24 教会の地下に捕らわれました。
さて、これからどうしたものか。。俺は、途方に暮れていた。
ここは、地下一階の牢屋である。壁には一応松明が燃えているが、かなり暗い。まずは、ここで魔法が使えるのか試してみる。周囲の魔力を感じてみるが、普通に魔力は漂っている。俺は設置型のライトを魔法で天井に設置した。この設置型の魔法は結界と同じく周囲の魔力を補給し、持続し続ける魔法だ。
そう言えば、学校の授業でも魔力を感じるのはやったが、自分の体内だけで周囲の魔力の事は何も話にすら上がらなかった。もしかして、この世界の魔法は自分の体内の魔力しか使えないのだろうか。。
俺は、同じライトの魔法をシルフィーの牢屋の天井にも設置した。これで、俺とシルフィーの周囲はかなり明るくなった。どうやら、この牢屋は魔法使いを牢獄するには向いていないようだ。そもそも、教会の地下に牢屋があるのってどうなの?
さて、俺と、シルフィーの牢屋の前には幅1メートルほど通路がずっと続いている。シルフィーの牢屋側の通路の先には上り階段があり、通路の反対側はまだ牢屋が続いているようだ。牢屋の通路側には鉄の棒が縦に沢山ハマっており普通なら外には出られない。俺は、さっき曲げて外に出てシルフィーに会いに行ったけど。どうやら、地下を掘り進めて牢屋を作ったようだ。俺は、シルフィーに俺がいるほうの壁から離れるように指示をした。離れたのを確認すると、俺はおもむろに土を錬金術で溶かしていった。そう、シルフィーの牢屋までトンネルを掘るのだ。トンネルがつながったら入り口に光だけ反射する結界を張った。要するに鏡だ。よく見ないと、牢屋の外からだと反対側の壁が映っているのでわからないだろう。
これで、シルフィーの牢屋まで自由に行き来できる。牢屋の鉄の柵を曲げると元に戻すのが結構大変だったのだ。。力で曲げると、なかなかまっすぐの直線にならない。次に、トンネルの途中から通路と反対側に掘り進んでいく。つまり、T字路のような通路にする。その先には少し広めの部屋を作った。ここは、一応トイレと風呂場だ。俺は、さっき溶かした溶岩を成形してトイレの形と、湯船の形にした。湯船の分は量が足りなかったので、地面を掘って湯船の底を地面より低くする。これで深い湯船ができた。あとは、火の玉を魔法で作り、表面を焼く。溶岩の状態で水分は完全に飛んでいるので、軽く焼くだけで十分な強度は得られた。
トイレは、円柱状に真下に掘り進んでいき、ある程度掘ったらそこの部分だけ広げる。つまり、昔のぽっとん便所だ。流石に水洗トイレにする時間はなかったので、これで勘弁してほしい。牢屋の隅っこのオマルのようなトイレでするよりは良いと思う。
あとは、土魔法で大きな岩を出現させると、風魔法で薄くスライスしていく。四角形に成形すると地面に揃えて並べていく。石畳の完成だ。
「うん、これで、居心地はだいぶ良くなったな。」
「・・・、牢屋ってこんなに快適でしたっけ。」
シルフィーが、何か納得がいかないような顔をしている。
とりあえず、おなかすいた。ご飯にしよう。おれは、牢屋のすみに土魔法でかまどを作った。かまどの火を入れる部分に魔法の火の玉を設置型魔法で作った。
「シルフィー、アイテムボックスに何か調理道具は入ってるかい?」
「は、はい。ひと通り入っております。」
「お肉もあったよね。冷凍の」
「はい。一度も使っていないので、すべて残ってます。」
「そのアイテムボックスはたぶん、時間が経過しないタイプなので、いつまでも凍っているはずだよ。」
シルフィーは、凍ったビックボアの肉を取り出した。まだ冷凍状態のままだった。やはり、時間は経過しないアイテムボックスなんだな。
「その肉を使って、焼き肉でもしようか。」
「あ、たぶんもうすぐ食事係の子供が来ると思いますが、どうしますか?」
「うーん・・・、じゃぁ少し待っているか。」
「はい。子供が戻っていったら肉を焼きましょう。」
俺たちは、それぞれの牢屋に戻って食事係の子供を待つことにした。
しばらくすると、ひとりの子供が食事と思われるお皿を二つ持ってきた。子供はかなり幼く見える。4歳くらいだろうか・・・?
