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59 女男爵さま

「やっと来ましたわね。挨拶に来るのが遅いですわよ。」


 女の子はそう言った。20代くらいでまだ若い。この子が当主なのだろうか?


「初めまして。今度、町長になりました、アレクシスと申します。よろしくお願いします。」

「セルバージュ家の現当主、モエリア・フォン・セルバージュですわ。」


 この子がやはり現当主なのか。若いな。


「えーと、前町長はこちらに挨拶に伺ったのでしょうか?」

「そうですわ。歴代の町長は、私の家に挨拶に来るのが礼儀なのですわ。私は、前町長しか知りませんけど。」

「そうなのですか。何故、挨拶に伺わないといけないのですか?」


 ちょっと、直球すぎたかな。


「え? そ、それは、私の家がこのリオにとって重要な役割をしているからでしょう?」

「それは初耳ですね。どのような役割を担っているのですか?」

「どんな役割かって・・・、それは、あれよ。町の人をまとめるリーダー的な存在だから。」

「だから、町長は挨拶に来いと?」

「そうよ。」


 なんか、この子無茶苦茶だな。


「町をまとめるのは、町長である私の仕事だと思うのですが?」

「何を言っているのよ、昔からこの町はセルバージュ家が仕切っていたのよ。町長なんて、ただの飾りじゃない。お金だけ運んでいればいいのよ。」


 お金だと? 何やら、きな臭い感じがする。どうやら、裏でこの町を仕切っていたのはセルバージュ家らしい。しかしこの女、俺が竜神族で女神の使者なのを知らないのかな。ずいぶんと強気だ。


「お金とは、何のお金ですかね?」

「はぁ? 国からのお金に決まっているじゃないの。今月の分がまだ貰っていないはずよ。」


 国からのお金だと? 竜神族の村からは援助のお金はこないのに。いや、まてよ。国というのはセレネティアの事かな?この女、まさか。。


「モエリア様、このリオの町が竜神族の支配する町に変わったのはご存知でしょうか?」

「知ってるわ。だから、新しい国からの支援金を持ってきなさいって言ってるの。」


 知っていた。ただ、支援金は変わらず貰えるものと思っているのか。


「国からの支援金ですが、竜神族の村からはお金はまったく出ませんよ。」

「はぁ? どうしてよ。。」

「村はお金がありませんから。今まで通り仕事をしてそのお金で生計を立ててください。」

「え、そんな・・・。」


 女は困った顔をする。すると執事が突然跪いて言った。


「すみません町長様、お嬢様は何も知らないのです。この度のご無礼お許しください。」

「なっ!? 何をしているの、カルロス? 何故あなたが跪くの。」


 執事は、ゆっくりと説明をしていく。


「町長様、モエリアお嬢様は幼いころに両親を事故で亡くされて、ずっと叔父様に育てられてきました。叔父様はモエリアお嬢様が幼いことをいいことに、代わりに色々と暗躍されておられました。しかし、この町が竜神族の支配下になると、この家を出てしまったのです。」


 なるほど、実際の権力は叔父が握っていたのか。そして、何も知らないお嬢様だけが、ひとり残されて途方に暮れていたと。執事は続ける。


「叔父様がいなくなった後、この家の収入はすべて無くなってしまったのです。私も正確には知らないのですが、おそらく叔父様は、前町長様から国の支援金を受け取って、横領していたのではないかと思います。収入が断たれた今、困ったお嬢様は町長様を呼び出すことにしたようです。私は良い機会だと感じました。モエリア様を町長様にお任せしようと思ったのです。処分は私がすべて受けますので、お嬢様の命だけは助けてあげてください。」

「え? 何なの、何がどうなっているの? 叔父様が横領? そ、そんな・・・。」


 ふむ、大体の事情は理解した。思ったよりたいしたトラブルではなさそうだ。よく周りを見ると、お金がないと言うのは理解できた。この屋敷には金目の物は何もない。メイドもいない。家にいるのは、このお嬢様と執事だけのようだ。このふたり、見るからに痩せている。食事もろくに取っていないのだろうか?


