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42 ディジー村

 翌朝、眼が覚めると昨日のことを思い出して、また幸せな気分になった。もちろん抱きしめただけでそれ以上は何もしていないが、それでも充分愛情で満たされた。8歳なのに、抱きしめてしまった。手を握られていたから無性に愛おしくなってしまったのだ。


 この世界では成人は15歳。働き始めるのは10歳である。なので、この世界の子供は10歳で大人と同じ環境に放り込まれる。それでなのか、シルフィーも8歳の割にはとても大人な感じがする。たぶん、こちらの8歳は、現世では中学生くらいだと思う。なので、抱きしめたのが犯罪になることはない。・・・と、思う。・・・と、思いたい。


 リビングには、まだ誰もいない。まだ寝ているのかな。確かに少し早い時間に目が覚めたけど、シルフィーならもう起きている時間だ。するともうひとつの部屋からシルフィーとニーナが起きてきた。


「あ、おはようございます。」

「おはよう。」


 シルフィーは俺と目を合わすと、恥ずかしそうに顔を紅く染めた。そして俯いてしまう。シルフィーも昨日の事を気にしているようだ。俺はいつもと何も変わらないように、普段通りに接するように努力した。


 さて、ディジー村に向かってもう二日。それも、初日はログハウス作り。二日目は、シルキー様の試練で、だいぶ始めの予定より遅れている。今日こそは、村にまでたどり着きたい。シルフィーの美味しい朝ご飯を食べて、俺たちは森の中を歩いた。


 今日始めに脱落したのは、ニーナだった。シルフィーは4時間歩いても平気な顔をしている。やはり、森の加護を受けたからだろうか、森の深い所へ行けば行くほど、逆に元気になっていった。俺は今、ニーナをおんぶして歩いている。ニーナはスヤスヤと寝息をたてている。


 俺は、シルフィーに魔法を教える約束をしていたので、早速森の中の魔力を感じてほしいと思った。


「シルフィー、森を歩いている間に魔法の練習をしようか。」

「え?歩きながらできるのですか?」

「うん、できる。」

「は、はい。やります。お願いします!」

「では、まず魔力はどんなものなのか、感じることから始めよう。」

「はい。」


 俺は、自分の左手をシルフィーに差し出した。シルフィーはその手を見て首をかしげている。


「今から、自分の左手から魔力を放出するから、手をつないでくれる?魔力を右手で受けてみてほしい。」

「あ、分かりました。」


 シルフィーは俺の手を握った。二人で手を繋いで歩いている状況である。決して下心はない。


「じゃ、始めは少しだけ魔力を放出するね。できるだけ右手に集中して感じる練習をしよう。」

「はい。」


 俺は、少しだけ魔力を左手に集めて錬金術の要領で魔力を放出した。


「きゃぁ!」


 あわてて、シルフィーが右手を引っ込めた。


「え!? 今の感じたの?」

「えー、今のは感じない方がおかしいです。。右手を大量の何かが猛烈な速さで通り抜けていったって感じですよ・・・・。何ですか今のは。」

「あれ、シルフィー魔力を感じることができてるじゃない。今のが俺の魔力だよ。」

「えええええー。でも、森からの魔力は感じないですよ…?」

「おかしいな、何でだろう。ちょっと止まって、集中して森の魔力を感じてみて?」

「はい。」


 シルフィーは一度止まって、その場で目を閉じた。集中するためだ。両手はクロスさせて両腕の力こぶ辺りに手を置いている。そして、何度か深呼吸するとシルフィーが何かを感じたようだ。


「アレク様の魔力は何故か感じることができるようです。。いつも傍にいるからでしょうか?アレク様のところからすごく膨大な量の何かを感じます。」


 ああ、それならと思い俺は自分の中にある魔力を森の中に返すイメージで大量に放出を始めた。すると・・。


「あ、アレク様から、何かが森の中に散らばっていくのを感じます。これが魔力なのでしょうか?あ・・・、感じます。今、森の魔力も感じます。アレク様の魔力が強すぎて、いままで森の小さな魔力に気が付かなかったようです。」


