25 領主様が面会に来た。
翌朝、俺は少し肌寒い感覚から目が覚めた。この牢屋はどうやらすきま風が吹いていて、夜や朝晩は結構冷える。冬とか、この牢屋は凍死するんじゃないか?今が春でよかった。夏が近いのか、昼間は結構温度が上がる。
今日も、朝食を作っていると、子供たちが降りてきた。
「おにーちゃん、あさごはんてつだうよーー」
みんないい子だ。
俺が、毎回鉄の柵を簡単に外すので、子供たちも驚かなくなっていた。今日の朝ご飯は、また肉になる。こんな事なら、パンやごはんを調達しておくんだった。この世界にも、ごはんや、みそ、醤油など存在する。前世とそんなに変わらない食生活を送ることができる。今日も、肉てんこ盛りの野菜炒めだったが、子供たちは喜んで食べてくれた。後片付けや、皿洗いは子供たちがやってくれる。
お昼前に、突然領主様が面会に来た。男の神官がやってきたので、あわててシルフィーの牢屋から自分の所まで戻る。まぁ、もうバレてもいいんだけどね。巫女さんは黙ってくれているようだ。巫女さんも、美味しいごはんには逆らえないとみえる。なんか、餌付けしたみたいで妙な気分だ。
「アレクシス様、本当に捕まっていたなんて・・・。」
領主様が言った。
「いやぁ、困りましたぁ。シルフィーが攫われてしまいまして、抵抗できませんでした。」
本当は全然困っていないけど。
「あなた様ならば、このような所から簡単に逃げられると思うんですが?」
「いや、逃げても教会の組織は大きいでしょう?全国指名手配とかされたら、大変ですし。」
「しかし・・・、御使い様がこのような場所で・・。」
どうやら、心配されているらしい。仕方がないので中に案内してあげるか。。
「えっと、これから見ることは内緒にしてくださいね。」
俺は、牢屋全体に張ってあった結界を解く。すると、本当の牢屋の状態が現れた。そう、結界でかまどや別のところに作った扉など隠していたのだ。そして、俺の後ろにいる沢山の子供たち。伯爵様は驚いて固まっている。うん、普通は驚くよね。俺は、いつものように鉄の柵を3本ほど引っこ抜いて伯爵様を中に案内する。そして、また結界を戻しておいた。外から見ると、俺が一人で座っているように見えているはずだ。
俺は、伯爵様を奥の部屋へと案内した。昨日の夜のうちに、俺の部屋から行けるもう一つの部屋を作っていたのだ。残念ながら、まだ部屋にはテーブルしかない。床は石畳なので、長時間座っているとつかれる。俺は牢屋から布団を持ってきて、座布団代わりに敷いてそこに伯爵様を案内する。すると、シルフィーがお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう、シルフィー。」
「いえ。」
シルフィーはそのまま俺の隣に座った。寒くないかな?
「こ・・・これは驚きました。流石御使い様ですね。」
「はい、結構快適に過ごさせてもらってますよ。どうやって正々堂々と、ここから出ていくか考えていたのですけどね、なかなか良い考えが浮かばないのです。」
「そうですか。教会は、リオの町で御使い様の名を語る偽物を捕らえたと、言いふらしています。まさかと思って今日伺ったら、アレクシス様が居たという訳でして。。」
すると、扉がひらいて子供たちがシルフィーの部屋から布団を持ってきてくれた。俺たちに座ってほしいみたいだ。ありがとうと、頭をなでてあげる。子供たちは喜んで出て行った。
「あの子供たちは?」
「ああ、ここの孤児院の子供たちです。昨日、自分たちの食事も無いのに、俺にパンをひときれ持ってきてくれたんですよ。。だから、感動してしまって全員に回復魔法をかけてあげました。あはは」
「孤児には見えませんね。みんな元気で目が輝いている。」
「そうでしょう?みんないい子です。ああ、そうだ。国から支給されている孤児院への支援金なんですけどね、教会がどうやら横領しているみたいなんですよ。だから、子供たちまで十分な食費が回ってこなくて栄養失調になっている子供もいたほどです。」
「なんですと!?想像以上に教会組織は酷いみたいですね。。わかりました。国王様にもこの事をお伝えしましょう。」
「そうですか、ありがとうございます。」
ついでに、伯爵様も一緒にお昼ご飯をみんなで食べた。また、野菜炒めだけど…。ちょっと他の食材も調達する必要があるなぁ。伯爵様が野菜炒めをひとくち食べると、予想通り固まった。そして、おもむろにお箸をテーブルに落とした。。
「な!? 何ですかこの超絶美味しい野菜炒めは!!こんなの、生まれて初めて食べました。」
「そうでしょう、そうでしょう・・・。シルフィーの作る食事は絶品なのですよ。ふふふ」
「くっ・・・、牢屋で食べる食事がこんなに美味しいなんて。。晩御飯も食べに来たい・・。」
「いいですよ別に。ああ、ついでに食材を何か買ってきてくださいよ。俺たち、一応捕らえられている設定なので、外に出られないのですよ。。」
「本当のところは、出られるんですよね?」
「ええ、昨日も階段を上がって子供たちを食事に招待しましたから。」
「・・・。」
伯爵様が呆れていた。
そして、伯爵様が帰られるときにお金を預けようと思ったけれど、絶対に来られるかは約束できないのでお金は受け取れませんと言われた。うんうん、そうだよね。
その日の晩、伯爵様は護衛を三人つれて、食材を沢山持ってやってきた。本当に来たよ、伯爵様。よほど、シルフィーの食事が気に入ったようだ。食材を見てみると、鶏肉に、魚、卵、青野菜、椎茸、果物、各種調味料もたくさんあった。シルフィーはそれらを全て収納し伯爵様に礼をして早速料理しに行った。
「な、なんと、シルフィーさんはアイテムボックス持ちでしたか。」
伯爵様は放心状態になっていた。
晩御飯ができた。俺は、また子供たちを呼びに行った。ぞろぞろと、みんなで地下に降りていく。なんと不思議な団体だろう。よく見ると、巫女さんの数が増えている。君たちは呼んでいないんだけどな。
「今日は、伯爵様が君たちに美味しい食材を買ってきてくださいました。みなさん、感謝していただきましょう。」
「「「「伯爵様、ありがとうございます!!」」」」
「沢山食べなさい。」
そして、伯爵様がひと口食べると、また固まった。そして、ガツガツと無言で食べる。子供たちもみんな無言でむしゃぶりついている。巫女さんも何も言葉が出ないようだ。そうだろう、そうだろう。今日の晩御飯は俺がシルフィーに教えた、前世の料理、『すき焼き』だっ!! この卵を絡めて食べるお肉が絶品すぎる。伯爵様も泣きながら食べている。気持ちはわかる。
食事が終わると、伯爵様がおもむろに言った。
「し、シルフィーさんと言ったか? うちの屋敷で料理を作る気はないか?お給金1日金貨5枚出すぞ!?」
「申し訳ございません。私はアレク様のメイドであり、盾でございます。主のそばを離れるわけにはいきません。」
うわ、即答だ。かなり破格な条件だと思ったが…。伯爵様もがっかりしている。
「伯爵様、申し訳ございません。私も彼女を手放すつもりは微塵もありません。彼女は諦めてください。」
俺は、伯爵様にとどめを刺した。同時に、シルフィーにもとどめを刺したようだ、顔が真っ赤になっている。