58 製鉄事業を考えてみる
俺はエマさんに、これからのリオの製鉄事業について説明する。
まず、鉄鉱石を採掘する事業が必要だ。次に、その鉄鉱石をリオまで輸送する事業も必要。最後に、鉄鉱石から鉄を製鉄する事業が必要だ。その完成した鉄を使用して、板バネを作るのが最終的な目標である。もちろん、鉄をそのまま輸出することも考えている。
他にも、お客様の馬車を預かり、板バネを装着する事業。新規で馬車を作る事業も可能だ。馬車を新規で作るのであれば、木材も大量に必要だ。木を伐採する事業、木を製材する事業も必要になってくる。これは大規模な事業になるだろう。
これらの内容を事細かくエマさんに説明した。
「なるほど、かなり大規模な商会になりますね。工場を建設する土地などはあるのですか?」
「いいえ、土地はこれからです。竜神の森に工場を建設しようと思っているのですが、土地の購入は可能なのか、村に戻って聞いてくる必要があります。」
「え? 町の外に工場を建設するのですか?」
「ええ、すぐ城壁の外側にですけどね。工場をすっぽりと覆うくらいの結界を、張るつもりですので、危険はありませんよ。」
エマさんは唖然とした表情で言った。
「はぁ、人間の常識で考えていたら驚くばかりですね。工場をすっぽりと覆う結界なんて、普通は無理ですよ。」
そんなことはない、今の俺であればリオの町をすっぽりと覆う結界も可能だ。
それから、俺たちはエマさんと色々と話し合った。
採掘の事業に就く者たちは、鉄鉱山の麓で住んでもらうこと。鉄鉱山からリオまでの輸送のためには、もっと街道を整備する必要があること。輸送途中の護衛の必要性についてなど。
製鉄については、俺が毎回錬金術で鉄を作るわけにはいかない。現代の製法で作ってもらうことにする。鋼を作るのに必要なのは、鉄鉱石、コークス、石灰石だったと思う。高炉でドロドロに溶かして銑鉄を作る。それを転炉で空気を送り込んでやれば鋼になるはずだ。コークスを作成するためにコークス炉も設置することにする。石炭と石灰石はセレネティアから輸入する予定だ。
そして、俺たちは商業ギルドに登録する書類を書いて提出した。所在地についてはまだ決まっていないので、現在の屋敷で登録をする。しかし、リオの町の外で工場を建てると、町営として登録できるのかな? まぁ、いざとなれば、町の境界線を工場を含むように広げれば良いか。しばらく待っていると、エマさんがギルドカードをもってきた。
「これが商業ギルドのギルドカードです。ランクは、ギルドに収めた額によって昇格します。」
ギルドカードにはランクFと書いてある。Fが一番下のランクなのだろう。物品の売買を商業ギルドに仲介してもらうと、手数料をギルドに支払わなければならない。その収めた額によってランクアップするらしい。
「それでは、今日はこれで帰りますね。乗り心地が改善されたらまた伺います。ギルドの総本部に行くのは、板バネが完成してからでお願いしますね。」
「はい、わかりました。完成するのをお待ちしております。」
そう言うと、俺たちは商業ギルドを後にした。
板バネの改善をしなければいけない。たしか、ダンパーという装置で揺れを抑えることができたはずである。それを取り付けようと思う。
馬車での帰り道、俺はさっそくダンパーの制作に取り掛かった。構造的には簡単で、形状はバイクの前輪のフォークのような形で、オイルの抵抗を利用して揺れの大きさを減衰させる。シルフィーから鉄の塊を受け取ると、さっそく錬金術と魔力操作を駆使してダンパーを作っていった。頭の中のイメージが、器用スキルによって現実の世界で同じように変形していく。空中でグニャグニャと形を変えていく、それを見てシルフィーとニーナは楽しそうに声を上げている。屋敷に帰り着く頃には、試作機第一号が完成していた。
屋敷に到着すると、エルエットが出迎えてくれた。
「ご主人様、昼前にセルバージュ女男爵の使いの方がお見えになりました。」
セルバージュ? 貴族か、聞いたことのない名前だな。嫌な予感がする。
「用件は?」
「はい、いつになったら挨拶に来るのかと、お叱りを受けました。」
ああ、これは厄介事だ。何故、こちらから挨拶に行かないといけない? 何か恒例なやり取りがあるのだろうか?
