらいの大穴をあける。最近は、イメージも何度もしているせいか簡単に魔法を発動できる。土魔法は畑を耕していたので得意なほうなのだ。


 後ろの二人は、気が付いたら大穴の中で外にも出れなくてわめいている。俺は、父さんの加勢をしようと前に回り込もうとした時、商人さんに止められた。


「ぼっちゃん、辞めときな。返って足手まといだよ。」


 その時だった、前方のほうからとてつもなく恐ろしい威圧感を感じた。。う、動けない。まるで蛇に睨まれたようで指一つ動かせない。な、なんだこれ。動けないでいると、父さんが一人の男を引きずってきた。


「なんだアレク、お前まで威圧に負けてるのか。。おいおい、若くても竜神族の端くれだろう?」


 父さんに頭を軽くはたかれると動けるようになった。父さんは盗賊三人に、威圧だけで動けなくしてしまったのだ。前方に回ると、あとふたりが立ったまま青い顔で失禁していた。正面からまともにあの威圧をくらうと、いまだに動けないようだ。大きく実力差があると、威圧だけで敵を制圧できると小説などでも見るが、本当に目前で見ると恐ろしい。。


「ちょっと、まってろよ。あと二人も穴に放り込んどくから。そしたら出発しよう。」


 な、なんて事だ。竜神族ってこれほどまでに強いのか。。後ろでわめいていた二人も、父さんが睨むとおとなしくなった。殺されないだけましだろう。前の三人とも無傷みたいだったし、戦闘にすらならなかったのだろうな。威圧が解ければ5人もいるんだ、穴からは出られるだろう。


 でも、警察とかに引き渡さないのかなぁ。まぁ、いいか。


 俺たちは、無事にセレネティア国の境界の町リオに到着した。国境の町だけあって、外壁はかなりの高さで観音開きの門が見える。この街に、これから俺が入学する魔法学校があるのだ。そういえば、学校の名前ってなんだろう。父さんに聞いたら、そのままリオマジックスクールって名前だった。


 国境の門には、誰一人人がいなかった。検問所だと思うのだけれど、あ、そうか。こっちの門は竜神族くらいしか来ないのか。俺たちがそのまま門まで行くと、検問所で兵士さんに止められた。


「アレク、住民証を作らないといけないので、ここで馬車の旅は終わりだ~。」


 父さんはそういった。


 父さんは、商人さんに深く礼をして見送った。料金は前払いで支払っているのでこれでいいのだ。俺と父さんは、検問所の中の客間に通された。


「こんにちは。今回は息子の魔法学校入学の為、村からやってきました。息子の分の住民証をつくってもらえますか。」

「は、はい。直ちに準備いたします。」


 兵士さんは素早くテキパキと仕事をしてくれた。なんて立派な方なんだ。・・・なんか、冷や汗をかいている気もするが、気のせいだろう。。そんなに竜神族って怖いのかなぁ。


 俺たちは、無事にリオの町に入ることができた。住民証も永久に使えるようだ。いくらか支払っていたので税金を払う必要があるのかなと思う。


「アレク、父さんはお金を引いてこないといけないけど、一緒にくるか?何処かで待っててもいいぞ。」

「いや、初めての町で心細くもあるから一緒に行くよー。」

「そうか、じゃ冒険者ギルトにいくぞ。お金をあずけてある。」

「え、父さんて冒険者だったの??」

「昔の話だけどな。」


 初耳だった。こんなに近くに元冒険者がいたなんて。


 俺と父さんは、冒険者ギルトという建物まで歩いてきた。建物は木造の二階建て、門は西部劇のような酒を飲むところによくある、手前に扉がふたつ開くタイプだった。あの、手を離すとバネで戻るやつ。自分たちがギルドの中に入ると、たくさんの冒険者の方が中にいて一斉にこちらを見た。そして、一瞬変な間があり、全員が一斉に目をそらした。


