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57 試しに馬車を走らせてみた

 エマさんが屋敷に来た。新しく作られた板バネ搭載の馬車を見にきたのだ。


「エマさん、ここを見ていただけますか? この鉄の板を重ねた部分が、私のアイデアを形にしたものです。この板が下からの衝撃を和らげるのです。」

「なるほど、素晴らしいアイデアですね。」


 エマさんは感心したように言った。しばらく車体の下を覗き込み観察していたけれど、すぐにでも試乗してみたいと言った。俺たちはさっそく、新しい馬車に乗り込んで出発した。


 御者をしてもらっているのはクレアである。馬車の室内は中央にテーブルがあり、壁を回り込むようにL字型のソファーが置いてある。入り口から左手にも扉があり、御者の所に行けるようにもなっている。そして、どの方角も確認できるように、四方に窓を設置している。

 またテーブルの支柱を短くして、テーブルの上にソファーを乗せると大きなベットを作ることもできる。ここで三人くらいなら仮眠もできるだろう。


 馬車はゆっくりと走り出す。屋敷から出るとリオの町を一周してもらう。乗り心地はやはり改善されていた。地面は石畳になっているのだが、通常の馬車だとガタガタと小刻みに振動がお尻に響いてきたのだ。それがこの馬車だと、フワフワと揺れる感じは多少あるが、下から突き上げるような振動は皆無である。


「町長さん、こんな静かな馬車に乗ったのは初めてですよ。少しフワフワしますが、乗り心地はすごく良いですね。」

「ありがとうございます。しかしまだ試乗は終わりませんよ、町外れの悪路を走らないとわかりませんからね。」


 俺はそう言うと、クレアに門から森へ出るように指示した。今度は土の道路を走らそうと思う。

 門から出ると、道は土と石ころがあちこちに転がっている道に出る。そこを走り出した途端に揺れが激しくなった。車輪が石を乗り越えるたびに、車体が大きく跳ねるのだ。


「町長さん、急にピョンピョン跳ねだしましたね。。」

「そうですね・・・。」

「ご主人様、カエルさんみたいですね!」


 ニーナが楽しそうにはしゃいでいる。うーん、ここまで跳ねるとは。たしかに古いバスに乗ると上下の揺れが酷かった記憶がある。このままではとてもお客様に勧めることはできない。今回は失敗として試乗を終了した。

 俺たちは、そのままエマさんを商業ギルドに送っていく。

「町長さん、まだ完璧とは言えませんが、着眼点は素晴らしいと判断いたします。この商品を今後売るのでしたら、是非商業ギルドに登録してほしいと思います。」

「そうですね、まだ改善点はありますが街中の走行は問題ありませんでしたし。。今日はこのまま商業ギルドで会員登録させてもらいます。」

「ありがとうございます。」


俺は、ふと疑問に思ったことを馬車の中でエマさんに質問をした。


「すみません、この世界で発明者の権利を守るような制度はありますか?同じアイデアの製品を禁止するとか、一番初めに発明した人にアイデア料のようなお金を支払う制度なんですけど。」

「アイデア料を支払う制度ですか・・・?ええと、そのような制度はありません。しかし契約魔法という魔法がありまして、契約内容を違反すると呪うことができます。通常は、それで契約して発明者の権利を守りますね。ただしかなり高額なお金がかかります。」


なんだその物騒な魔法は。。闇魔法かな?


「それは闇の魔法とかですか?」

「詳しいですね。商業ギルドで契約している闇魔法使いさんがいるのですよ。その方に頼んでいます。」


ほほう闇の魔法使いか。俺もまだ闇魔法は使えないので気になる。


「あ、呪いと言っても、人を呪い殺したりはできませんからね?簡単な呪いをかけることができるだけです。例えば、永遠と体がかゆくなる呪いとか、笑いが止まらない呪いとか、ずっと往復ビンタをされる痛みが続く呪いとか・・・。」

「それは、死んだほうが楽なのでは・・・。」

「良く言われます。。」


お、恐ろしい。闇魔法恐ろしい。。しかしそれをしないと俺の特許が守れないのか。俺は契約魔法を頼むことにした。


「それでは、この板バネを購入する場合、私が指定した事業所でしか購入できないように契約魔法を締結することは可能ですかね?」

「可能ですが、それですと世界中から商人がその事業所に押し寄せてくると思われますが、よろしいのですか?」


う・・・、それはまずい。するとエマさんが続けて言った。


「そこで提案なのですが、この商品の独占販売の権利をギルドに売ってください。そして契約魔法で商業ギルドでしか受け取りできないようにしてしまえば、商業ギルドがある国ならどこでも受け取ることができます。受け渡しの際に、商業ギルドで十分に契約魔法のことを説明できますし。まぁ、その為には商業ギルドの総本部に一応話を通す必要がありますが、大丈夫です私が直接出向いて納得させます。」


「わかりました。それでは、私どもの事業所から直接エマさんのギルドに商品を卸すことにしましょう。」


エマさんは、小さくガッツポーズをした。


商業ギルドに着くと、会員登録のためにギルドマスターの部屋へと案内された。


「それでは店長さん、こちらの書類に記入してもらえますか。商業ギルドに登録するための書類になります。」

「はい。」


するとエマさんは書類を見ながら話しかけてくる。


「そう言えば、質問があったのでした。リオの町名はこれからどうなるのでしょう?」

「はい?」


「特に町長さんからリオの名前が『竜神族の村』に変わるとか聞いていませんし、リオは村と呼ぶには規模が大きすぎます。場所も離れていますし。ひとつの村としてまとめるには無理があります。」


そんな話は村からは聞いていないし。好きにやれって言われているだけだ。政治の話なんか俺はわからないぞ。


「私は村からリオのすべての権限を与えられています。押し付けられたとも言えますけど。。なので、この町が村に吸収されることはありませんし、名前も変わることはありませんよ。」


「それは、リオは町として存続するということでしょうか?」

「はい、そうですよ。」

「そうですか、安心しました。それで、この町は竜神の村から援助とかもらえるのでしょうか?」

「いえ、援助はありません。独立していると思ってください。」

「え?」

「え?」


おや、エマさんの表情が曇った。


「この町は産業と言えるものがありませんよね。どうやって援助もなしに町を継続させていくのでしょう?」

「ああ、それは考えています。この町に産業を興そうと思っています。竜神の森には鉄を沢山含む鉄鉱山があるのです。それを利用して良質の鉄を輸出していこうかと思ってます。今回の鉄の板バネもその一環です。」

「なるほど、そうでしたか。しかし、あの鉱山には確か魔物がいて立ち入れなくなったらしいですが?」

「ああ、古龍がいましたけど、出て行ってもらいましたよ。」

「はい?」


エマさんが呆然とくちをあけたまま動きを停止した。


「え?ですから、古龍がいたけど出て行ってもらいました。。」

「ええー、本当ですか。信じられないですね。。やはり、竜神族は強いんですね。町長さんは竜神族で強いのに全然威張ったりしないのですね。普通なら、竜神族で御使い様なんてなってしまったら、世界征服もできそうなのに。。」

「よしてくださいよ、別に自分が偉くなったのではないのです。村では下っ端だし・・・。」

「そんな姿勢が尊敬できますよ。・・・ところで、その産業について詳しく計画を聞かせて頂けますでしょうか?」



また、エマさんの目がギラリと輝いた。



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