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26 今度は国王様が面会に来た。

 その翌日、朝ご飯の後片付けを子供たちがやっていると、なんと、今度は国王様が自らやってきた。いや、おかしいでしょう?国王様が何で牢屋に出向いてくるんだよ。ありえなさ過ぎて何度も見返したよ。


 俺は、子供たちに静かにしているように伝えて、国王様を牢屋の中から迎えた。


「国王様自らなぜこのような所に?」

「御使い様が、本当にこのような所にいらっしゃるとは・・・。おい、教会の者には話を通したのか?」

 王様は部下の者に問いただした。しかし、

「はっ、教会の上層部でこの者は偽物であると言い張っております。」

「困ったものじゃの。。御使い様、何か証明できるような物は無いのでしょうか?」

 証明できるもの?そんなもん、言葉で伝えるしかないし。。信じてもらうしかない。雷魔法を使うか?でも、国王様に電撃を食らわせたら間違いなく死刑だしな。自分が御使い様だと証明する手段は無いのではないか?


 女神様の顕現を直接見た伯爵様とエヴァは無条件に信じてもらえるが、それ以外はやはり信じないだろう。だからと言って、女神様にちょっとこっち来てよ。って言えるはずもない…。


 うん、無理だ。


「うーん、もう信じてもらうしかありませんね。。いくら魔法を使っても、名が売れている魔術師くらいなら同じことができますからね。ああ、そうだ。市民の皆さんで何処か体を悪くしている人がいたら、ここに来るように宣伝してもらえませんかね?病気とか治してあげると、信じないにしても自分の味方になってくれる人が増えるんじゃないでしょうかね?」


「ふむ、それは良い考えですな。。ちなみに、私も診てもらえますかな?」

「ああ、いいですよ。」


 俺は、最近覚えた光魔法の、医療用魔法『診断』を発動させる。これは、手をかざして魔力を放出することによって、体内の詳しい状態を診ることができる。軽い怪我や病気の場合は、子供たちにも使った体内の悪い物を除去する魔法で回復する。


 重度な怪我などは、もっと難しくなる。俺は以前、学校の図書館に解剖学の本があったので全て読んでいる。俺は一度読むと忘れることはないので、人体の血管の走っている位置や神経の位置、臓器の位置まですべて把握している。その正常な状態と比較して、異なっているところを元に戻してやれば、重度のけがも治すことができる。もちろん、死人は治せないが。


 国王様の診断結果は、ほぼ良好。すこし脂肪が多いが、すぐに病気になるほどではない。俺は、魔力を少し使って、国王様のお腹の脂肪を少し燃焼させて除去した。


「はい、国王様はとくに問題ありませんよ。」

「そうか、ありがとう。なんか、体が軽くなった気がするが気のせいか。」

 いや、体重がたぶん500gくらいは減ったかも。それは気のせいじゃないよ。


「ああ、ひとつお願いしたいことが。教会に支払っている国の孤児院に向けた支援金について、抜き打ちで検査してください。あと、各教会の孤児院があるところは、孤児たちの体調の確認をお願いします。ここの孤児院の子供たちは栄養失調かなり危険な状態でしたので。」

「うむ、それは伯爵から聞いておる。今調べさせているからな。」

「ありがとうございます。では、そういう事で。」


 俺は、深く頭を下げて礼をした。

 そして、国王様のお帰りを見送っていると、うん?いつまでたっても帰らないぞ。


「ところで、伯爵が言っていた食事とかはまだ食べておらぬのかな?」

 おい・・・、国王様。ここに来たのは美味いご飯を食べるためかよ。。


「残念ながら、朝食は先ほど済みました。。」

「なんと・・・。お昼ご飯は何時ころになるのかのぅ?」

「あの・・、孤児たちのご飯なら今からでも差し上げますよ?」


 そう言うと、国王様はしぶしぶ帰っていった。いや、そこは孤児たちの食事を食べようよ。。


 それから、数日は数人が俺のところに診てもらいに来た。国王様が宣伝し始めたのだろう。ある時、失明をしたという小さな男の子が母親と一緒にやってきた。いままでも、色んなところで見てもらったが、無理だといわれたらしい。


