54 護衛を雇います
古龍と手合わせをした翌日、モネーラの仕事復帰を認めた。
俺は今、奴隷商人の経営する店へと向かっている。今日もニーナは屋敷で留守番である。かなり機嫌が悪くなっているので、早急に護衛を雇わないとまずいだろう。
シルフィーを連れて店に入ると、店主らしい人物が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。」
奴隷商人の人だろうか?
「すみません、護衛のできる人を探しているのですが。」
「護衛の仕事が務まる奴隷ですね、何人かご希望に沿える者がおります。ちなみに、性別に希望はございますか?」
護衛には、屋敷に住むメイド達を確実に守ることができる実力が必要だ。できれば、奴隷達の実力が知りたい。性別はどちらでも良いかな。
「可能なら、一人ずつ面接させていただき、その実力をテストしたいのですが。性別は特に希望はありません。」
「もちろん可能です。それでは、一人目を連れてきますね。」
そう言って、店主は店の奥へと入っていった。しばらく待っていると、ひとりの奴隷を連れてきた。
一人目は白い虎の獣人、名をゲイルと言った。いかにも強そうな筋肉質な体をしている。早速俺は面接を始めた。彼はホワイトタイガーと言う珍しい種族らしく、町に出てきてからは同じ種族の者に会ったことがないらしい。奴隷になった理由は酒が原因で借金が返せなくなったそうだ。奴隷になってからは、酒を禁止されたために酒に依存することは無くなったそうだ。
続いて、護衛任務のテストをする。俺たちは裏の空き地にやってきた。護衛するのはもちろんゲイル。襲われる役はシルフィー、襲う役は当然俺である。
説明を受けたゲイルは、シルフィーの横に立って護衛を開始する。俺は、両手を広げて微笑みながらゆっくりとシルフィーに向かって歩いて行く。
「え?」
「何?」
シルフィーとゲイルの驚いたような声が聞こえる。
ゲイルはすぐに護衛の事を思い出し、俺を捕まえようと前に出て片手を伸ばしてくる。
俺は、その腕を軽くかわしてシルフィーにジャンプして抱きついた。
「きゃっ」
シルフィーは驚いてつい声を漏らしてしまった。
俺は、振り返りゲイルに向かって告げる。
「ゲイルさん、失格です。」
「ま、待ってくれ。今のどこがテストなのですか。武器も何も持っていなかったし、抱きついただけじゃないですか。」
「結果が大事なのです。私が護衛対象の体に触れることができたのです。もし私が手のひらに毒を塗っていたらどうなっていましたか?口に触れるだけでシルフィーは死んでいたかもしれないのですよ。動きも反応できない素早さではなかったと思いますよ? ゲイルさん、私が子供だと思って油断しませんでしたか?」
俺のその言葉で、ゲイルは呆然と立ち尽くしている。
二人目は人間の20代くらいの女、名をクレアと言った。同じように話を聞くと、彼女は元は貴族だったらしい。父親が犯罪を犯してしまい、その連帯責任で奴隷に落ちた。片手剣が得意らしいが、実戦の経験はあまりないらしい。
続いて、同じようにテストをする。説明を受けたクレアは、シルフィーの横に立って護衛を開始する。俺は、両手を広げて微笑みながらゆっくりとシルフィーに向かって歩いて行く。
「え?」
クレアは驚いたようだが、シルフィーは俺と同じくらい微笑んで両手を広げて待っている。
クレアはすぐに護衛の事を思い出し、シルフィーの前に立ちふさがる。
ふむ、待ち構えられると隙が無い。さすが元貴族だけのことはあるのかもしれない。
護衛はまず護衛対象から離れてはいけない。ゲイルのように前に飛び出しては、護衛対象を攻撃される隙を作ってしまう。彼女のように、まず護衛対象の前に立ちはだかるのが正しいと思う。
俺は、素早く左に回り込みシルフィーに手を伸ばすが、クレアにガードされてしまった。
「クレア、合格。」
俺がそう言うとクレアは喜び、シルフィーは残念な顔をする。
シルフィー、今は遊びじゃないからな?
