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11 シルフィー

「・・・どちら様でしょう?」


 玄関には見知らぬ少女が座っていた。全く見覚えもない。この寮は1人無料でメイドさんを派遣してもらえるのだろうか?いや、そんなことあるはずがない。


「えっと、お父様からの手紙預かってる。はいっ。」


 父さんから手紙?入学式の間に何かあったのだろうか? 俺は手紙を受け取って読み出した。


【アレクシスへ

 入学おめでとう。この手紙を読んでいると言うことは、お前の目の前には女の子がいるだろう。その子の事を説明する。彼女の名前は、シルフィーと言う。シルフィーは先日の誘拐事件の被害者だ。シルフィー以外の女の子は、無事に親の元へと戻って行ったそうだ。しかし、シルフィーだけは状況が違っていたのだ。親はすでに亡くなられていたらしい。


身元引受人がいない彼女は、当然一人で生きていかなければならない。しかし、彼女はまだお前と同じ5歳だ。そんな子供、雇う商人なんていない。なので、孤児院に連れていかれることになった。確かに、幼い彼女をひとりでホームレスのような環境に放り込むよりは、孤児院のほうが雨もしのげるし、食べ物ももらえるだろう。しかし、お父さんはアレクと同じ年の彼女を、どうしても孤児院に連れていくことができなかった。


そこでだ、ふと思いついたのだ。お前はこれからこの寮で一人暮らしになる。もちろん、食事や洗濯、掃除から風呂の準備。買い物もしないといけないだろう。 ならば、身の回りを世話する者として、アレクがシルフィーを雇ってはどうかと思うのだ。幸い、先日の犯罪奴隷を売ったお金もあるしな。人を雇うというのも、ある意味勉強だと思うのだ。


まぁ、ここまで書いておいてなんだが、強制ではない。どうしても嫌ならば、孤児院にお前が連れて行け。しっかり考えて、雇ってやるなり、孤児院に連れていくなり、アレクが好きな方を選べ。父さんは、お前の意思を尊重する。


じゃぁ、体に気を付けて。

愛する息子へ。 アルフレッド。】



と・・・、父さん。これ、五歳の俺が考える事じゃないと思うんだけど。。


この様な場合、普通なら父さんが村に連れ帰って育てるのが普通なのではないか…。何故5歳の俺に、人の人生がかかっているような問題を丸投げする。。どう考えてもおかしいだろう。


しかも、俺が孤児院に連れて行くような人間ではないと、わかっているような書き方だよなこれ。たしかに、俺も孤児院に入れるのはかわいそうだと思う。



「あのね、帰ってきたらご主人様って言ってみてって言われたの。そしたら、たぶんここに置いてもらえるからって言われたの。私、ここにいていい?」


と・・・、父さん。

俺は、その場で頭を抱えた。この子、自分の今の状況を理解しているのだろうか。。いや、普通5歳だったらこんなものだよね。理解なんかしてないよね。


「とりあえず、部屋の中で座って話そうか。どっちにしても、今日はここで泊まっていくしかないしね。」

俺は、疲れたように言った。。


「うん、わかった。」

二人で、玄関から部屋の中へ移動した。




さてと、とりあえず俺とシルフィーはソファーに座っている。何から話したらいいのかな。

「いろいろ聞くけど、いいかな?」

「うん。いいよー。」


「お父さんとお母さんはどうしたのかな?」

「お父さんは、知らない。お母さんは死んじゃった。」

うう、いきなり重い。母子家庭かな。


「いままでは、どうやって過ごしてたの?」

「えっとね、お母さんの妹さんの家でしばらくいたんだけど、そのあと村長さんのお家にいたよ。」

うん、あちこち回されたんだね。。


「ご飯はたくさん食べさせてくれた?」

「んーと、妹さんって人のところでは、あまり食べられなかった。村長さんのところでは、毎日一食は食べられたよー。」

・・・、一日一食。。貧しい村だったのかな。それよりも、妹さんの名前がでてこない。。会話すらなかったのかもしれないな。


「えーと、何故妹さんのところから、村長さんのところへ行ったのかな?」

「妹さんっておばちゃんがいなくなったからだよ。」

ぐっ・・・・。これはきつい。でも、貧しい農村では、子供を売って生き延びる所もあるって聞くし。。


「それじゃぁ、どうしてあの閉じ込められていた部屋に行くことになったかわかる?」

「うん、村長さんの家の裏の山で遊んでいたらねー、知らないおじさんに、おなか一杯ご飯食べさせてあげるから一緒に行こうって言われたの。そしたら、あそこに入れられた。でも、ご飯はいっぱい食べられたよ。もう、あそこには帰れないのかなぁ?」


・・・・。駄目だ。これは駄目だ。

誘拐されていた間が、一番幸せだったなんて・・・。


んー、仕事するつもりがあるのかな。そこのところを聞いてみるか。

「大体わかった。それじゃぁ、ここにいることについては、父さんからどんな風に聞いているのかなぁ?」

「お父さんから?えっとね、ここで真面目に働いたら、おなか一杯食べさせてくれるって。」

働くってことは聞いてはいるんだね。


「確かに、ここで働いたらお金をあげるよ。でも、働くっていうのは大変なことなんだよ。しんどいんだよ。きついんだよ。それでも働きたいの?」

「私、ご飯食べられるようになるなら、なんでもするー。がんばるから。」

うう・・・、生きることで精いっぱいって感じだ。。


「じゃぁ、ここで働けるかどうか、判断するための質問をするよ?いいかな?」

「う、うん。。」

少しは、緊張してるのだろうか?