 俺は、男の子に座ってもらい、頭に手のひらをかざした。『診断』。


 俺は、目の詳細をじっくりと見ていく。目の表面は特に損傷はない。よくよく見ていくと、目の後ろ側の視神経に当たるところが損傷していた。俺は、魔力を込めて回復魔法を使った。場所は目の後ろの視神経。一本一本の神経の束をひとつずつ繋げていくイメージをする。そして魔法発動。俺の掌から眩い光が出現した。光がおさまると、男の子にゆっくりと目を開けるように言った。


「あ、見える。見えるよ? お母さん!!」

 と、母親に向かって言った。母親はその言葉に泣き崩れた。

「ありがとうございます、御使い様。この御恩は一生忘れません。」

 母親と、男の子は深く礼をして牢屋から出て行った。


 この件があってから、ますます教会の地下に訪れる病人やけが人が増えていった。ある時は、歩けなくなった人を歩かせた。ある人は、骨折の際に骨が変にくっついてしまったらしく、正常な骨の形に成形してあげた。診断の結果、がん患者までいたが、例の悪いところを除去する魔法であっけなく治ることが判明した。前世では致死率がかなり高い病気なのにな。。


 次第に、俺たちの活動が認められたのか、市民の中に噂が流れ始めた。

『いま、教会の地下に捕らわれているお方は、本物の御使い様であられる。』

『教会は、国からのお金を孤児たちに使わず、自分たちの食費に充てていたらしい。』

『教会は、御使い様を不当に捕えている悪い団体だ。』


 うん。全部本当のことだぞ。

 この世論に恐れをなした教会側は、今度は教会側で御使い様を抱え込もうと方針を変換したようだ。


 ある日、この教会の司祭と名乗る者が地下にやってきた。もちろん、隠し扉とかは見えなくしてある。

「御使い様、どうやら我々は間違えていたようでございます。申し訳ございません。なんと、教皇様自らが神殿に迎え入れたいと仰っているそうです。これから、教皇様にお目通りしていただけないでしょうか?」


 はぁ?それを牢屋の中に入っている俺に向かって言う言葉かよ。まずは出せよな・・。

「嫌だね。どうしてもと言うのなら、その教皇様が自らここまで足を運べと言っておけ。」

 そういって、帰れと俺は手を振った。


「な、なんと無礼な。。」

 結局、その司祭は俺を牢から出すこともなく出て行った。。


 その日の晩御飯は和風だった。ご飯に味噌汁、ほうれん草のおひたし。肉じゃがだった。懐かしい味がした。今日の晩御飯には何故か、国王様がお忍びでやって来ていた。あと、以前から巫女さんが増えていたが、今晩も1人多い。何故か自然に中に溶け込んでいるが、彼女を見た俺は一瞬固まってしまったが相手は俺を無視して行ってしまった。う、うん。何か考えがあるのだろう。その黒髪の巫女さんの事は見なかった事にした。晩御飯は美味しすぎるからなのか、みんな無言で黙々と食べる。なんか怖い。あの巫女さんも、ひと口食べた後プルプルと身震いして、ガツガツと食べている。


 その数日後、本当に教皇自ら俺に会いに来た。おいおい、本当に来ちゃったよ。



 教皇様は、数人の部下を連れてやって来た。教皇が指示したのか、俺とシルフィーは一緒に牢屋から出されて、教皇が待つ部屋へと連れてこられた。教皇の他には司教と呼ばれている者、数人の司祭、後、例の巫女様も何故か抜擢されていた。


 俺は、向こう側にその黒髪の巫女様がいるのを見て、すぐに跪いた。それを不思議そうに見たシルフィーも同じく跪く。


「ほほう、なかなか良い心がけじゃ。」

「いえいえ、わざわざこちらに足を運んでくださりありがとうございます。」


 俺は思ってもいないことを、教皇様に言った。あんたに跪いたわけじゃないよ。。


「そなたが、女神の使者を名乗る者だな。今も女神様のお言葉は聞こえておるのか?」

「いえ、全く何も聞こえません。」


「そうじゃろう? 実はわしもな、幼い頃に女神様のお言葉を聞いたことがある。だか、大人になると全く聞こえなくなってしまったのじゃ。その頃にはもう、重要な役職に抜擢されて、御使い様だと持ち上げられて、『女神様の言葉は聞こえません。』と言える状況ではなくなっておった。」