 俺の魔力は強すぎるようだ。。俺の魔力がシルフィーの魔力感知能力を無理矢理こじ開けたようだ。


 どうやら、魔力はなんとなく感じているようだ。あとは歩きながら、森の魔力を感じてもらおう。こればかりは、練習するしかないのである。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 森を歩いていて、昨日と違うのは、頻繁に魔物に遭うようになった。何故、急に魔物が増えたのだろう。もしかしたら、シルキー様が顕現されたから、他の魔物たちは住処を奪われ遠くに逃げていたのかもしれない。その魔物たちが戻っているとしたら、説明はつく。まぁ、あくまで推測だけど。俺は、電波レーダーで近づいて来る邪魔な奴だけ討伐していった。ウサギの魔物が比較的多い。あとは、オークと少し遭遇している。


 シルフィーが頑張ってくれたこともあり、その日の夕方には村が見える所まで来た。このまま村に入っても迷惑をかけるだけなので、村に入るのは明日にした。それに、やっぱりログハウスで過ごすほうが、気楽でいいし、美味しいシルフィのご飯も食べられる。村に入ると、多分、村長さんの所などに泊まることになるだろうからな。


 翌朝、朝食を済ませると、早速村に入った。この村は、特に壁に囲まれることもなく、木の柵があるだけだった。村の中は、住宅地と、畑のエリアに分かれているようだ。竜神族の村とそれほど規模は変わらない。何か、懐かしさを感じるな。


 俺は、その辺の男を捕まえてお願いをする。


「すみません、冒険者ギルドから派遣されてきたのですが、村長さんはどちらにいらっしゃいますか?」

「ん?子供なのに冒険者か?村長の家なら、ここをまっすぐ行ったところのあの大きい家だ。」

「どうも、ありがとうございます。」


 やはり、子供では不安だろうか。俺達は、そのまま村長の家まで行った。村長の家は、村では一番大きい家だった。それは、いざという時、宿泊の場所にもなるからだろう。木造の平屋であった。


「こんにちは。冒険者ギルドから来たのですが。」

 俺は、玄関を叩いてそう言った。


「はーい。」

 村長さんらしいおじさんが扉を開けた。そして、俺たちを一度見てキョロキョロしている。

「あれ、冒険者の方々が来られたのではないのですか?」


 うん、やはり冒険者には見えませんよね。今の俺たちは、8歳の少年、少女と、3歳の幼女だ。うん、冒険者ギルドから紹介状でも書いてもらえばよかった。。さて、どう説明しよう。そうだ、ギルドカードがあるじゃないか。俺はまずギルドカードを提示した。


「えーと、こちらを見てください。俺たちDランクの冒険者の二人パーティです。この子はただの家族です。気にしないでください。」


「な!?冒険者ですか? む、本当みたいですね。」

 村長さんはカードを確認した。


「それで、倒すのはオークですか?」

「は、はい。何故か、最近になって急にオークが増えまして。。二人で行かれるのですか?」

「いえ、この子も連れて行きます。」

「えー、危険ですよ。私どもが預かりましょうか?」

「いえ、問題ありません。戦うのは自分ひとりですので。シル・・、こちらの女性に見ていてもらいますから。」


 村長さんは不安そうな顔でいたが、俺はオークのだいたいの場所を聞いてすぐに村を出発した。オークくらいで心配されて足止めされても困る。俺は早くこの依頼を完了させてリオに帰りたいのだ。


「おねえちゃん、さっきご主人しゃま、ニーナの事家族っていってくれたぁ!」

「よかったね、ニーナ」

「えへへー」


 ニーナがすごく喜んでいる。家族と言ったことが、そんなに嬉しかったのかな。俺は奴隷から解放した時から、家族だと思っていた。


「ニーナは家族に決まっているじゃないか。これから一緒に住むんだからね!」

「えへへー、嬉しい。ありがとご主人しゃま。」


 しばらく行くと、電波レーダーにオークの反応が多数あった。おいおい、この数は増えたってレベルではないぞ。どうやら、この先にオークの集落が作られているようだった。


「シルフィー、この先にオークの集落がある。」

「え、集落ですか!?」

「うん。数で言うと・・・・30匹くらいかな。これは、一匹ずつ狩っていたら何匹か後ろに逃してしまうかもしれない。なので、ちょっと大規模魔法を使うね。」

「だ・・・、大規模魔法ですか!?」

「大丈夫、シルフィーには結界を張っておくから。シルフィーは俺が守る。」

「は、はい。」


 シルフィーには言わなかったが、本当は50匹である。まぁ、大規模魔法でなら30も50もそう変わらない。それに、集団の中には特に多い魔力を持つ者がいる。あれはたぶん、オークの上位種だ。アニメでよく見ていたけど、あれがオーク将軍ってやつかな?


