41 シルキーの加護
しばらく二人の様子を看ていると、ニーナが先に目を覚ました。シルキー様に、一番始めに魔法で眠らされたので、早く目が覚めたらしい。
「んー、あ、ご主人しゃま。。あれ、ここは?」
「ニーナ、目が覚めたか。」
ニーナはボーっとしている。しばらく周辺をキョロキョロしていると、シルキー様を見つけたようだ。
「あー、みどりの人いた。」
「うん、このお姉さんは敵じゃないからね。大丈夫だよ。」
続いて、シルフィーが目を覚ました。
「んー、あれ? アレク様がいる。ここは天国ですか?」
目覚めて、いきなり何を言いだすのだ、この子は。ここが天国だと、俺も死んでしまっているって事ですけど。。とりあえず、俺はシルフィーに色々と説明をする。
「えーと、いろいろ長くなるけど説明するね。」
俺は、いままでのシルキー様から聞いた説明を、同じようにシルフィーに話してあげた。
「え、あれは私の試練だったのですか?」
「そうだったんだよ。それでシルフィーは、試練を無事に乗り越えることができたんだよ。おめでとう。」
「ありがとうございます。」
近くにシルキー様がやって来た。
【それでね、シルフィーさんに加護を授けたいのだけど、私は森の精霊なので、森の加護になるんだけど良いかしら?別に断ることもできるわよ?】
「その森の加護と言うのは、どのようなものなのですか?」
【森から生命力や、魔力を自分の体内に取り込むことができるようになるわ。つまり、森の中にいる時は、普段より強くなる感じかしらね。それから、木々を育てたら成長が早くなったり、美味しい作物が採れたりするわね。あと、森は土属性なので、土系の魔法適性が上がります。あなたはアレクさんの盾になりたいのでしょう?だとしたら、防御の結界など使えるようになるので、シルフィーさんには相性がいいと思います。】
「そんなすごい力、是非貰いたいです。でも私、魔法使えないですよ?」
【誰の体内にも魔力はあるんだから、使えるはずよ。アレクに魔法を教わるべきよ。】
「アレク様、私でも魔法を使えるんでしょうか?」
シルフィーは少し不安そうだ。でも、教えるのはもちろん可能だ。
「やってみないとわからないけれど、教えてあげるよ。」
「ニーナもまほう覚えるーー!」
ニーナも、魔法を覚えたいようだ。というよりは、みんなと同じことをやりたいみたいだな。
【ニーナさんは神獣なのです。まだ幼いので使えませんが、そのうち神通力を使えるようになるでしょう。】
「ニーナは神獣なのですか?」
「しんじゅう?しんじゅうって何?」
ニーナは不思議そうに聞いてきた。そう言えば、試練が始まる前にもテレパシーで幼い神獣とか言っていたような気がする。
【神獣とは、神に仕える霊獣の事ですね。まぁ、女神様の使者に将来なると思っていればよろしいかと。】
ニーナは、まったく理解できていないような顔をしているけれど、まぁまだ小さいから仕方がないだろう。しかし、ニーナが神獣だったなんて。。なるほど、女神様が俺に神託を授けるはずだ。将来、きっと重要なポストを与えられるのかもしれない。
【それでは、そろそろシルフィーさんに加護を与えますね。私の前に跪いてもらえますか?】
「は、はい。よろしくお願い致します。」
そう言うと、シルフィーはシルキー様の前に跪いた。そして、頭を下げて目を閉じる。少し緊張しているようだ。これから儀式が始まる。シルキー様がそっと両手をシルフィーの頭の上あたりに差し出すと、その瞬間、空気が変わった。まるで神殿にいるかのような神聖なオーラが、シルキー様から溢れ出てくる。
「うっ・・」
俺とニーナは思わず跪いていた。
この感じ、まるで女神の眼前にいるようだ。よく考えれば、精霊様は女神様と同等の存在だ。あたりまえだった・・・。いままで、分身体のシルキー様としか接点がなかったため、本来の身分の差に気付かなかった。本来なら、こうして普通に話すことすら許されない相手なのだ。
しばらくすると、シルキー様の両手の間に何か丸い物が出現した。その丸い物は次第に大きくなり、緑色の風が渦巻く玉になった。シルキー様が両手をさらに前に広げると、その球はシルフィーに向かって動き出す。シルフィーの頭の上まで来たその球は、次第に大きくなりシルフィーを包み込んでいく。これが精霊の加護を授ける儀式なのだろうか。とても神秘的な光景が目の前にひろがっている。
次第に、緑色の光がシルフィーから消えていくと、儀式は終了したようだ。
儀式が終わってから、確かに周囲の魔力がシルフィーに流れ込んでいくのがわかる。人間にしては体内に感じる魔力量が多い気がする。それも、どんどん増えていく。これって、一杯になるとどうなるのだろう。
「シルキー様、確かにシルフィーに魔力が流れ込んでいるのは感じるのですが、シルフィーの魔力量が限界にくると流れ込んでくる魔力も止まるのですか?」
【ええ、魔力はシルフィーの最大魔力量までしか増えませんよ。しかし、魔力がアレクさんには見えているのですか?普通は、魔眼を持っている者にしか見えないはずなのですが・・。】
「いえいえ、見えませんよ。何となく感じるだけです。」
俺がそう言うと、不思議そうに首をかしげる。
【魔力を感じる竜神族なんて初めてみましたよ。この周囲の森の魔力も感じているのですよね?】
「ええ、自分は大きな魔法を使いたい時は、周囲の魔力を自分の中に取り込みますから。」
すると、シルキー様は唖然としている。どうしたのだろうか?何かおかしいことでも言ったか?