「あのー、ごはんもってきましたぁ。」
「ありがとう。」
シルフィーが答えた。子供は、ニッコリ笑って残った皿を俺の方へ運んでくる。こんなに小さな子供が何故ここにいるのだろう。よく見ると、その子はかなり痩せていた。顔色も悪くやっと歩いているって感じがする。俺の前に来ると、
「ごはんもってきましたぁ。」
と言って、お皿を差し出された。そこにあったのはパンが一切れ。それだけ?飲み物は無いのかな。。
「あ、ありがとう。これで全部?」
「うんー、そうだよ。」
「きみたちも、これを食べているの?」
「んー、大体同じだけどー。たまに食べられないよー。おにーちゃん、今日は食べられてよかったね!!」
う・・・。こんな子供が、まともに食事にありつけないのか?ううー、シルフィーを思い出す。彼女も幼いころは満足に食事がとれなかった。。すると、子どものお腹がぐぅぅーーっとなった。。
あ、女の子恥ずかしそうにしている。
「えーと、君は今日はちゃんと食べられたのかな?」
「ううん、きょうはいいのー。明日は食べられる番だからぁ。おにーちゃん食べていいよー」
う、俺はその場に崩れ落ちた。。こんな幼い子供が俺に食事を恵んでくれるなんて。。ここの食事はどうなっているのだ・・・ゆるせん。。
「おにーちゃん、ちょっと上をみてくるから、このパンは君が食べていいよ。」
そう言うと、俺は牢屋の鉄の棒を力で無理やり引き抜いて外に出た。それを見ていた子供はポカーンとしてみている。おれはそのまま階段を上がっていった。上に上がると、広い通路にでたが、そもそも誰に言えばいいのやら。すると、近くから子供たちの声が聞こえてくる。おれは、その声の方へと歩いて行った。子供たちの声が聞こえる扉の前に立つと、ガラス越しに中の様子をうかがった。
中には、小さな子供たちが沢山いた。それをまとめているらしいひとりの巫女さん。ここはどうやら孤児院のようである。俺は、そのまま扉をあけて、巫女の方へとずかずかと歩いて行った。
「な!?あ、あなたは先ほど捕まった罪人。何故ここにいるのです!?」
「そんなことは、どうでもいいのです。ここの子供たちの食事の配給はどうなっているのですか。」
「はぁ?何を言っているのですか。誰かいないのですかー?」
巫女が大きな声を上げる。だが、もうこの空間は結界で音を遮断してある。外からも誰も入れない。
「答えてください。私に食事を持ってきてくれた子供は、自分の分も食べられないのに俺に食事を運んできたのですよ?何故、食べさせてあげないのですか!?」
「くっ、ここの孤児院の財政状況は悪いのですよ。」
「じゃぁ、あなたも毎日食べられない状況なのですか?」
「い、いえ。ここの食事の費用は国からの援助金からでていますが、司祭、上級神官、下級神官、巫女と上の方から食費を使っていきますから。巫女までは食べられますが、その下の孤児院まで食費が残らない状況です。」
「なんですって・・・。」
なんてことだ。この国の教会は孤児たちを養うつもりないのではないか?