「ここで働くには、まずお掃除ができる必要があります。」

「お掃除できます!!」

「洗濯できないといけません。」

「お洗濯もやったことあります!!」

うんうん、ここまでは順調だね。


「お風呂の準備とかもしないといけません。」

「川からお水くんできて、お風呂沸かしたこと事あります!!」

え・・・、水汲みやらされていたの?

「お料理できないとダメです。」

「え・・、お料理はあまり得意ではないです。。。。」

「ちなみに、どんな料理ならできますか?」

「えっとぉ、ご飯炊いたり、お味噌汁作ったり、あとお魚焼いたり。あ、卵かけご飯もできます!!」

卵かけご飯は美味しいけれど、料理と言えるのかどうか?

「まぁ、5歳でそれだけできれば十分です。」

「やったぁ!!」

「食べ終わったら、食器を片付けて水洗いとかしないといけないです。」

「それは、毎日やってたー!!」


「はい、合格です。明日から働いてください。。」

「え、いいの?本当にいいのー?」

「うん、よろしくお願いしますね。」

「ありがとー・・・」


安心したのか、シルフィーは少し涙ぐんでいた。


「でも、今日から働きますよ!!というか、今までに、お掃除とお風呂の掃除しときましたし。お腹がすいて晩御飯食べたいので…。」

「ちょっとまって、今日は朝と昼ごはん食べたの?」

「お昼前に此処に連れてこられたので、今日はまだ食べてません!!」


俺は、速攻で宿屋にシルフィーを引きずっていった。。宿屋には、ルイスおばあさんが受付に座っていた。


「こんにちはー。今からご飯食べられますかね?」

「もちろん、何にする?」

「この子が、おなか一杯になるまで。あ、栄養の付きそうなものでー。」

「えー、私なんか干し肉とかあればそれで・・・。」

「いやいや、これから俺のところで働くんだ。お腹がすいて、ひもじい思いなんかさせられるか・・・。」


そのあと、シルフィーは食べた。まるで、冬眠前のクマのように食べまくってた。。すると、ルイスおばあさんが話しかけてきた。


「なんだい、働くとかなんとか?」

「はい、明日から俺の寮で身の回りのお世話係として雇うことになりました。。」

「はぁ?なんでそんなことに?」

「父さんですよ。。この子、誘拐されてた被害者なんですけど行くところなくてですね。。父さんが家に置いて行ったんです。。」

「あの男らしいねぇ。それで引き受けるほうも引き受けるほうだわ、あはははは」


ルイスおばあさんが、豪快に笑って追加の料理を取りに行ってくれた。


「ご主人様、ありがとうございますー。。夢のようですー。。」

シルフィーが泣きながら食べている。泣くなって。。


「それから、そのご主人様って言うのも禁止な。」

「えー、駄目なんですか?」

「アレクでいいよ。んー、いやでもさすがにそれでは示しがつかないか。アレク様でいいよ・・・。」

「じゃ、アレク様って呼びますねー。アレク様!!」


同級生に様付けさせる俺って、どうなんだろう…。酷い奴になるのかな。。


ああ、あとルイスおばあさんにお給金について聞いてみよう。

「ルイスおばあさん、質問があるんだけどいいですか?」

「いいよ、なんだい?」

「シルフィーのお給金なんですけど、相場とかまったくわからなくてですね。」

「なるほど、どんな条件なんだい?」

「えーと、住み込みで、毎日3食付き。仕事は家事全般。買い物なんかも頼むかも。」

「住み込みで飯付きなら、通常は安いよ。平民の家事メイドで1日1500ゴールドくらいじゃないかねぇ。毎日働きっぱなしだとして、31日で46500ゴールド。これが貴族のメイドだと1日金貨1枚とかになるけどね。その代わり、礼儀作法やマナー、ある程度の学力や教養もないと無理だけどねー。」


それを聞いていたシルフィーが驚いて会話に入ってきた。

「ええー、私ご飯いただけるだけでお金いらないですよ。」

「何バカなこと言ってるのこの子は?」

「それは駄目。働く以上はきちんと対価としてお金を貰わないと。」

俺と、ルイスおばあさんにすぐさま突っ込まれた。


「でも、私お料理ほとんどできないし・・・。」

「それを考慮して、うーん1日1000ゴールドでどうだろうか。」

「それなら、うちの娘を雇ってくれよ。」

「・・・、話をややこしくしないでくださいよ。」

「でも、うちの娘は料理バリバリできるぞ。」

「うっ・・・。私、ダメダメなのでしょうか。。」

俺が1日1000ゴールドで決めようとしたら、ルイスおばあさんが自分の娘を売り込んできた・・・。おいおい。そこに娘さんがやってきて照れながら言った。


「ちょっとおばあちゃん、何勝手に言ってるのよ。男の人のところに住み込みなんて、行けるわけないじゃない…。ばかーーーー。」

また逃げて行った。。


そして、俺とシルフィー二人ともお腹一杯になったので、会計をして店を出た。


家に帰ると、俺は最終決定をシルフィーに申しつけた。

「シルフィー、お給金は1日1000ゴールド。仕事は、基本的にお休み自由。シルフィーがお休みの時は、宿屋で食事しような。まぁ、仮に毎日休みなしで働いて月31000ゴールドだな。金貨3枚と銀貨1枚だ。」

「き、金貨!?私、金貨なんて貰ったことない。」

「そうなのか・・・。」


「アレク様、私がんばって料理覚えます。それで雇ってください!!」


シルフィーは、深く頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくね。」












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