 いや、俺は確かに声は聞こえないけれども、女神様のお姿を見ることはできるぞ。


「それではあなたの言葉を、女神様の神託だと偽って広めたと言う事ですか?」

「うむ、それによってこの国の教会は本当に大きくなった。大きくなることで、貧しい者を救うこともできたのだ。きっと、女神様も理解してくれると思うのじゃ。」


「それでも、女神様の名前を利用するのは間違っていると思いますよ。それならば、自らの言葉として指導すればよかったのです。」

「それでは、誰も信じないであろう?どうじゃ、ワシの下で女神の言葉を一緒に広めないか?大司教の席を用意するぞ。」

「いえ、全く興味ありませんので。」

「そうですか・・、残念ですね。しかし、ここまで秘密を話したのですから、申し訳ないですが口封じさせてもらいうぞ。おいっ」


 教皇様がとうとう俺の抱え込みを諦めたようだ。しかし、やはりそのまま帰してはくれないのな。教皇様の指示により、数人の護衛たちが部屋に入ってきた。もちろん、武器も所持している。さて・・、どうしたものか。このまま暴れてもいいのか?俺は、例の黒髪の巫女をチラッと見た。すると、その巫女の口元がにやりと笑った。。その瞬間、俺たちの時間が止まった。


 その黒髪の巫女は、ひとり前に歩きだし。俺の横に立つとクルリと教皇様の方を向いた。


「ああ、あの小さかった坊やが、人を殺める事を指示するとは、実に悲しいことです。」

「な!? 何故だ、体が動かん。そなたは何者じゃ。」


「まだわかりません?それなりに変装していたのですが、竜の子にはすぐにバレてしまいましたよ?」

 あたりまえである・・・、あんな不思議なオーラを放つ人間なんていないから。。そして、その黒髪の巫女は空中に浮かんだ。そして、光を放つと一瞬にしていつもの女神様の姿に顕現なされた。


 そう。俺は、始めから女神様に跪いていたのだ。





「え・・・、め、女神様?」

 教皇様も驚きのあまり口が開いたままになっている。


「確かに、あなたには神託を授けたことがありましたね。あの頃のあなたは、純粋な心を持っていて虫も殺せないようなやさしい子供でした。それがどうしたのです?、今となっては、私の使者まで殺そうとしているなんて。何があなたをそこまで変えてしまったのでしょう?金か?権力か?どちらにしても、私の名を語った罪は償って貰わないといけないのです。」


「う・・・うぅぅ。」

 教皇様は、その場に崩れ落ちた。。どうやら体の自由は戻ったらしい。


「その前に、この方もここにお呼びしたいと思います。」

 すると、女神様は右手をふっと右側に差し出した。その右側の示した先に国王様が突然現れた。国王様は、一瞬何が起こったのかわからない表情をしていたが、すぐに目の前の尋常ならざる者を視界に収めると固まった。。いや、何か言えよ。。


「えーと、今の国王の名前は何と言いましたか?。サルーンでしたか?」

 国王様は、突然自分の名前を呼ばれて「はいっ!!」と言った。


「はい、私はこのセレネティア王国の王、サルーン・ビン・セレネティアと申します。」

 国王様は、目の前の方が誰なのかすぐに理解して跪いて言った。


「サルーンよ、今後、この教皇のところで私の信仰を一切禁止することに致しました。要するに、使者としてのこの方を破門にします。この世界のすべての教会で活動を辞めさせなさい。よろしいですか?」


「はっ、すべて女神様の指示通りに致します。」


「ただし、教会の施設はそのまま子供たちの孤児院として活用してください。聖職者たちは、そのまま孤児院で働かせること。聖職者の階級などは一切廃止です。すべての者が子供の世話に従事するように。」


「ははっ。」

 国王は、頭をさげて了承した。すると、女神様はクルリと反転し俺の方を見た。



「竜の子よ。」

 げっ、俺の番か。。何かやばいことしたかな。。。


「今回はシルフィーが攫われたにもかかわらず、よく怒りを抑えました。賞賛に値します。」

「はっ、ありがとうございます。」


 すると、女神様から直接頭に声が響いた。

『あなたの前世の食事、本当に美味しかったです! また食べたいです!ではまた!』




 気が付くと、女神様は消えていた。


 まさか・・、女神様。もしかして、日本の食事が食べたかっただけなんじゃ…。





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