「エルエットさん。前町長さんは、その貴族に挨拶に行っていたのですか?」
「わかりません。しかし、セルバージュ女男爵様はこのリオの町では有名な方だったと思います。」
エルエットにこの女男爵の事について詳しく聞いた。この女、リオの町に住む貴族で領地は持っていないようだ。どうやら、町で最大派閥のまとめ役のような女で、平民に対しても強い権力を有するらしい。人間の社会では貴族は偉いかもしれない。しかし、竜神族の支配するこのリオでは、貴族も平民も関係ないのだがな。貴族制でも採用しているのならば、最大派閥のトップは相当な権力を有するだろう。しかし、この町は今、俺の君主制だ。まぁ、明日にでも挨拶に行くか。相手の出方をみよう。
「エルエット、午後はその女男爵の家に出向き、明日の午前中に挨拶に伺うと連絡をお願いできますか?」
「はい。今から行ってまいります。」
そう言うと、エルエットは一礼して屋敷を出た。食事は前もって食べていたのだろう。
お昼をだいぶ過ぎてしまったが、俺たちも昼ご飯を食べよう。
「モネーラ、昼食の用意はできている?」
「はい、ご主人様。いつでも食べられるように用意していますにゃ。」
「じゃあ、遅くなったけど昼食にしよう。」
「「はい。」」
シルフィーとニーナは元気よく返事をした。
俺たちが食堂に行くと、モネーラとマドリアが料理を運んできてくれる。今日の昼食は、軽めにサンドイッチと野菜ジュースらしい。時間が不規則になったので、冷めても美味しいサンドイッチにしたのだろう。最近のマドリアの料理は、シルフィーにはまだまだかなわないが、かなり美味しくなっている。サンドイッチの中を見ると、ハムとチーズが挟まっているものや、たまごとレタスの組み合わせもある。美味しくて食が進む。野菜ジュースは青汁のような苦みはなく、果実も沢山入っているようで甘かった。
「マドリア、すごく美味しいよ。ありがとう。」
「い、いえ、シルフィー様の味にはまだまだです。これからも頑張ります!」
マドリアは嬉しそうに答えた。
午後からはダンパーを残り三個作り、馬車に取り付けることにした。明日、セルバージュ女男爵の所に出向くので、丁度いい試運転になる。少し遠回りをして、町の外に出てから女男爵の所に行こう。悪路を走る必要があるからな。
翌日、俺たちは家族会議を始める。
「今日は、セルバージュ女男爵の屋敷に挨拶に伺います。御者としてクレアさん同行してください。屋敷の警護はロイさんに任せます。念のため、屋敷には結界を張っていくので安心してください。」
「はい。」
ロイは不安そうな顔で返事をした。大丈夫だぞ、危険と思えば屋敷から出なけば問題ないぞ。
俺たち三人はいつものように馬車に乗り込む。御者としてクレアが操車してくれる。俺はクレアに一度西門から出て森の悪路を走るようにお願いをした。
馬車はゆっくりと町の中を進んでいく。町の中は昨日と同じく乗り心地は悪くない。昨日感じたフワフワした感覚も無くなっている。これは期待できそうだ。西門を出て、問題の悪路に差し掛かる。昨日は上下に激しく揺さぶられたが、今日は上下の揺れもほとんど抑えられている。ダンパーの効果が出ているようである。
「ご主人様、昨日のカエルさんのような揺れはないですね。」
「アレク様、昨日の問題は解決したみたいですね。」
「うん、ふたりともありがとう。」
問題がないようなので、俺たちはそのまま女男爵の屋敷を目指すことにした。
女男爵の屋敷に到着すると、門の前で執事が出迎えてくれた。
「町長様ですね、お待ちしておりました。」
「初めまして、町長のアレクシスと申します。」
「それでは、部屋までご案内致します。」
執事さんについて行くと、ひとつの部屋に案内された。すると、すぐに声をかけられた。
「やっと来ましたわね。挨拶に来るのが遅いですわよ。」
室内には、ひとりの若い女性が座っていた。
最近は揉め事も少なかったのに、トラブルの予感がします。




