【9】 神絵師さんと、情報解禁
ここで、ひとまず間を置こう。
どうにも修羅場あたりからシリアスになってきているが、ご容赦願いたい。
イラストレーターさんが決まった時と、情報解禁になった時の顛末。
そして、それより少し時間を戻した頃の話だ。
『ふすい』イラストレーター。
その方が、『あなたの未練』の担当絵師になるということだった。
どんなイラストを描く方なのだろうか?
私は伝えられた絵師の名前を検索エンジンに放り込み、早速目的の人を探し求めた。
『ふすい イラスト』
リターン。
検索ワードにより山のように出てきたイラスト。
そこに現れたのは。
――息を呑んだ。
戦慄するほど突き抜けた透明感。
幻想的なまでに美しく差し込む光が映し出すのは、精巧と虚構が恐ろしいまでに調和した写実的な背景。雲と光源の絶妙な掛け合いが、青い空を彩る。
そして、描かれるキャラクターの躍動感。溌剌としていて、途方もなく純粋だ。
――イラストとはこんなにも、現実を精密に描写できるものなのか?
いや、違う。現実を越えた現実が、そこにはあった。
正直、目を疑った。こんな神絵師が、私の表紙絵を?
間違えている。私なんかの作品に。
自分を卑下しすぎるのは避けなければいけないが、どうしてもそんな考えが先に立つ。
そこまですごいイラストレーターさんだった(検索してみてください。言っている意味がきっとわかります)。
そんな折、Sさんと話をした。
「……本当に信じられないんです。あんな神絵師の方をイラストにつけてくれるなんて。本当に光の描写と透明感がすごくて……」
「ああ、すごい人でしょ?」
「そうですよね。本当に……本当に、綺麗な絵で……なんで私の作品に、と……」
「でもね、F文庫のイラストさんはすごい人多いよ?」
そう言われてみればそうかもしれない。私の中ではふすいさんは一目見ただけで虜になるくらいのイチオシだが、F文庫の表紙絵は、かなり美しく、凄いものが多い。
「……そういえばそうですね」
「うん。店頭で手に取ってもらえるように、力を入れているらしいからね。きっちり展開して、きっちり売る。それがF文庫の良いところだと思うよ」
「なるほど」
それから情報解禁の通知が舞い込んだ。
情報解禁と、何より絵師さんが素晴らしいのが嬉しくて嬉しくて、その日のtwitterのつぶやきは、かなり浮ついたものになったと思う。
同時に「なろう」の活動報告でも、『書籍化しました』などの報告を行い、旧知の作家さんから、多くのお祝いメッセージを頂いた。
尊敬する作家さんからも、『活動報告だけではなく、思わずメッセージ送っちゃいました! 正直言うと嫉妬する気持ちもあるけど、おめでとうございます!』など、身に余るお祝いをしてもらい、本当に嬉しい気持ちを味わった。
浮ついた気持ちは収まらず、「もっと多くの人に、『未練』を知ってほしいな」などと考え、なろうの活動報告にリンクを貼ったりした。
まだ未公開ではあったが、イラストラフが送られ、身の程知らずにも微修正をお願いしたりして、完成の絵が送られてくる。
もう、感激。それ以外、言葉がない。
そういえば、前にSさんに質問したことがある。
「Sさん、率直にお聞きしたいんですが、『未練』って、売れると思いますか?」
歯に衣着せぬ担当だ。正直なところを聞いておきたい。
「売れるように作っています。でも、売れるかどうかは、正直わからない。どんなにいい作品でも、売れないときは売れない。逆に、なにかの波に乗って、大爆発することもある……だから、確かなことは言えない。ただ、言えるとしたら、最初から負けるつもりで戦っているわけではないということ」
『売れる』とは言わない。少し自信を無くしながらも、続ける。
「それじゃ、質問を変えます。 Sさんからみて、『未練』は、正直、面白いですか……?」
答えは間髪入れず返ってきた。
「初めに見たときより格段に、文章も、内容も、クオリティが上がっています。ただ……」
「ただ……?」
「もっと面白くなると思います」
私は唇を噛んだ。そうか、まだ力不足……。
「そうですね。もっと時間があれば……」
「何言ってるの?」
Sさんはあっさりと言った。
「まだ修正は入れられるじゃない。これから、さらに面白くしていくのよ」
ここから、さらに……?
私は思わず苦笑した。
そこまで私の可能性を買ってくれているというわけか。
あくまでも、可能性なのかもしれないが。
「これから、ですか?」
「これから、よ」
私は一人、おどけたように肩を落とした。
――やれやれ。まだまだ乗り切ったと思った修羅場は、続いているようだ。
とりあえず、撮りためたNEWGAMEの続きでも見ることにしようか。
ぞい。ぞい。