13 シルフィーと買い物。
無事、授業が終わり俺は寮に帰ってきた。今日は、シルフィーと買い物に行く予定だ。
「シルフィー、買い物に行くぞ。」
「はい、荷物持ちでもなんでもします!」
「いや、そんな事させたら俺、酷い奴だと思われるから。。」
一応、寮の前に学校から借りてきた手押しの荷車を置いてある。たぶん、大荷物になるからこれに積んで帰るつもりだ。ちゃんと、雨が降っても上にカバーを被せられるタイプだ。
まずは、既製服を売っているお店に入る。店内に入ると沢山の服が飾られている。ここで買うのは、シルフィーの仕事着になるような服と、普段着、下着など。とにかく衣服関係すべてだ。だってシルフィーの服は、今着ている一着しか持っていないからだ。俺が雇う以上は、従業員の着こなしにも注意するのだ。シルフィーに好きな服を選ぶように言った。
自分の服も適当に見ていると、シルフィーが戻ってきた。
「アレク様、なんか店員さんからご両親は一緒じゃないのとか聞かれたんだけど。一緒にいてくれないですか? 」
あー、そりゃそうだな。。5歳の子供が二人だけで来ているんだもの。不審にも思うよね。。
「ごめん、店員さんに服を選んでもらうか。」
俺は、店員さんを呼んだ。
「すいませーん、父さんがちょっと急用で遠くに行っているので、二人だけで来たのですけどね。この子に似合いそうな服を5、6着選んであげてくれますかね。えーと、予算はぁ・・・」
と言いながら、俺はテーブルにドンッと金貨がつまった革袋を置く。おもむろに手を突っ込み10枚くらい金貨をつかみその中から5枚渡して
「よくわかんないから、このくらいでっ!!」
と言った。・・・、店員さんの目が変わったねぇ。。
「はっ、ただいま!! おい、手の空いているもの全員こい!!こちらのお嬢さんに服を選んで差し上げろ!!」
「は、はい。」
俺は、そのままテーブルに案内され茶菓子を出された。うん、人間って現金だねぇ。
シルフィーは、いきなり態度を変えた店員たちに、え?えっ?と戸惑っている。何着も服を持ってこられて、着せ替え人形のようになっている。服を着替えたら、毎回俺に見せてくれる。うん、とてもかわいい。もともと、かわいい顔をしていると思ってたけど、きれいな服を着たら貴族のお嬢様みたいだ。
おれは、追加の注文を伝える。
「あ、仕事ができるような動きやすい服装も2着くらいと、下着もよろしくね。」
「了解しました!!」
もう、顔がにこにこしている。いい上客が来たとでも思っているのだろうか。最終的には、金貨7枚ほど使った。まぁ、仕方がない。これは必要経費というやつだ。新しく買った服をそのまま着ていくように言って、古い服は処分してもらった。嫌な思い出もあるしね。。
さあ、服が整ったら髪も整えないといけない。俺は、美容室らしいお店を探して歩いた。
「次は、髪を整えてもらいに行くぞー。」
「え?えっ? いいんでしょうか?」
「当然。うちで働くなら、清潔にしていてもらわないとね。」
数分歩くと、美容室らしいお店を見つけた。この世界でも美容室と言うのだろうか?言わないよね。。散髪屋と言うのかな?よくわからない。
店内に入ると、服装を見たからか始めから丁寧に対応してくれた。シルフィーはロングの黒髪で、きっとツヤが出ると、とても綺麗になると思うんだ。ついでに俺も髪を切ってもらった。俺は、銀色でサラサラな髪をしている。角は生えてきたばかりと言う感じでちょこんと髪から出ている状態だ。店員さんは角を見て驚いていたようだけど、特に何も聞かれなかった。
シルフィーが終わったようだ。一瞬、見違えた。髪と服でここまでイメージが変わるものなのか。女性は化粧でも化けるというけど、服と髪だけでも十分化ける。。そして、シルフィーもきれいな服を着られて嬉しいのか、その自然の笑顔がとてもかわいい。周りもつられて自然と笑顔になった。
それから俺たちは、商店街を楽しくまわった。食器や調理道具。食材や必要な消耗品など買っていった。荷車はもうかなりいっぱいになっている。でも、ステータスが高いせいか、荷車の重さをほとんど感じない。。ちょっと力を入れたら簡単に引っ張れるのだ。5歳でこれだと、15歳になってステータスが最大値になると、どうなるのか想像もつかない。
こうして、大体ひと通り必要なものを買いそろえたと思ったので、寮に帰ろうとした。ゴロゴロと、荷車を引っ張っていると前から三人の男が歩いてきた。嫌な予感がする。。と、思ったのだが男たちはチラリと俺たちを見たが、そのまま何事もなく歩いて行った。よかった。そうだよな、今は町の中。そうそう変なことに巻き込まれることはないだろう。。・・・・・。でも、町の中で誘拐されたのは誰だっけ、俺だよ。。
大丈夫だとは思うが、念のため。あくまで、念のために俺とシルフィーに、物理と魔法の攻撃を防ぐ結界を張っておこう。。俺たちは立ち止まって、シルフィーに話しかける。
「何もないとは思うけど、念のためにシルフィーを守る結界を張っておくね。」
「う、うん。なんか、さっきの男の人怖かった。。」
シルフィーも何となく感じていたようだ。