三人目は人間の10代くらいの若い男、名をロイと言った。俺と同じ歳くらいに見える。幼い頃に親に売られた平民だそうだ。若いので、買い手が付かないそうだ。同情はするが、慈善事業ではない。情けだけでこの子を買うのは駄目だろう。
続いて、同じようにテストをする。説明を受けたロイは、シルフィーの横に立って護衛を開始する。俺は、両手を広げて微笑みながらゆっくりとシルフィーに向かって歩いて行く。
「ん?」
ロイは驚いたようだが、シルフィーは目をキラキラさせて両手を広げて待っている。
ロイはすぐに護衛の事を思い出し、シルフィーの前に立ちふさがる。
シルフィーはほっぺを膨らまして不満を体全体で表現する。可愛すぎるだろう。
以外にもこの若い男。護衛には向いているのかもしれない。
俺は右から回り込み、シルフィーに手を伸ばすとあっけなく腕を掴むことができた。
ロイは俺の動きには付いてこれない様だったが、ちゃんとシルフィーの前には立った。ロイはいざという時、自分の命を犠牲にして護衛対象を守ることができる男かもしれない。褒めすぎだろうか?
「んー、護衛対象を守り切れなかったが、素質はあるのかもしれない。条件付きで合格。」
「条件とは何でしょうか?」
ロイは不安そうな顔で聞いてくる。
「俺の家で毎日鍛錬をしてもらう。大変だろうがどうする?」
「はい、頑張って毎日鍛錬をすると誓います。」
「わかった、よろしくね。」
「はい。」
俺はクレアとロイを雇って育てることにした。二人とも犯罪歴はないし、後々使えないようなら解雇すればいいと思う。俺はクレアを指導役として、ロイを見習い護衛として雇うことに決めた。
奴隷の金額は、クレアは700万ゴールド。元貴族と言う事もあり礼儀正しいのと、片手剣の技術が優れている点が高くなった。護衛対象は女性なので、お風呂なども傍で護衛できるのは強みだ。ロイは350万ゴールドだった。若いし、まだ護衛として雇うには力不足なのでかなり安くなってしまった。思えば、ニーナと同じ金額だ。
俺は、二人と奴隷の契約をすることになった。契約はやったことがないので言われるがまま従った。奴隷の指を少し切って魔法陣の上に血液を数滴落とすと、魔法陣が明るく輝きだし、奴隷の腕の所にあざの様な奴隷の紋章が浮かび上がってきた。これで契約は終了らしい。全てが終わると奴隷の二人を連れて屋敷に帰ってきた。
屋敷に戻るとみんなを会議室に集めて護衛の二人を紹介する。 護衛の総責任者としてクレアを任命した。今日は護衛達だけで衣服や自分が使用する武器などを買いに行かせた。今日はとりあえず、ロイだけは宿屋に泊まってもらい、クレアは屋敷で泊めた。今のところ、シルフィーのお金からすべて支払っているが、早めに町を運営するための資金として徴税された資金を見つけないといけない。実は、以前書斎の中を軽く探してみたが見つからなかった。前町長との引継ぎが全くなかったのが結構大変である。
問題は寝泊まりするところだ。そこで、これほど広い庭は必要ないので、半分ほど更地にしてメイド達とクレアが住むログハウスを建てようと思った。護衛のクレアとメイド達が一緒に住むのは効率よく護衛もできるので利点が多い。そして、ロイは屋敷に住んでもらうことにする。
早速庭の半分を土魔法で更地にすると、シルフィーを連れて森に行った。100本ほど木を調達して戻ってくると、それを乾燥させ組み立てる。もう2度目なので慣れたものだ。部屋は四部屋、リビングは無し。トイレと風呂だけ作る予定だ。キッチンはないので、食事は俺たちの屋敷で作って食べてもらうことにした。夜遅くまで作っていたが外側だけ完成した。明日は内部を作っていこう。
翌朝、俺はメイド達とクレアを呼んだ。
「明日から、このログハウスに住んでもらいますから。余裕がある人は、自分の部屋の内装などを仕上げる手伝いをしてください。」
「「「「ありがとうございます『にゃ』。」」」」
ひとりだけ語尾が違うと目立つな。
ロイは、今日もとりあえず宿で泊まってもらうが、明日からは屋敷に住んでもらう。同じ屋根の下にシルフィーとニーナもいるのが少し心配だけど、奴隷だから二人に手を出すなと命令すれば問題ないだろう。
「ロイ、明日からここに住んでもらうので、明日、宿を引き払ってきてくれ。」
「わかりました。あの、奴隷なのに、こんな大きなお屋敷に住んでもよろしいのでしょうか?」
「屋敷しか住む場所が無いんだけど・・・。どうしても嫌なら、メイド達と一緒に暮らしますか?」
そう言うと、ロイは顔を真っ赤にして目を閉じてイヤイヤと両手を振る。
「い、いえ、それは困ります!」
これが、シャイな青年というものか。