 そして、父さんが歩く方向に、ひとが左右にきれいに開かれていく。まるでモーゼの奇跡のように人が割れていく。。なんか、すごく居心地が悪いぞ。受付に行くと、父さんがお金を下ろしたいと伝えた。受付の人はそのまま立ち去って二階に迅速に歩いて行った。


 しばらく待っていると、二階からひとりの男が降りてきた。

「ギルドマスターのテイルと申します。二階でお渡ししますので、どうぞこちらへ」


 おれたちは、ギルドマスターに連れられて二階へと向かった。


 二階の客室と思われるところに案内されると、俺と父さんはソファーへとすわった。受付の女の方がお茶を持ってきてくれる。


「それで、アルフレッド様。どのくらい必要なのでしょうか?」

「ああ、俺の息子のアレクシスというのだがな、今度、魔法学校に入学することになったのだ。

 その為の資金を下ろしたい。そうだな、入学金と生活費9年分で2千万ゴールドくらいあれば足りるだろう。」


 に・・・二千万ゴールドだと?そんなにお金がかかるのか。いいのかな。。


「も、申し訳ありません。一度にそのような大金はすぐにはご用意できないです。」

「うん!?俺の金が自由に引き出せないというのか?」

「ひぃぃぃ、申し訳ございません。アルフレッド様の預けられているお金は運用中でありまして、すぐには引き出せないようになってございます。」

「聞いてないな。誰が運用の許可を出した?」

「わ・・・私です。二百年もの間、まったく動かないお金でしたので。。。も、申し訳ありません。」


 これは酷い。冒険者ギルドが冒険者からの預金を勝手に使って運用していたってわけか。というか、二百年といったか? 竜神族からしたら大した年月ではないのだろうが、人間からしたらとんでもない長い時間だろうな。もしかして、もう冒険者は死んでいるとでも思ったのかな…。


 それより、父さんの威圧の力が漏れ出ているし・・・。これは、ギルドマスターやばいかも。


「はぁ・・・。仕方がない。入学金は急ぐのだ。入学金150万ゴールドはすぐに支払ってもらうぞ?」

「はい、すぐにお持ちいたします。」


 ギルドマスターは受付の女の子に指示を出してお金を取りに行かせた。


「で、ギルドマスター。」

「は、はいぃぃ。」


 もう、ギルマスター泣きそうだ。。


「その運用はどうなってるんだ。詳細を話せ。」


 それを聞いたギルドマスター、何を思ったのかソファーから立ち上がり、床に頭をこすりつけて土下座した。。

「申し訳ございません。ここのところの不景気で、お客様の預金残高は現在600万ゴールドほどになっておりまして・・・・、この不足分はギルドとして責任をもって、もももももって・・・」


 あかん、父さん威圧が完全にでてるよ。。俺も動けません。ごめんなさいギルドマスターさん、俺も声も出ません。父さんを止められません。。


「ギルドマスター、俺怒るよ?」


 いや、もう怒ってますよね・・・お父様。


「お前のところに預けていた金はいくらだったかな・・・・。言ってみろ。」

「・・・・。」


 あ、もうギルドマスターさん頭上げられないくらい硬直してる。声も出ないのではないか。。

「いってみろ!!」

「ひぃぃぃぃ、さ…3600万ゴールドでございます。」


 あ、扉のところで受付の女の子も硬直してる。入ってこれないみたいだ。。しかし、このギルドマスター死んだな。例え父さんが許したとしても、社会的に死んだな。。本当は横領とかしてたんのでは?


「ギルドマスター、また明日俺だけでここに来る。じっくり話をしようじゃないか。

 今日のところは、150万収めてこないといけないので帰らせてもらうぞ。」


 父さんは、立ち上がり女の子のところへ歩いて行った。あの、父さん俺も腰抜けたんだけど。立てないんだけどー。たすけて、父さん。



 俺は、また頭を軽くはたかれた。。

 俺悪くないけどなぁ。。









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