【いや、普通は周囲の魔力を自身に取り込むなんて不可能ですよ・・。それも、女神様から授かった力なのでしょうか。】
「え・・、幼い頃に魔力を感じる練習をしていたら、自然とできるようになったのですが・・。」
シルキー様は、俺を不思議そうに見つめている・・・。
【おかしいですね、周囲の魔力を取り込むには、通常精霊の加護が必要なのですが。。以前から感じておりましたが、あなたは非常識すぎます。】
そんな事を言われても。元々、この世界は俺にとって非常識だ。俺にとっては、全てがファンタジーなのである。
シルフィーは突然驚くように言った。
「アレク様、すごいです。何か力がどんどん湧いてくる感じがします。これが、森からの生命力なのでしょうか?」
俺には、魔力しか見えないので、生命力なのかどうかはわからないけど。たぶん、そうなのだろう。
「自分には感じられないけど、たぶん、森から常に生命力を分けてもらえるようになったんだろうね。すごいよ、シルフィー。」
ゲームで言うと、シルフィーは、HPとMPが常時回復している状態なのだ。それは、かなりチートな力だと思う。HP常時増加は俺もほしい。
儀式を終えたシルキー様は、俺たちに向かって告げた。
【それでは、私は女神様の神託に従い、シルフィーさんに加護を与えました。これで私の仕事はおしまいです。また、森の奥に戻ることにしますので、あなた達とはここでお別れです。同じ女神を支える者として、また会うこともあるでしょう。それまで、皆さんご自愛ください。】
俺達は、跪いて感謝を述べた。
「「「ありがとうございました。」」」
顔をあげると、もうシルキー様の姿はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「行ってしまったようですね。アレク様、もうすぐ夕暮れとなります。野営場所を探さないと。。」
「そうだな。。今日もまた、木の硬いベットで寝ないといけないのかぁ…。」
「何か袋でもあれば、葉っぱでも中に詰めて下に敷くのですが。。」
シルフィーが良い事を言った。
俺は、毛皮の中に葉っぱを詰めたら、布団の代わりにならないかと思ったのだ。俺は電波レーダーを確認する。おや、いなくなっていた魔物の反応がある。ビックボアも何体かいる。
「シルフィー、ちょっと魔物を狩ってくるから、ここでログハウスを出して避難してて。結界はって行くから。」
「はい。」
俺は出してもらったログハウスに結界を張ると、上空高く飛び上がった。そして、二体のビックボアを持って帰ってきた。これ以上は持てないので仕方がない。俺は、過去の記憶から鹿の解体を思い出しながら、同じようにビッグボアの皮を剥いでいく。そして、袋になるように裁縫していった。その中に葉っぱをたくさん詰めていくと弾力のある敷物ができた。
「これ、布団の代わりにならないかな?」
「凄いです、アレク様。ちょっと硬いけど、弾力があって眠れそうです。」
俺は、これを人数分作った。
夜になると、食事を終えて俺は風呂の準備をする。いつものように、魔法で水を出しお湯を作る。ニーナをお風呂に入れるのはシルフィーがやってくれる。俺が風呂から出ると、ニーナはもう寝てしまったらしい。昼間あれだけ寝たのによく寝られるな。
「シルフィー、寝る前に俺は君に謝らないと。。」
「え? どうしたのですか?」
「今回の試練は、俺の試練でもあったんだ。でも、俺は試練を越えることができなかった。」
俺は、申し訳なさそうに俯いたまま言った。
「実は、解呪の魔法で自由になれたんだよ。でも、俺は神の力と言われた神通力に恐れてしまい、心のどこかで諦めてしまったのかもしれない。結果、シルフィーを失うところだった。。」
「そうだったのですか・・。」
俺は、ゆっくりと頭を下げて言った。
「ごめんなさい。」
「え?やめてください。」
シルフィーは俺の手を取って、自分の方に引っ張り上げる。
「嫌ですよ、顔をあげてください。」
「俺は頑張るよ。シルフィーが安心して見ていられるようにもっと強くなるから。」
「はい、私もアレク様を守れるように、魔法を頑張ります!」
そう言ってシルフィーはにっこり笑った。
俺は、逆に彼女の手を掴むと自分の方に引き寄せた。
「え?」
俺はゆっくりとシルフィーに近づくと、腕を後ろに回して抱き寄せた。
「え?え?」
「シルフィー、俺も大好きだよ。」
「あ、アレク様。」
シルフィーは、始めは驚いて身体に力が入っていたが、次第に安心したのか俺の胸に身を預けてきた。
「ありがとうございます。」
俺たちはしばらくそのまま、お互いを感じていた。




