20 シルキーを取り戻せ。
俺は、そのまま伯爵様に案内してもらって、その貴族の所へ向かうことにした。危険かもしれないので、行くのは俺と伯爵だけでいいだろう。と、思っていたがシルフィーは当然のようについてきた。
「シルフィー、ここから先は危険かもしれないよ。いままでは、そう襲い掛かってくる者はいなかったけれど、今度の敵は貴族だ。護衛もたくさん雇っているかもしれない。まず間違いなく戦闘になる。宿に残って帰りを待っているほうが良いぞ。」
「大丈夫です。アレク様が負けるはずありません。それに、いざとなれば私が盾になりますから。」
いや、シルフィーを守りながら戦うのも大変なんだぞ。でも、何を言っても付いてきそうなので諦めた。
同じ様なことが、向こうでも行われていた。
「父様、何故私を置いていくのです。女神の怒りを買うと何処にいても関係ありません。その時は、私は父様のそばにいたいと思います。」
そんなこと言われたら、もう何も言えないよなぁ。うん。
結局、俺とシルフィー、伯爵とエヴァが付いてきた。ついでに護衛が三人ついてきた。結局、メンバー変わらないじゃないか。。まぁ、主人が出かけるのに護衛が残っているわけにはいかないよなぁ。
俺たちは、馬車に乗って出品者の貴族の屋敷へ向かった。その屋敷はそんなに遠くはなかった。この町にも貴族街というものがあって、貴族はそこに固まっているらしい。伯爵様の屋敷と比べると可哀想だが、そこそこ大きな屋敷だった。伯爵様が門をたたくと、メイドさんが顔を出した。
「すまんが、主人はいるか。プルームが訪ねてきたと伝えてほしい。アポ無しですまんが。」
この世界でもアポという言葉があるのが不思議だった。戻ってきたメイドは、素直に客間に通してくれた。
しばらくすると、ひとりの男がやってきた。年は50代くらいだろうか。いかにも贅沢しているイメージで、おなかも大きい。別に妊娠しているわけではない、肥満というやつだ。
「おお、よくおいでくださいました、領主様。今回は何か緊急の用があるとか。何事でしょう?」
「先日伺ったフェアリー族の件でな、このお方に譲ってあげてくれないか?」
「ん? こちらの方は?」
俺は、とりあえず挨拶をする。いかなる場合も礼儀は必要だろう。うん。
「わたくしは、竜神族のアレクシス・ミラーと申します。よろしくお願いします。」
「竜神族だと!? 見るのは初めてだが。そなたがあの・・・。」
いま、どんなイメージで見られているのか・・・なんか怖い。。
「それで、あなたが買い取りたいと言う事ですかな?」
「いえ、私は女神の使者でございます。女神の命により、捕らわれているフェアリー族を救い出すように頼まれまして。あなた様も、女神様のご意思に歯向かうつもりはないのでしょう?」
「な!? なんだこのいかさま宗教家みたいな奴は。何故このような者を、領主様自らが連れてくるのです?早急にこの者達を追い返しなさい。。気分が悪くなりましたよ。まったく。。」
「ま、まってくれ。この方は本当に女神の使いの方でございます。それに、お金が必要であれば私が払おう。だから、フェアリー殿を譲ってくれ。」
なんか、下手に出ればすごい言われ様だ。いかさま宗教家って。。貴族って女神様を信仰している心清らかな方はいないのか?でも、領主がお金を出すと言い出すと、この男は目の色を変えてきた。
「ほほぅ、領主様自らお金を出してまで引き取りたいと。それほど価値があるのですかね?確かに珍しい種族だが、俺としてはまだ愛玩奴隷のほうがいいなぁ。」
うわ、こいつ最低だ。エヴァもゲスを見るような目でみている。するとこの貴族、おもむろにメイドを呼びつけ、何かを命令した。メイドはすぐに部屋から出て行った。なんだろう?すると、先ほどのメイドが鳥かごのようなものを持ってきた。なんと!?中にはシルキーが入っているじゃないか!!
「これが噂のフェアリー族じゃ。ちっこくて可愛いとは思うが、俺の趣味ではないな。珍しいと思って、あるつてから購入したが、すぐに転売しようと思っておった。そうじゃな、競売にだせばたぶん、3000万ゴールドくらいにはなるんじゃないかな。」
俺は、すぐにシルキーに話しかけたが、返事がない。どうしたのだろう。向こうからは俺が見えているようだけど、パタパタ飛んでいるだけで、何も話しかけてこない。しかし、そんなやり取りをしていると急に俺を睨みだして言った。魔法に気づいたのか?