 俺は二人に向かって診断の魔法を実行した。その結果、二人とも栄養失調であった。おいおい、貴族がこんな状態になっているなんて。。俺は、あわててシルフィーに指示を出す。


「シルフィー、すまないがすぐに食事の用意をしてくれ。何でも構わない、栄養のある物を作ってやってくれ。二人とも栄養失調で危険な状態だ。」

「は、はい!」


「カルロスさんと言ったかな? シルフィーに料理を作らせる。キッチンまで案内してあげてくれますか?」

「はい。」


 そして、俺はモエリア様と向かい合って話をする。

「モエリア様、ここに叔父さんがやっていた仕事の書類などは残っていますか?」

「いえ、何もありません。」


 不正の証拠を残して行くわけがないか。モエリア様は叔父のやっていたことが不正だったことを知り、顔色が少し悪くなっている。しかし、俺はこの女に責任を負わせるつもりはない。


「それでは、叔父さんがやっていた仕事の中で、引き継いでいるものはありませんか?」

「いいえ、叔父が何をしていたのか、さっぱりわかりません。。」

「今現在、収入は無くなってしまったのですか?」

「はい、毎月叔父からお金を受け取っていたのですが。。」


 ふむ、困った。このままではこの家は没落してしまう。

 しばらく考えていると、俺はひらめいた。そうだ、新しい産業を始めるにあたって、平民たちのまとめ役をこの家にやらせればいいのでは?


「モエリア様、俺の部下として働くつもりはありませんか?」

「え、よろしいのでしょうか・・・。私の叔父は不正をしていたのに。本来なら罰を受けるのでは。。」


 そこに、執事が戻ってくるといきなり土下座した。


「町長様お待ちください。お嬢様は何も知らなかったのです。罰するのであれば、執事である私を罰してください。どうかお願いします。」

「でも、あなたは加担していたわけではないのでしょう?」

「はい。しかし、薄々と何か悪いことをしているのではと、感じていましたので。」

「カルロス、お前は黙っていなさい。罪を償うのは現当主である、この私です。」

「いいえ黙りません。この執事、命に代えてもお嬢様をお守り致します。」

「カルロス・・・。」

「お、お嬢様・・・。」


 見つめ合うふたり。。

 二人の世界に入っちゃってるよ。。こっちに戻っておいで。。


「あのですね、私は親や親戚が悪いことをしたからと言って、連帯責任で処罰するようなことはしませんよ。。叔父さんには罪を償ってもらうかもしれませんがね。それは、セレネティア王国の法によって裁いてもらうことになるでしょう。執事さんだって、叔父さんをとがめることは主に歯向かうこと。なかなかできる事ではありません。」


 それを聞いたお嬢様と執事は少し安心したようだ。ふたりから深く礼をされる。

「「ありがとうございます。」」


「それで、部下になる話はどうですか?」

「は、はい。私でよろしければ仕事をさせてください。」


 モエリアお嬢様はそう言って懇願してきた。


 それから、俺はモエリアお嬢様と色々と話をした。貴族だけあって、いろいろと教育は受けているらしい。しかし、お嬢様は実際に仕事をした経験がないので、即戦力としては無理かもしれない。この際、執事も仕事のメンバーとして引き抜くかな・・・。


「執事さん、あなたはどのような仕事が得意なのでしょうか?」

「私はもう年ですので、経験だけはいろいろと豊富です。執事、調理、会計、護衛、教育係まで何でも大丈夫ですよ。」


 へぇ、護衛や会計もできるのか。思ったよりこのおじさん高スペックだった。しかし、年だと言うがまだ見た目は30代くらいだと思うけれど。俺は、護衛の腕を確かめようと思った。


「護衛もできるのはすごいですね、少し腕試しできませんかね? あ、シルフィーが食事を作っていたのでした。少し早いですが先にお昼をいただきましょう。その後に手合わせをしましょう。」

「は、はい。よろしいですが、竜神族のあなた様にはとてもかないませんよ・・・?」

「いえいえ、人間相手にどこまでできるのか見たいのです。手加減して人間のように振舞いますから、安心してください。空を飛んだり、火を噴いたりはしませんから。」

「・・・わかりました。お手柔らかにお願い致します。」


 執事さんは顔を青くしている。変なこと言ったかな?