それからしばらく歩いていると、見事に嫌な予感は的中してしまった。。後ろから、少し離れて先ほどの男三人が付いてきている。。人気のないところで荷物でも奪うつもりなのか…。最近こんな事ばかりだ。やっぱり、子供二人だけなのがいけないのだろうか。大人が付いていてくれたら、そう簡単に手を出そうとは思わないはずなんだ。どうしよう・・・。
「アレク様、やっぱり男たち三人が付いてきています。」
「そうみたいなんだよなぁ。どうしよう。」
「アレク様だけでも、逃げてください。私が、時間を稼ぎます!!」
「・・・・。」
この子は・・・、本当にいい子だ。俺が強いって知らないのかな? うーん、あのアジトでも俺が戦っているところを見たわけでもないし。知らないかもしれないな。
「大丈夫だよ。俺は強いから。シルフィーも守るからね。」
「魔法が使えても、一度に三人こられたら。。大丈夫なのですか?」
「シルフィーは、俺が竜神族って知らないの?」
「竜神族?なんですかそれ。」
知らなかった。あはははは。あ、男たちがこっちに近づいてきた。。やっぱりきたか。
「坊やたち、ちょっと待ちなよ。」
「お兄さんたちが、その荷物運んであげるからさー。」
なんだ、親切に運んでくれるつもりか?本当なら、すごくいいひとなんだけどなぁ。どうにも、にやにやしてそんなイメージがわかない…。ここは、できるだけ喧嘩とかにならないように。穏便に解決できないか、がんばってみよう。前回のように、威圧で精神的にズタズタにしてもいいけれど、もし万が一シルフィーにも影響が出たら大変だし、今回は使えない。。って、あーーー、授業の模擬試合で威圧使えばよかった。忘れてたよ。まだ一回しか使ったことなかったしな。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
とりあえず、にこっと笑顔で返す。
「そう言わないで、荷車をよこしなよ。」
お、強引に荷車をつかみに来た。
「大丈夫です。これでも力はあるほうなんですよー。」
にっこり。
「ちげーよ、荷車置いて行けって言ってるんだよ。とっとと置いて親のところへ帰んな。」
あー、やっぱり親切じゃなかったか。はぁ。
「あのー、やめましょう。僕は竜神族です。子供だけど、あなた方よりは強いです。」
あくまで、優しく優しく。。
「なに!?竜神族…。」
「だから、ここはあなた方が帰ってください。怪我しますよ。」
「ふざけんな、竜神族といっても子供だろうが。」
どうにも、雲行きが怪しくなってきた。。仕方がないなぁ。でも、正当防衛にしたいから向こうから来てくれないかなぁ…。俺は、無視してそのまま男ごと荷車を引きずった。
「うおおおおお、まてっまてって」
「だから、ほっといてくださいって。」
これで、力はあると理解してくれるはずだけどなぁ。
「くそっ、なんで止まらねーんだ。」
そりゃ、あんたの力が弱いからだよ。。
すると、ひとりの男が我慢できなくなって俺の腹を蹴ってきた。
「止まれって言ってんだろーがーー!!」
あーあ、蹴っちゃった。。あーあ。我慢したのになぁ。
仕方がなく、俺は相手をすることにした。まずは蹴ってきた相手を軽くやさしく蹴り返す。男は、少し飛んだ。でも意識はあるようだ。うんうん。俺って優しい。でも、ぐぅって唸っている。
「ほら、言わんこっちゃない。止めてよって言ったのに。」
「てめー、よくもやったな!!」
今度は、男が殴り掛かってきた。俺は、シルフィーの前に立ちはだかって守る。殴ってきた腕をそのまま掴んでそのままぐるっと回って放り投げた。結構高く飛んだ。あと一人だな。
あと一人はかかってこない。あきらめたかな。
すると、最後の男は懐からナイフを取り出した。あっちゃー・・。そんなもの通用しないのに。。
「シルフィー、下がってて!!」
一応、シルフィーに安全のため下がらせる。
「アレク様!!」
男はそのまま、俺の腹へナイフを刺しこんだ。が、刺さらなかった。男は唖然としている。そりゃぁ、結界張ってあるもの刺さるはずがない。土魔法のメテオくらい使わないと俺の結界は壊れないことはもう実証済みだ。あ、でもあのメテオはダメージ7割減だった。参考にはならないな。男は諦める様子はない、何度も刺してくる。こいつは殺人未遂だな。
あまりにもしつこいので、俺はナイフをそのまま掴んでボキッと折った。
そして、男の腹を軽くやさしく殴った。これで三人動けなくなったわけだ。ここまで大事になっていると、流石に人も遠くから何人か見ていた。俺は大声で指示を出す。
「だれかー、俺が犯人を捕まえておくので冒険者ギルドのひとか兵士さんを呼んできてください!!」
「お、おうっ。わかった。」
1人のおじさんが引き受けてくれた。俺は、三人の男をとりあえず荷車の横に並べて座らせておいた。
「だから、やめてくださいと言ったのに。。」
三人とも、意識はあるのだが。もう歯向かう気はないようだ。
その後、ギルドからきた職員に状況を説明して引き取ってもらった。これは、またあとで生活費が増えるかな。でも、外出するたびに襲われるとか、勘弁してほしい。