「その援助金と言うのは、国が孤児たちのために支給しているお金ではないのですか?」
「そ・・、それは。。えーと。」
その巫女は目をそらした。。
これは、想像以上に腐っている。。かなりムカついた。。
俺は、無理やり子供たちを全員地下へ連れて行った。
「全員、シルフィーの牢屋にはいってろ。今から思いっきり食べさせてやる!!」
おれは、シルフィーの牢屋の鉄柵を数本引っこ抜きその中に子供を入れた。
「シルフィー、この子供たちは栄養失調で酷い状況だ。全員の分の飯を作るぞ。俺も手伝う。」
「はい!!」
俺は、どんどん肉を水魔法で氷を水に解凍していく。そして、風魔法でいいサイズに切り裂いていく。それをシルフィーにどんどん渡す。シルフィーは受け取った肉をフライパンでどんどん焼いていく。焼けたのを子供たちに順番に渡して食わせた。子供たちは、あまりの旨さに一瞬固まっている。こんなおいしい物は食べたことが無いのだろう。それも、料理スキルMAXのシルフィーの料理だ。俺だって固まるよ。
子供たちは、無我夢中で肉にかじりつく。
「なんだこれ。うまいうまいうまい。」
「うおー、とまらねぇ。うますぎだー」
などと、叫んで食っている。
「まだまだ焼いていくからなぁ、おめーら、食えるだけ食えよ!!」
「うぉぉぉぉ、にーちゃんありがとう。」
中には、涙を流しながら食っている子供もいる。そんなに美味しいか。
つぎは、野菜も混ぜた肉と野菜の炒め物だ。シルフィーがどんどんと作っていく。
それも、子供全員食べさせた。
俺は、コップに水魔法で水を出して子供たちに配っていく。
そばで見ていた巫女が、私も欲しい・・・みたいな顔をして固まっている。しかたがないなぁ・・・。
「そこの巫女さんもいいから食え。」
「え、いいのですか・・・?」
おれは、肉がたくさん入った野菜炒めを差し出した。
巫女さん、泣きながら食べてる。そんなにうまいか・・・。
「よーし、みんな食ったか?」
全員、食べ終わったころに俺が話しかけた。
「たべたー、おにーちゃんありがとう。」
俺たちに食事を持ってきてくれた、子供が笑顔で答えてくれた。うん、嬉しいなぁ。この笑顔が最高の報酬だ。。
「では、俺が女神様から授かった力で、お前たちの体から悪い物を取り去ってやるからな。じっとしてろよーーー。」
子供たちが、ぽかーんとしてこっちをみているが、気にしない。
今回は、この教会の中の魔力をほとんど使って特別サービスだ。魔法は宿屋のおばあちゃんを若返らせたあの悪い物を除去する魔法。今回は、範囲魔法として俺たちを含めてこの近くにいるものすべてにあたえるつもりだ。俺は、両手を広げて魔力を吸収していく。流石に今回の魔力の量は半端じゃない。そのままだと全て取り込めないので、俺は魔力を圧縮していく。どんどん圧縮していく。そして、すべてを吸収した頃、俺は自然と光を放っていた。。なんだこれ。魔力がオーラとなって普通の人でも見えているのだろう。シルフィーなんか、すでに跪いている・・・。
俺は、イメージを確実なものにするため、普段は心の中でイメージするだけだが、今回は大げさに言葉に出して呟いた。
「女神様、この教会にいる不幸なすべての子供たちへ、癒しの力を与えたまえ。子供たちの悪いところ、栄養が足りない子供、怪我をしている子供、心を病んでいるもの。すべてに平等なる女神のやさしさをあたえたまえ・・・。女神の息吹!!」
俺は、適当に魔法名を言って心で発動させた。すると、俺の体から光があふれだし、子供たち全体に広がっていく。そして、暖かい風が渦となりこの空間を浄化していく。光がすべて拡散していくと、そこには子供たちのぽかーんとして口が並んでいた。
そして、口々に子供たちが叫びだす。
「わー、なんか、体が重いのが軽くなったー」
「え、右足の傷が痛くない??」
「なんか、力がわいてくるー」
よかった、子供たちがみんな自然に笑顔になっている。そして、誰かが言った。
「神様だー。おにーちゃん神様?」
「私たちを助けに来てくれたんだーーー。神様ー」
いやいやいや、それは違う。
「違う、俺は女神様の使者だ。神様なんて呼ばれたら、俺は女神様に叱られるー。やめろ。」
「女神様の使者様ーありがとー」
「御使い様ありがとー。」
ふと見ると、巫女さんまで跪ていてるよ。おいおい。
「よーし、おまえら。俺たちがここに監禁されている間、ずっとうまい飯食わしてやるぞー!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
「ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「ずっと、つかまっててーーーーーーー」
いや、最後のやつ。それは酷いぞ。