 さっそく、お昼をいただくことにした。

 食堂に案内されると、執事さんは厨房へと向かう。料理はできていたようで、俺たちは全員で食卓を囲み昼食をいただいた。今日のメニューは、ごはん、みそ汁、ビックボアのから揚げ、サラダだった。久しぶりのシルフィーの食事である。口に含んで数回咀嚼すると、そのまま全員の時間が停止したかのように固まってしまう。。いつもの事だ。俺はシルフィーに感想を言った。


「美味い!」

「ありがとうございます。」


 シルフィーは照れくさそうに微笑んだ。かわいい。初めて食べたモエリアお嬢様と執事は、まだ呆然としている。


 俺たちは昼食を済ませると庭にやってきた。執事さんと手合わせをするためだ。

 俺と執事さんは向かい合っている。


「その服のままやるのですか?」

「はい、これが普段着ですので。。」


 動きずらいのではないかと思ったが、そのまま俺は執事さんに向かって間合いを詰めていく。執事さんは、構えもしないでただ突っ立っているままだ。しかし、何やら不思議なオーラを感じる。

 俺はそのまま地を蹴り、右ストレートで顔を狙う。次の瞬間、俺は空中を舞っていた。


「へ?」


 油断した。このおじさん、俺の右ストレートを背中側にかわしながら俺の右手を前に引っ張る。上半身を引かれたことにより体が前のめりになったところを、腹を救い上げるように投げられた。まるで柔道の一本背負いだが、背負われたわけではない。もしやこれは、幻の技、『空気投げ』か!?


 これは凄いと思いながら、空中で倒立のように高く体を一直線に伸ばすと、反転させて俺はすばやく右手で執事の襟元を、左手は相手の右手首あたりを掴むと、落下の重力を利用して手前に引き寄せ上半身を崩す。そのまま地面に着地と同時にしゃがみこみ、執事の腹を蹴り上げて巴投げだ。左手は掴んだままなので、執事は仰向けに地面に叩きつけられた。


 ここで、俺は手合わせを終わらせる。


「はい、ここまでにしましょう。」

「・・・、私、自信を無くしました。。これでも護身術には自信があったのですが。。」

「いえいえ、あなたは執事にしておくには、もったいない人材です。しかし、モエリア様にこれからも仕えたいですよね?」

「はい!」


 執事は迷いなく言い切った。


 客間に戻った俺たちは、モエリア様に新しい仕事について説明する。


「それでは、モエリア様にはこれから立ち上げる商会の店主を。そして、執事さんはモエリア様の右腕として働いてもらえますか?」

「ありがとうございます。必ずやご期待に答えたいと思います。」

「これからも、お嬢様を支えることができます。ありがとうございます。」


 二人から深く礼を貰う。

 それから、俺はこの町の新しい産業について説明していった。竜神族の森には、鉄鉱山があり鉄の生産が可能であること。この鉄をこの町の新しい産業にする事。馬車の乗り心地を改善するための部品をメインに生産販売していくこと。これらの産業のために立ち上げる商会をセルバージュ家に任せることも伝える。


「それでは、また後日正式な契約をしましょう。商会が軌道に乗るまでは、毎月60万ゴールドを町の予算からセルバージュ家に出す事にします。軌道に乗ってからは、会社の純利益から何割かをセルバージュ家に支給することにします。それとは別に、当面の臨時の資金として1000万ゴールドを、無利子で私の個人的な資産から貸し与えます。返済日も決めないので、返す目途が付いたら返してくれればよいです。シルフィー、モエリア様に1060万ゴールド渡してください。」

「はい。」


 何もないところから、シルフィーがお金の入った革袋を取り出すと、モエリア様は呆然としていた。執事はどうやらアイテムボックスの事を知っていたようだ。ああ、昼食の時に食材を出しただろうから知ったのだろう。そして、シルフィーからお金を受け取ったモエリア様は深く感謝していた。


「それから、カルロスさんには、商会が立ち上がると執事を辞めてもらいますからね。」

「え?何故ですか。。」

「執事を辞めて、モエリア様の護衛兼、商会のマネージャーをやってもらいますから。その時は屋敷にメイドと調理係を雇う事を考えておいてください。よろしくお願いします。」

「は、はい。わかりました。その様に致します。」

「それでは、今日はこの辺で帰ります。」


 こうして俺たちはセルバージュ家を後にした。


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