「そちらのいかさま野郎は、竜神族と言ったな。下手な手出しは止めておけよ。この鳥かごは魔道具でな。外からは魔法が通るが、中から魔法が使えない空間になっておるのじゃ。だから、このフェアリー族が助けてくれるなどとは思うな。これを開けるにはワシしか知らない番号を入力しなければいけない。無理に壊そうとしたら、中のフェアリー族も死んでしまうぞ。はっはっはっはっは。」
うん、こいつは悪だ。これほど酷い奴だと、殺すのもためらわなくて楽なんだけどな。でも、どうやって助けよう。こいつを殺すとカギは開けられない。シルキーは魔法も使えないので、防御魔法も無理。かごを壊そうとしても、中のシルキーは防御も何もしていないから魔法の影響をそのまま受けてしまう。これは思ったより状況は不利だな。
「わかった、では3000万ゴールドで買おう。それでいいな?」
「駄目です。よほど必要だと見えますな。では、1億ゴールドで売りましょう。」
「な!?そ、そんな大金はないぞ。」
こいつ、値を吊り上げやがったな。。金の亡者かよ。。
「それが無理なら競売で買うんですな。ただし、初値を1億としましょう。あっはっははは。競売開催日までに金を工面するんですな。では、みなさんお帰りください。」
くっ・・・、どうすればいい。いや、まてよ。あの鳥かご、外から中には魔法が通ると言っていたな?だとすれば、シルキーに直接物理、魔法用の防御結界を張ってあげればいいんじゃね?俺はすぐさまシルキーに防御の結界を張った。すると、
「おやおや、さっきも感じましたが、誰かがこの鳥かごに向けて魔法を放ちましたね?このかごの周囲に結界を張っておいたんですよ。この中に誰か魔法使いがいますね。しかし、おかしいですね。詠唱は特に聞こえませんでしたが。まさか無詠唱ですか。」
こいつ、なかなか隙がないな、シルキーには防御魔法は届きそうにない。威圧も使えないなぁ。てか、こいつこいつって言ってるけどこいつの名前ってなんだっけ。あれ、まだ聞いていない気がするぞ。
「ファイアボール」
それが聞こえたと同時に、俺に火の玉がぶつかった。結界を張ってあるから効かないけどね。
「アレク様!!」
「アレクシス様!!」
それを見たシルフィーと伯爵が心配そうに叫ぶ。大丈夫だから。この程度の魔法効かないよ。
「おやぁ、まったくダメージはないようですね。何か防御魔法でもしているんですか?」
「くっ、あなたには関係ないでしょう。」
しかたがない、ここはいったん退散するかなぁ。でも、目の前にシルキーがいるのに悔しい。
「ファイアボール」
「ファイアボール」
「ファイアボール」
「ファイアボール」
「ファイアボール」
こ・・・、こいつ。何を思ったのか、どんどん俺に魔法をぶつけてくる。。
「なんと、全く無傷ですか・・・。あなたは少々危険な存在ですね。。」
な!? なにか、いやらしく笑いやがった・・。何するつもりだ。
「そこのインチキ宗教家、防御の魔法を解きなさい。さもないと、このフェアリーにファイアボールぶち込みますよ?」
「ま、まて。それは困る。」
「じゃぁ、魔法を解きないさよ。」
「くっ・・。」
「アレク様!!」
俺は、仕方なく防御の魔法を解いた。
「ファイアボール」
「ぐわぁ・・・あ?」
俺は、生まれて初めて魔法をまともにくらった。うん?痛くないぞ。
「お、ちゃんと効いてますか?これは実に楽しいですね。ファイアボール」
「ぐわぁ・・」
うん、これは効いているふりをしよう。。
「ファイアボール」
「ファイアボール」
「ファイアボール」
「くわぁぁぁぁぁあぁ」
しつこい。でも、なんかチクチクするくらいで痛くないぞ・・。俺はおもむろに倒れるフリをした。いい加減帰してほしい。服とかもうボロボロだし。魔法防御力もステータスアップの影響で上がっているのだろうか。
「それじゃ、その竜神族の子供も一緒に競売で売りますかね。」
なぬ!?
それを聞いたシルフィーが俺の前に立ちはだかった。
「そんなことさせません!!」
「なんだお前は、ファイアボール」
「きゃぁぁぁ」
シルフィーが俺のところに倒れてきた。大丈夫、シルフィーには防御魔法をかけているのでダメージはないはず。案の定、すぐに起き上がる。しかし、それを見たこの貴族は、
「なんだ、お前も防御魔法で守られているのか。こっちのねーちゃんはどうだ?」
それは突然だった。この貴族、エヴァに向かってファイアボールを放った。
「え!? ぐっ・・」
エヴァは、ファイアボールをまともにくらってそのまま倒れた。
「エヴァァァァァァァァァァァァァァ」
伯爵が叫ぶ。
しまった、ほかの者まで魔法を放つとは考えていなかった。俺は、すぐさま起き上がって、エヴァの前に立ちはだかった。くそ、回復魔法をかけてたら、ファイアボールを防げない。どうする?
「なんだこのインチキ宗教家。まだ動けるのかよ。」
くそっ、シルキーのために攻撃はできないし、威圧も使えない。加えて、こいつらを守りながら戦うなんて無理だ。どんだけ不利なんだよ。もう、シルキーには悪いがこの男殺すしかないか?
そう思った時だった・・・。俺は、体が動かなくなった。金縛りみたいだ・・・。
あれ?ナニコレ?ナンデスカ?