29 サプライズプレゼント
父さんとの手合わせを無事に回避できた俺は、シルフィーにまた後でと言ってそれぞれの部屋に入っていった。俺は、やりたいことがあった。錬金術の練習である。少し前から練習はしているのだが、あまりうまくいったことがない。
俺は、元銀貨だったものを取り出し再び練習を始める。まず、溶解から。固体の銀の塊に魔力を込めて温度を上げていく。空中で、ふわりふわりと回転する銀の物質。次第に柔らかくなり、それを伸ばしながらリング状に変形させていく。うん、今回の銀細工はなかなか上手くいったと思う。これも、器用スキル最大の恩恵だろうか。
シルフィーには内緒にしているが、実は教会の牢屋の中で土を溶かしていた時に、一緒にダイヤの原石も見つけていたのである。それを今回はシルフィーに贈りたいと思っているのである。これは、絶対に秘密にしなければいけないのだけど、ダイヤの原石があったのは、ぽっとん便所を作る時に深く掘っていった時だった。これが本当の運が付くダイヤ。なんちゃって。いえない、出土した場所は絶対に言えない。そして、シルフィーとは、もともと風の精霊を意味する言葉であるから、指輪の表面にも風をモチーフに波打つような細工を彫っていく。決して、あのラーメンのどんぶりの内側にある渦巻ではない。
ダイヤと言っても原石のままなので、カットをしないといけない。俺は、一緒に出土した小さなダイヤのかけらを使用して、原石をカッティングしていく。ここでも、器用スキル最大を利用して、最高の品質のダイヤを作る。大きさ的にはたぶん、2カラットくらいなのかな。かなり大きい。そして、先ほど作ったリングにダイヤをセットして、カギヅメの部分をつくる。これで完成だ。
俺はいよいよ、このサプライズイベントを決行する事にした!!まずは、どうやってシルフィーを連れ出すかだ。でも、それは簡単だと思う。普段通りに一緒に外出すればいいのだから。
その日の昼過ぎ。俺はシルフィーを誘って村を案内した。シルフィーが知らない場所はまだまだある。今日はそのうちの1つ、北の森の小さな湖にやって来た。そこで2人っきりになった俺は予定通り話しかけた。
「えっと、シルフィーに渡したいものがあるんだ。」
俺は、そっと右手を出して広げた。そこには、ダイヤの指輪がちょこんと乗っている。
「え!?これは?」
「サプライズプレゼントだよ。いつも俺を支えてくれるシルフィーに感謝を込めて何かプレゼントをしたかったんだ。」
「私に?」
「そうだよ。」
「でも、こんな高そうなもの。。」
「これ、自分で作ったものだから銀貨数枚しかかかってないよ?ダイヤもこの間の教会の土を掘ってたら見つけたんだ。安心して受け取ってもらいたい。」
「アレクさま、ずるいです。こ、これは不意打ちです。」
シルフィの目から涙が溢れ出る。そして頬を涙が流れていく。
「うれしい。。うっうう。」
シルフィーは堪えきれなくなって、その場に座り込み大声で泣き始めてしまった。大人のように振る舞っていてもシルフィーはまだ7歳の子供なんだ。俺もしゃがみこんで、しばらく頭を撫でてあげた。
そして俺は、リングの内側に「dear sylphy」と刻印を入れて説明した。
「この意味は、親愛なるシルフィーへって意味だよ。親愛なるっていうのは、好意を持っているって意味だよ。」
「アレク様、私もあなたに好意を抱いています。」
シルフィーが、泣きながら俺の胸にしがみつく。俺は、びっくりしたけれど、何とか受け止めたよ。硬直したまま抱きしめてあげることもできなかった。両手を広げたままぴくぴくしている。。でも、言う事はきちんと言っておかないと。。
「シルフィー、これからは主従の関係ではなくて、共に支え合えるような対等な関係になりたいと思うんだ。おなじ女神を信仰する者として、そして、おなじパーティの相方として。これからも一緒にいてほしい。毎月のお給金はなくなるけれど、ギルドの依頼とかで稼いだお金は、俺とシルフィーの共有財産と言う事にしたいんだ。」
「は、はい。私もお給金で繋がっている関係より、そちらの方が嬉しいのです。まるで結婚したみたいです。。」
「そ、それはまだ早いと思うけど。。」
「否定はしないんですか?ふぇー」
シルフィーは盛大に真っ赤になった。
「だ、駄目です。私、幸せすぎて死んでしまいます。」
そしてシルフィーは指輪を右手薬指にはめた。
「いつか、左手にもくださいね!」
と言った。今度は、俺が恥ずかしくなった。