28 竜神族の村
村に帰省した翌日、少し寝坊した。交代で見張りをしていたとしても、寝不足ではあった。なので、寝すぎたのだろう。
昨日は、俺が女神様と会うまでの経緯を説明したりして、結構疲れたのもあるのかもしれない。結局、どの様に説明したのかと言うと、フェアリー族を助けてやってくれと頼まれたと伝えてある。嘘は言っていないし。前世の生まれ変わりの事は、当然秘密だ。というか、生まれ変わりの事は両親に話すつもりがない。前世での一生はもう終わったのだ。今を一生懸命生きるだけだ。前世の記憶は、十分活用させてもらうつもりだけどな。今の俺は、過去の記憶を思い出しただけで、もう一生忘れることはない。その記憶は、この世界では十分な力となる。そのうち、魔導書を10万冊くらい覚えてもいいと思う。
起き上がった俺は、2階にある寝室から1階リビングに行くと、もうシルフィーが料理をしていた。
「あれ、仕事休みでいいよ? 母さんに甘えようよ?」
「いえ、洗濯も掃除もしてないのに、逆に落ち着かないです。せめて、得意な料理くらいはやらせてください。」
「そっか。」
シルフィーにも1日中ゆっくり休んで、好きな事をして過ごして欲しいんだけどな。本人がやりたいなら、それが好きな事なのかもしれない。
料理ができて、みんなでいただきますと言ってひと口食べる。そしてみんな固まる。俺も固まる。また料理の腕を上げたんじゃなかろうか?再起動した父さんが、
「う、美味い。美味い。」
「ほんと美味しい。」
「。。。」
本当に美味しい料理って、食べたら感想は「美味しい」しか出ないよね。姉さんなんか、まだ固まってる。それからは、みんな夢中で食べるので、誰も喋らない。これもいつものこと。後片付けは母さんに任せて、俺はシルフィーと散歩に行った。
玄関を開けると、夏だけど朝なのでまだ暑くはない。ひんやりと涼しい風が吹いてくる。外に出ると辺り一面緑で覆われている。緑を見ていると、自然と心が落ち着く。土と草の匂いが、村に帰ってきた事を実感させてくれる。やはり、村にいるのが1番落ち着くなぁ。俺は、畑と畑の間の土の道をゆっくりと歩いていく。目的地は、村が一望できる小高い丘だ。
丘に着いた俺たちは、持ってきたビニールシートを敷いて座った。村が一望できるこの場所は、俺のお気に入りである。前にシルフィーと帰省した時も、連れてきてあげた。座って、ぼーっと空を眺める。夏だからか、青く広がる空が澄んでいる。雲がかなり高い位置にあるからか、とても空が高く感じる。少し風は強いけれど、寒くはない。おれは、ゴロンと寝っ転がって空を見ていた。
「いいなぁ、こーやってのんびり空を眺めるの好きなんだよね。」
「きもちいいですねー。」
シルフィーも風が気持ちいいみたいだ。
「あ、あのぉ。よかったら膝枕でもしましょうか?」
突然、シルフィーがそんなことを言った。ええー、何処でそんなこと覚えたんだろう。
「え、いいのかな?」
「はい、どうぞどうぞ。」
と、自分の膝をポンポンたたく。
「じゃ、じゃぁ・・。失礼します。」
なんか、言葉が変になった。緊張してしまう。
俺は、そっとあたまをシルフィーの膝に乗せると、目の前にシルフィーの顔が。しばらく、ぼーっとみつめていると、すっと目をそらされた。あらら。まっいいか。俺は少し首を横にして景色を楽しんだ。しばらくして、またシルフィーの顔をみた。最近、よくシルフィーの顔を見るけれど、これほど近くで見たことはない。シルフィーは本当にここ数年で可愛くなった。黒髪がつやつやしていてきれいだ。風でサラサラと揺れる髪を見ていると、そっとシルフィーが髪を耳に引っ掛ける仕草をする。うーん、目線を離すことができない。可愛いというか、綺麗といってもいいくらいだ。すると、またシルフィーが俺の方を見た。また見つめ合うふたり。
どきどき。
・・・・、ぐきっ。
シルフィーは俺の頭をおもいっきりひねった。
「あ、あまり見ないでください。。」
し、シルフィー・・・、痛い。。
どのくらい時間が経ったのだろう。気が付いたらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。俺は、あわてて起きた。
「うわっ、ごめん。つい眠ってしまったらしい。」
「いえいえ、よかったです。すこし足がしびれてて、あはは・・・」
「えー、ごめんよ。起こしてくれたらよかったのに。」
「でも、気持ちよさそうに眠っていたので。。」
シルフィーはすぐに足を崩して座りなおした。立てるまでもう少しここでのんびりしていよう。俺は、またその場でゴロンと横になった。
村では自然が多いからか、リオの町より魔力の量がずっと多い気がする。全体的に魔力が濃い。俺は、深呼吸をして魔力を自然から取り込み始めた。すーっと息を吸い魔力を足から吸収するイメージをする。そして、体を隅々まで循環させて、口から魔力を自然に返す。呼吸をするように魔力を取り込み、放出していた。すると、体中の疲れや毒素がすべて吐き出されるような気がしてくる。次第に、周囲に魔力が集まってきたのか、俺の周りでキラキラとダイヤモンドダストのように濃くなった魔力が輝きだした。とても幻想的な景色になっている。シルフィーにも見えるのか、すこし驚いているように見える。
「アレク様って、なんか本当に神様みたいですね。」
ふと、そんなことを言われた。
家に帰ると、父さんが外で何故か木の剣で素振りをしていた。
「お、アレクもどったか。お前、冒険者になったんだよな?少し、手合わせしてやろうか?」
「やだ。」
俺は、即答した。せっかく、のんびりするために帰省したのに、疲れることしたくないよ・・・。