教会へ
そうしていると、どこからか声が聞こえてきた。
この声は、とても聞き慣れた声だ。
「今日もやっとるなぁ、お二人さん!」
この人は、元傭兵で今は山で猟師をしている
エドワードさんだ。傭兵時代は世界中を回って旅をしていたらしく、引退をしてからは、この村に一人で住んでいる。
もう良い年の筈だが、
その背筋は全く衰えを見せず、
まだまだ現役だと言わんばかりの風貌だ。
時折、姿を見せては俺達の鍛錬を見てくれたり
山での狩りの仕方を教えてくれる、
俺達にとっては、先生や師匠といった存在だ。
元々、剣術も狩りもこの人が切っ掛けで
やり始めたもので、俺達が小さい頃は
傭兵時代の武勇伝や、旅の話なんかを
よくしてくれていた。
「お前さんらはもう朝飯はとったのか?
簡単なものなら、ご馳走できるぜ?」
「本当に!いいの?
行きましょ、クリス!」
「本当に良いんですか?
朝食位自分達で用意できますよ?」
そう聞くと、
「若ぇのは遠慮なんてしなくて良いんだぜ?
それに独り身だと狭い家でも
広く感じるもんだぁ。それにお前さんらと
一緒に食べる飯はうまいしな!」
そう、少し間の延びたような気さくな声で
俺達を歓迎してくれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
小屋に着いて、だされた物は、黒パンと炭火で
どろどろに溶けたチーズに、干し肉や干し野菜で作ったスープと、小屋の隣で飼っている
牛のとれたてのミルクだ。
体を動かした後だと、食べた端から疲れた体に
染みこんでいき、生き返っていく感じがする。
そうして夢中で食べていると、
「お前さんらもそろそろ12じゃなかったか?
教会にはもう行ったのか?」
あぁそんなこともあったな。
教会とは、ここから馬車で一時間ほど掛けると
着く、街の教会の事だ。
何でも、生まれつき神から貰える加護やら
スキル、魔法の適正などといったものがあるらしく、
それを持っているかを教会でみて貰えるらしい。
貴族や王族の子供は小さな頃からみて、
その能力を伸ばすそうだが、
教会にみて貰うには多額の金額を請求される
ため、平民が小さな頃からみて貰うには
厳しいものとなる。
なので、平民が小さい頃からみている者は
極僅かだ。しかし12の歳になると
教会でみてもらい、加護やスキルを
持っているか確かめる義務が
法律で定められている。
良いギフトを持つものがいれば俺達の住んでいる国であるハイリヒ王国の王宮に
迎えられたり、王国最大の学校である、
王立ハイリヒ魔法学園などに推薦されたりする者もいる。
他には剣の才能がある者は隣接されてある、ハイリヒ騎士学園に行く者もいる。
レティシアならばあるいは入れるかも
しれないが、俺には到底入れそうにない。
まぁ、つまりは優秀な才能を持つ若者を見つけて
良い環境で学ばせようということだ。
しかし、その者達の使われ道は、敵国同士の
戦争や魔物や魔獣の大群が国に迫った時から
国を護るためでもある。
優秀な者から
先に死んでいくなんてことはざらにあるそうだ。
まず、優秀な加護やギフトを持っている者それほど多くはない。
大概は戦闘向きではなく、日常的なことにしか
使えないようなものばかりだ。
それに、どれほど良い加護やスキルを
持っていてもそれを使いこなせなければ意味がない。逆に弱い物であっても使い方しだいで
は強くなれる。
こうして何があたるかわからないので、
自分にあった物が当たることは
正に奇跡だ。
「クリスはいつ行くの?」
「早めに行った方がいいとは思うけど、」
「なら今日ね!今日行きましょう!
おじさん、ごちそうさまでした!」
「おう、気をつけて行ってこいよ。」
そうして今日、慌ただしく教会へと
行くことが決まった。