 俺達は、オークの集落が見える少し小高い丘まできた。風下からゆっくりと近づいたから、まだ気付かれていない。


「あ、アレク様? あれ、30とかそんな少ない数じゃないですよ・・。大丈夫なのですか?」

「大丈夫。でも、シルフィーは絶対に俺より前に出ないこと。魔法の影響がシルフィーにも行ってしまうかもしれない。念のために結界を張っておくよ。」

「はい。」


 俺はシルフィーとニーナに結界を張ると、二人の周囲にもう一枚立方体の大きな結界を張る。そして、俺は少し前にでて大きく深呼吸をする。

 俺は、オークたちの集落にある全ての魔力を集め始めた。特にオークの体内にある魔力を大量に吸い上げる。さらに、周囲の自然の中にある魔力も集めた。その膨大な魔力を体内で圧縮していく。まだ幼い小さなオークは、魔力が吸い取られて片膝をつく者もいる。

 しばらくすると、いつもの様に自分の体が発光してくる。魔力が多くなりすぎると発光するらしい。普段ならこのくらいで魔法を発動させるのだが、今回はもっともっと集めて圧縮していく。次第に、白い光が青く変わっていった。まるで、炎の温度が上がると青く輝きだすように。


 オークが、異変に気が付いてあたりをキョロキョロと探しているが、俺はずっと遠くにいるので見つかることもない。それに風下なので匂いでたどることもできない。

 俺は次の段階に入る。オークの集落を囲むように円形をイメージし、その内側のみターゲットとする。

 そして、ターゲットの円形状の内側を土魔法で中心にいくほど深くなるように沈下させた。オークたちは範囲が広すぎて地震と勘違いし、その場に座り込む。

 次に円の外周に大量の水を出現させ、それは中心に向かって流れ込み濁流となって全てを押し流す。

 とどめに俺は雷魔法を使用した。大きく開いた右手を突き上げ、上空をマイナス、円の内側をプラスにイメージし残りの魔力のほぼ全てを使って雷を何十本も濁流に落とした。これにより、範囲の中にいるオークはすべて感電死するだろう。俺は、立っているのが辛くなり、肩ひざを地面についてこらえる。魔力切れの症状だ。


 今現在の俺にできる事すべてをぶつけた。これで、まだ立ち上がってくるオークがいれば、もう立ち向かう魔力は残っていない。俺は、電波レーダーにまだ生存しているオークがいるか確認した。流石に、あの濁流にのまれながら感電を防ぐのは無理だったようだ。オークの集落があった所から生命の反応は無くなっていた。

 後ろですべてを見ていた娘二人が、口を開けて呆然としている。再起動はしばらく無理そうだ。


 魔法によって作り出された水がすべて消え去った頃、俺達は、集落があった所へ降りて行った。もう集落とは言えないだろう。建物はすべて流されてしまっている。あちこちに、オークが倒れている。俺は、シルフィーに頼んでオークを残らず収納してもらった。中には上位種と思われる金属の鎧をまとったオークもいたが、同じように死んでいた。


「アレク様、天変地異も起こせるのですね。。本当に神様じゃないんですか?」

「違うから。あれも、ちょっと威力が大きいだけのただの魔法だから。」


 シルフィーは納得していないような顔でこっちを見ている。それにしても、疲れた。。魔力を使いすぎたようだ。全てのオークを回収すると、俺は、シルフィーに提案をした。


「シルフィー、すまないがここでログハウス出して少し休まして。。魔力が無くなってもう倒れそうだ。」

「は、はい。すぐに準備しますね。」


 

 シルフィーが出してくれた家の中で結界を張ると、俺はベットに横になり、すぐに意識が夢の中に落ちて行った。





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