21 シルキーを取り戻せ2
動けない。ピクリとも動けない。何故だ。
俺はあせった。ずっとファイアボールを受けていたので、ダメージが無い様でも実は致命的なダメージがあって、今頃痺れてきて動けなくなったとか? でも、全く動けないのはおかしい。。
そう思っていると、目だけは動かせるの事に気が付いた。おれは、周りを見る。すると、俺と同じようにピタリと止まっているシルフィーが向かい側にいた。彼女も目だけキョロキョロしている。
もしかして、俺だけじゃなくてこの部屋全員が動けなくなったのか?
すると、何か不思議な気配を遠くから感じる。次第にそれは近づいてきた。
カツーン。
カツーン。
足音だ。足音がする。それは、俺の正面のドアに近づいている。
カツーン。カツーン。
ドアの前で止まった。
そして、ドアがゆっくりと開く。そこには、女神様が立っていた。
その女性は、黒髪でロングのストレート。普通の人間のような容姿をしていて、とても整った顔つきで美しい。しかし、その何とも言えないオーラが隠しきれていない力の存在を証明している。
女神様は、まず俺の前まで歩いてきて、後ろのエヴァの前に立った。俺には見えない位置だ。すると、後ろから神々しい暖かい光が漏れ出てきた。俺の前のシルフィーが驚いたような顔をしている。いや、顔は変わらないが、なんとなくそう思う。たぶん。
きっと、エヴァの傷を癒したのだろう。
すると、俺の前に彼女は歩いてきて、ひとこと言った。
「竜の子よ、大丈夫ですか?この部屋の時間を凍結させていただきました。」
俺は、彼女に軽く頭をポンポンと触られた。すると、体の自由がもどった。
俺は、すぐさま跪き、頭を深く下げた。
「も、申し訳ございません。すべて私の力不足です。」
エヴァの方が気になって、ちらっと後ろを見ると、エヴァは放心状態のまま座り込んでいた。しかし、傷跡などは見当たらなかった。よかった・・・。
そして彼女は、シルフィー、伯爵と膠着を解いていく。
シルフィーはすぐさま跪き、伯爵は娘に向かって駆け出していく。
そして、伯爵と娘も少し抱きしめ合っていたが、すぐに状況を把握し俺の横に並んで跪いた。
周囲を見ると、護衛の者も跪いていた。
君たちいたんだ。
女神様は、その貴族の前に立って言った。
「さてと、業の深い人間よ。私の使者を返してもらいますね。」
貴族はまだ動けないようだが、目はおびえている。と思う。
女神様は、手を鳥かごにかざす。すると鳥かごは黄金の光に包まれ、そのまま消えた。そこにはシルキーがパタパタと飛んでいた。そして、すぐさま声がした。
『・・・、あなたね、魔力を押さえろって前回いいましたよね・・・? 昨日の晩、眠りかけた頃に大音量でテレパシーを送って、また意識が途切れるかと思ったわよ。。でも、助けに来てくれてありがと。。あのかごの中に入れられていてね、返事もできなかったの。』
お、あのテレパシーは届いてはいたんだ。返せなかっただけで。
これで、良しと。女神様はそんな感じで貴族の頭をポンポンと触った。
「は、動ける。何が起こったのだ。」
「人間よ、私の使者は返してもらいました。それで、1億でしたか? あいにく、私はここのお金は持っておりません。この金の塊で1億くらいにはなると思うのでこれを差し上げます。」
女神は、男の座るソファーの上に金の塊を出現させた。
それを聞いた俺は、驚いてつい口走った。
「な!?女神様、その者にお金をやる必要なんかありません。」
「いえ、この者もこのフェアリーを購入するときに対価は払ってますから。あくまで正式な取引として。それを、私の都合でタダで奪い去るなど、私は強盗になってしまいます。」
「しかし・・・。。」
俺は、言い返せなかった。
「まぁ、『女神に値段を高く吊り上げてお金を巻き上げた』と噂が広まってしまえば、あとはこの方も困ってしまうことになるでしょう。」
そうだ、女神から値段を吊り上げて金を巻き上げたと広まれば、この男の社会的地位も危うくなるかもしれない。ふむふむ・・。まるで、宝くじに当たって仕事をやめてしまって、数年後に無一文になる男のような…。そもそも、女神様の言うことに歯向かうなどできはしないのだった。
俺たちは、黙って跪いてることしかできなかった。
「さてと、これで問題はありませんね。人間の娘よ、竜の子に頼めば簡単に解決すると思ったのですが、痛い目にあわせてしまって申し訳ありません。」
なんと、女神様が人間に謝っている。エヴァは跪いたまま言った。
「と、とんでもございません。傷を治していただき、ありがとうございます。」
「あ、ありがとうございます。」
伯爵もそれに続く。
「それでは、家に送ってあげますね。」
女神様が手を挙げると、エヴァと伯爵様と、ついでに護衛たちも光に包まれて、そして消えた。たぶん、屋敷に転送されたのだろう。
「それと、アレクとシルフィーには話があります。こちらに。。」
うん?何処へ行くのかと思ったら、一瞬に周囲の景色が変わった。ああー、またあの白い空間だ。
「さて、今回は二人ともよくやってくれました。最後の最後で少し残念なところもありましたが。」
俺とシルフィーはあわてて跪く。
「はい、申し訳ありません。やはり、私一人で行けばよかったです。」
「まぁ、付いていきたかったシルフィーの気持ちもわかります。」
「うっ・・・。」
シルフィーは、その場でうつむいてしまった。
「それでですね、アレク、私に何か言うことがあるんじゃないですか?」
ぎくっ・・。
駄目だ、ばれてる。
「はい、申し訳ありません。エヴァの父親に協力してもらおうと、エヴァを利用しました。女神の力だと偽って雷魔法を使用してしまいました。」
「はい、理由はどうであれ、女神の名を語るのは罪に問われます。」
「う・・、申し訳ありません。どのような罪でも受けます。」
う、これは死んだかな。。短い人生だった・・。そこにシルフィーが、
「女神様、代わりに私を罰してください。お願いします!!」
「シルフィー、これは俺の罰なんだ。お前は関係ない。」
「嫌です。私がアレク様を守ります。」
なんという事だ。シルフィーが女神様の前に立ちはだかった。女神様の意思に反したらシルフィーまで消されてしまう。
「女神様、俺だけを罰してください。お願いします。シルフィーには関係がないです。」
「そんな、私はアレク様の盾です。代わりに死ぬくらいずっと前から覚悟してました。私が、アレク様に拾われてメイドとして働かせていただいたから、今のしあわせがあるのです。あなたが死んでしまったら、私も生きていく自信がありません。」
駄目だ、シルフィーは本気で俺を守ろうとしている。嬉しいけど、彼女は俺が守るって決めたんだ。
「女神様、俺はシルフィーを守るって誓ったのです。おねがいです、シルフィーは許してあげてください。お願いします。うっ、ううっ。」
だんだん悲しくなってきて、俺たちは二人で抱き合って泣き出してしまった。こんな時は7歳でいるほうが恥ずかしくなく思いっきり泣けるものだ。。
そんな俺たちのやり取りを静かに聞いていた女神は、
「あなた達、勘違いしているようですが、私は誰かの命を消したりしませんよ?そもそも、女神は生命を殺すことを禁じられております…。」
「え?」
「え?」
「な、なんですかその意外そうな反応は・・・。なにか失礼です。そもそも、人を平気で殺す女神がいたとしてそんな神、あなた達は信仰できるのですか?」
「「で、できません。。」」
「そうでしょう?」
あれ、俺たち助かるのか?