2 異世界にきた
目が覚めると、俺は動けなくなっていた。
そう、赤ん坊になっていたのである。手足はバタバタ動かせるのだが、動かせるのはそれだけである。ああ、首も左右に少しだけ動かせる。声は日本語を話そうとしても、「あーー」とか、「うーー」とかしかでない。日本語は使用禁止言語なのだろうか。今いる場所は子供用のベットのようだが、首を左右に動かすが、見える範囲は天井しかない。うん、無事に転生できたみたいでほっとした。
今の俺がすることと言えば、ただ寝ることと、泣くことである。おなかがすいてきたので、泣いて誰かを呼ぶ。とにかく、泣く。ぎゃーぎゃーと泣く。すると誰かくるはず。ほら来た。
「〇〇〇」
顔を覗かせたのは、たぶん母親だと思う。何か話しているが、まったくわからない。女神さまにこの国の言葉を、読み書き話せるようにしてもらうべきだった。まぁ、そんなことに貴重な願い事を使うつもりはさらさらないが。すぐに泣き止むと不審がるかもしれないので、しばらくぐずぐず泣く。食事はいつもミルクのようなものを飲ませてくれる。おっぱいを飲ませてくれないのが、少し残念である。たまに抱っこしてもらった時に、部屋の中が見える時がある。それが唯一の楽しみだ。
この母親、子供の俺から見ても綺麗である。絶世の美女とは母さんの事だったのかと言いたくなる。竜神族の特徴だろうか、頭の横、左右から1本ずつツノが生えている。ツノと言っても先は尖ってない。四角柱みたいな形だ。
今日も天井を眺めている。ふと、ベットの柵に小さな人のようなものが見えた。うん? なんだろうあれは。小人かなぁ。よく見ると、背中には羽が生えている。もしかして妖精さんだろうか? 初めて見た。いや、この世界自体が初めての連続なのだけど。今の自分の世界は、この部屋の中だけだ。それがすべて。
妖精さんは、パタパタと天井あたりを飛んでいる。んー、話してみたいけど、無理だよなぁ。妖精さんを目で追っていると、妖精さんがこちらに気づいたみたいで降りてきた。ベットの上あたりでパタパタと空中で止まっている。止まっていると思ったら、左右にフラフラと飛んでいる。何をしているのだろうと思いながら、ぼーっと観察していると。
【あれれ、この子私が見えている?】
なんか声が聞こえた。うん、普通に見えているんですが。というか、妖精さんの言葉が何故理解できるのか不思議である。テレパシーみたいなものなのかな? テレパシーは、自動で日本語に変換してくれるとか? いや、ないない。ありえない。
【テレパシーも聞こえているのかしら? 私の声聞こえてる?】
いや、質問されても答えられないから。聞こえてますよー。俺は、返事をなんとかしようとするけど、そもそも此処の言葉がわからない。
【反応しているような気がするわね、珍しい。返事はできないみたいだけど。当たり前か、赤ん坊がしゃべりかけてきたら怖いわ。】
怖くてごめんなさい。
【もし、聞こえてたらなんか反応して。】
俺は、右手をパタパタと動かした。
【・・・。。反対側の手を動かして。】
俺は、左手をパタパタと動かした。
【うわ、この子言葉を理解している。何者よ。】
え、俺は別に敵ではありません。ごめんなさい。俺は少し怖くなって、聞こえてないフリをしようかと思ったが、もうここまで反応してしまっては誤魔化せないだろう。
【声が聞こえるのなら、魔力があるのかしら?】
妖精さんはそんなことを言って何やら唱えている。呪文かな?魔法で攻撃はやめてくれよ。すると、妖精さんの目が黄色から赤に変わった。その目で見られると、何か身体を見透かされているようで落ち着かない。
【なに、この魔力の総量は!? 普通の竜神族の魔力量の倍以上あるじゃない。赤ん坊でこの魔力量って、成人したらどうなるのよ。。ちょっと、なんとか言いなさいよ!】
そんなことを言われても、返事なんかできるわけがない。と言うか、赤ん坊の時点で魔力総量が倍以上って、これからまだまだステータスは上がる予定なんだけど。やはり、ステータスMAXは伊達じゃないみたいだ。
【会話ができないならしょうがないわね。また半年後くらいに様子を見に来るわ。それまでに言葉覚えなさいよ。】
そう言って妖精はふっと消えた。また来るのか。てか、ここの住人とかではなかったの? 何しにきてたのか。半年後までに言葉を覚えろだって? そんなの無理に決まっている。良くて「ママ」とか、単語だけしかしゃべれないだろう。別に約束なんてしていないので、無視しておこう。妖精は魔力が俺にあると言っていた。魔力はあると言うことは、魔法も使えるのだろうか?いや、呪文も唱えられないのに使えるわけないか。
しかし、魔法って確か無詠唱もあったはず。そう、詠唱をしなければ赤ちゃんでも魔法を使えるのではないか。そう思ったのである。魔法を使うにはどうすればいいのか、再度前世の記憶を呼び戻す。たしか、第一に魔力を感じる。そして、イメージをする。魔法発動。この流れだったような気がする。小説を読んだ限りでは。
俺は、とりあえず魔力を感じることにした。どうせ、寝たっきりなのでひまなのだ。いくらでも時間はある。寝たままの状態で、俺は全身の力を抜き体内の魔力を感じる努力をする。すると、なんとなく感じるではないか。魔力の流れなのかはよくわからないが、何か温かいものが足の裏から背中を通り、頭まで上がってくるとおなかからへそのほうへと降りていく。これが魔力の流れなのかな?うーん、こんなに簡単に感じてもいいものなのかな。
次は、イメージをするんだったな。どんな魔法を使うのか頭の中で精密なイメージをする。これは、詠唱をするのと同じ効果がある。魔法と言えば、火、水、風、土。この四つの要素が一番有名だと思う。この中で、もっともイメージしやすいのはやっぱり火かな。でも、本当に火が出てきたら火事になっても大変なので、今回は風をイメージしてみようと思う。さわやかな、優しい風。そよ風。肌を優しくなでるようにゆっくりと風が吹く。そうイメージすると、本当に頬に風を感じた。あれ、魔法成功か?しかし、自分が出した風なのか、外から吹いてきた風なのか区別がつかない。
そもそも、魔法発動に何か必要なことはあるのか?詠唱ならば、「ストーン」とか、最後に発動のキーワードを唱えるよな。でも、無詠唱だと必要がない。これも、イメージでやっぱり岩が飛んでいくようなイメージをすればいいのかもしれない。今度は、もう少しわかりやすく竜巻の小さいのをイメージしてみることにした。俺は、ゆっくりと深呼吸して全身の力ぬ抜き魔力を感じる。そしてイメージする。俺の見つめている天井に小さな小さな竜巻が、、、、できない。やっぱりさっきのは偶然だったのか。
しかたがないので、俺は魔力を感じる練習をした。慣れてくると、体内だけではなく部屋の中にも魔力を感じるようになった。そういえば、とあるゲームで、自然から魔力をいただいて魔法を発動する話があった。自然からも魔力を補充することができるのかもしれない。
その日から俺は、魔力を感じる練習を毎日繰り返した。部屋の中にある魔力を自分の体内に取り込み、集めては体内をぐるぐる循環させてため込んだり、自然に戻したりした。そうして半年が過ぎた。