55 今年徴税したお金はどこ?
朝、朝食を済ますと、家族会議をすることにした。
参加者は、俺、シルフィー、ニーナのいつものメンバーに加えて、メイド長のエルエット、護衛責任者のクレアが出席する。まず俺が聞きたかったことを質問する。
「エルエットさん、前の町長はこの屋敷で仕事をしていたのですか?町役場とかは無いように思いますが。」
「はい、書斎で仕事をしていました。」
なんと、この町の規模で役場を置かずに自宅ですべてやっていたのか?
「一人ではとても処理しきれないですよね。他にもこの屋敷には職員が働いていたのでしょうか?」
「いえ、会計などはすべて町長様がひとりでやっておりました。」
「それ以外の業務は?例えば住民の管理とか、下水の管理とか」
「住民の出入りの管理は私がやっておりました。下水はわかりません。」
なるほど、会計はすべて前町長が管理していたのだな。データなどは書斎にあるのだろうか? 住民管理はエルエット、下水管理は不明か。たぶん管理者はいないな。この国の下水は各家庭から排水された下水を地下で一か所に集めてそのまま川へ流す古代的な処理方法だ。
この屋敷の大きさだとメイドの数が多すぎると思っていたのだ。エルエットの仕事には町の日常業務も含まれていたようだ。マドリアは食事担当、実質メイドと呼べるのはモネーラだけだったのではないか?
この町は、町長の独裁状態だったのかな。かなり町長の権限が強いように思う。まぁ、領主の管理下だから独裁とまでは言えないか。
「では、各部門で問題点などはないですか?」
俺がそう質問すると、護衛責任者のクレアが答える。
「私は護衛責任者だと思っていたのですが、その、ニーナという娘さんがアレクシス様の護衛担当と言うのはどういう事なのでしょう?」
「ああ、ここのいるシルフィーとニーナは俺の家族みたいなものだから。妹みたいなものです。血のつながりはありませんが。」
「え? し、失礼致しました。」
「すみません、説明不足だった私が悪いのです。確かに私の護衛と任命したのですが、それはあなた達を雇う前の事ですので。ニーナの護衛担当は解任します。」
「分かりました。」
クレアは深く頭を下げた。
「あと、しばらくはロイさんを鍛えてください。ロイさんがメイド達を守ることができる実力が付いたなら、私がクレアさんを指導してもいいですよ。」
「はい、よろしくお願い致します。それとロイさんに関してですが、重いものはまだ持てません。ナイフを持たせて斥候が得意な諜報部員として育てようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「わかりました、それでお願いします。」
「はい。」
この会議は毎朝開くことにした。情報共有は大事だ。社会人の基本ホウレンソウである。
「それでは、今日の会議を終わります。解散。」
俺は、これから書斎で町の会計に関する書類がないか探すことにした。シルフィーはマドリアに付き添って調理指導。クレアは早速ロイを鍛えてもらう。ニーナは俺の手伝いをしてもらうことになった。
書斎に入ると、書庫を調べていく。町から集めた今年度の税金もあるはずだが、どこにあるのだろう。エルエットも把握していないらしい。この書斎にあるとは思うのだが。
書庫の中には確かに会計の毎年の書類を綴じた紙の束が並んでいた。この時代なので、ファイルなどは無い。ただ紙に穴をあけてひもで綴じたものだ。それらの束を一番初めからすべて読んで記憶していく。紙の束の内容は、誰がいくら税金を払ったかが記してあった。それが直近の五年間保存されている。それ以前の記録は倉庫にでも入れてあるのだろうか?
俺は、記憶した今年三月の徴税金を頭の中で全て加算していった。このあたりの計算能力は流石ステータス最大である。知能の数値も最大値なので簡単に暗算で計算できる。
住民の町への申告・納税は三月である。町から領都への納税が六月だ。領都から王国への納税は九月らしい。国によって納税のシステムは違うみたいだけど。セレネティア王国ではこうなっている。
俺はニーナにも頼んで部屋のあちこちを探す。この時代にも金庫などはあるのだろうか?隠し金庫のようなものは見つからない。俺は試しに室内を魔力感知で隅々と探す。すると、椅子の下から微量の魔力を感じる。そこをよく調べると、木の扉があった。取っ手などはなく巧妙に隠されていた。開こうとすると真上に外れた。扉ではなく、ただの木の蓋だった。その下は魔道具によって結界で塞がれている。この開け方とかも普通は前の町長から引継ぎがあると思うんだが、おかしいな。
結局俺は開け方がわからなかったので、解呪の呪文で魔道具の結界を解除した。その下から階段が現れた。どうやら、地下室に続いているようだ。地下室は真っ暗だった。ライトの魔法を天井に設置すると全体を見渡す。どうやら宝物庫のようだ。前町長の私物はすでに持ち出された後だろう、室内は閑散としている。壁際にタンスの様な引き出しが沢山ある家具が置いてあり、その中にお金はあった。
お金を数えると、先ほど書庫のデータから計算した残っているであろう金額よりは少なかった。まぁ、まだここから給料や投資に消費されていたはずなので、前町長のお金の出納帳などがないと正確な金額はでてこない。ここはお金が残っていただけで、ありがたいと思うべきだろう。
その時、屋敷の玄関に誰か来たようだ。少し後にエルエットが書斎に来た。
「ご主人様、ティファナ伯爵様がお見えになりました。リビングにお通ししました。」
おや、何の用だろう。
俺はエルエットに礼を言い、リビングに向かった。
「ティファナ伯爵様、朝早くからどうされました?」
「ああ、すみません。前回この屋敷に案内した時に、地下室の案内を忘れていたのです。あそこには町の運営資金もあるのですが、前町長の新たな仕事を斡旋するなどいろいろ仕事が多くなってましてウッカリしておりました。ですから、領都に帰る途中で慌てて引き返してきた次第です。」
どうやら、解呪の魔法を使用するのは少し早かったようだ。
「そうだったのですか、丁度私も家のどこかに町の運営資金があるはずと探していたのです。それで、タイミングが良いのか悪いのか・・・、つい先ほどお金を見つけました。」
それを聞いた伯爵は驚いた表情で問いかけてくる
「え、地下室にはパスワードを入力しないと入れないはずなのですが。。あ・・・、御使い様には愚問でしたね。」
自分で驚いて、自分で納得しちゃったよこの人。
「当然、今町に残っている運営資金は、この町の為に使ってもよろしいのですよね?まさか、『支配する国が変わる前に徴税したこのお金は、セレネティア王国のもので、すべて回収する』なんて言わないですよね?」
「はい、もちろんです。この町の運営資金は、新町長であるアレクシス様のものです。国王様も私と同意見です。」
「いいえ、お金は町の住民のためのものでしょう。」
俺がそんなことを言うと、伯爵様は微笑み嬉しそうに答える。
「はい、その通りです。この町の人は、アレクシス様が町長になることによって、今までに感じたことのない様な幸せな暮らしになることでしょう。今私はそれを確信しましたよ。」
そして伯爵様は、今度こそ領都に帰って行った。
さて現在残っている町の資金を使って、馬車用の板バネを作る町営の事業を始めたいな。




