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バトル展開は犠牲になりました

混乱している頭に、龍夜の怒りを押し殺した低い声が響く。

「勘違いも甚だしい。私の性質は『虚無』ではない。私の性質は、『絶望』だ。身の程知らずめが」

そう。龍夜の性質は『絶望』。

でも俺はそれを知らない筈なんだ。何で俺はそれを知っているんだ。

分からない。分からないよ龍夜。

俺に何が起きてるの?

黒ずくめの龍夜が何かに重なりそうで、でも重ならなくてぼやけて消えていった。

何を知らないんだ、何が分からないんだ、何を忘れているんだ。

自問自答を繰り返すも答えは出ないままだった。

不意に背中を擦られる。骨ばった、剣だこの出来た指先……ルーさんだ。

「ソラ、顔色が悪いな。だが、大丈夫だよ。あの魔王を信じたまえ。あんなにお前の事を第一に考えているんだ、お前に被害などくるものか」

優しい、思い遣りに溢れた言葉に、少し息が楽に出来た。そうだ。落ち着いた後、龍夜に聞けばいいんだ。俺の事を小さい時から知っているんだから。

龍夜は逃げたりなんかしない。ちゃんと俺の話に耳を傾けて、きちんと答えてくれるんだから。




「はぁ? 『絶望』って……笑わせないで欲しいなー。そんな存在、生まれた事がないのを、僕は知っているんだからね」

嗚呼、力は有ってもやはりお子様だ。高々1000年2000年程度生きたくらいで全てを知った気になっているのだから。

「貴様の年齢は、大まか2000ぐらいか。残念ながら私は貴様より遥かに長生きしているぞ、青二才。昔の事の一つでも勉強したらどうだ?」

「凄い凄い! 僕は2315歳だよ。あれ? でも、じゃあ君は何歳だって言うんだい? 僕が知ってる最高齢のお方は2億歳のズィーデン様だよ。君はあの方の足元にも及ばないと思うなぁー」

仮にも竜王がこんなのとは……『竜王』という存在の威光が地に堕ちるのも時間の問題か……? 私には関係ないが。

「ステータス欄を見せてやろうか? そら。レベルは9999。全能力値は99999。因みに私の年齢は20億歳だ。嘘偽りは無いぞ?」

「な、え……!? 嘘だろ!?」

狼狽しきっている青二才に対してどうしてやろうかと考える。一番良いのは跡形もなく消す事だが、穹の教育上よろしくない。

「私はな、青二才。私自身に対してのみの殺意や害意は気にならない。無頓着であるとすら言えるな。軽口やらの材料にしたりはするが。だが、私の周りに対しても同じように殺意や害意を向けるとなれば、話は別だ。……貴様は私の逆鱗に触れたのだ」

嗚呼、苛々する。自分の実力を客観的に見れない、尚且つ感知も上手く使えぬ言わばまだ雛鳥のくせに、どうして格上の相手の神経を逆撫でするのは上手いのだろうな。

「う、嘘だ嘘だ嘘だ!!」

「嘘をつく方が面倒だ。なあ、確かゼルとか言ったか」

「言った、けど……そ、それがどうしたって言うんだよ!!」

「貴様の名自体に興味も欠片もない。私が興味があるのは理由だ。貴様は何故ここに来た? 虐殺の為か? 人間を奴隷にする為か? 疾く答えよ青二才の竜王よ」

どんどん顔色が悪くなっていく。これが単独で動いているのならば、さっさと答えでもしそうだが……ふむ、何か隠し事があるのだろうか? 嗚呼、こんな時に発動すればいいものを、全く使えんなこの眼。えぐり出してやりたい。いや、そうしたら困るのは私だからしないが。

「冥土の土産に教えてやろうか。私は『神』の絶望から生まれた存在だ。生きとし生けるもの全ての絶望が、私の力となるのだよ。どこの世界でもそれは変わらぬ。性質だからな。……自分の性質ながら、反吐が出る程嫌いだが」

「うわぁぁああ!!」

青くなって震えていたかと思えば、叫び声をあげて殴りかかってきた。とてつもなく面倒だ。

「沈め」

「……っ!!」

重力を倍増させて動きを止める。必然的に青二才がリビングの床に沈み、反動でひび割れる。既に家が壊れてしまっているので……今更気にしても仕方があるまい。どうせ直せもするし。

「ぐっうう……こんな辱しめは許せないなぁ……いっそ殺せよ……!!」

「面倒極まりない。しかも穹の前だ。貴様の命を奪う訳がなかろう」

精々手足を削ぐ程度だ。命を奪われずに手足を奪われる気持ちは分からんでもないが、慈悲をくれてやるつもりはない。手足を削いで弱体化させておけば私がもしいない場合でも、穹の生存率が上がる。

「り、龍夜……その、その人……どうするつもりなんだ……?」

多大なる戸惑い、少しの恐怖……そんな色が含まれた声が後ろから聞こえた。

件の穹だ。

「人ではないよ、こやつは竜王だ。殺しはしない。だが、手足は削ぐ必要がある……理解してくれなくていい、お前を守る為だ」

「なっ……そんなの俺は望んでない!!」

悲痛な声。だがお前を守る為ならば、他ならぬお前から軽蔑されても殺意を抱かれても構わない。

そういう守り方しか、私は知らぬから。

「お前が望もうとも望まざろうとも、お前を守る為ならば……私は誰であろうと葬り去るつもりだが?」

「……龍夜、俺はお前とは本当に小さい頃からの付き合いだ。まあ、お前からしたらほんの一瞬かもしれない……けど、なあ、頼むからさぁ……優しいお前がそんな、そんな酷い事するの、俺見たくないんだ……頼むよ龍夜……」

優しい。

その言葉は私を癒すと同時に、傷付けるものでもある。

頼み込まれて思わず空を仰いだ。澄んだ空気が壊れた屋根から入り込んできていて、少し息が詰まった。ぐっと黒衣の裾を掴まれて、見てはいけないと思うよりも先に、下を見てしまう。

穹が……静かに泣いていた。

嗚呼。

もう、もう、無理だ。

穹に軽蔑されても、殺意を抱かれても、憎まれても、怒りを抱かれても構わない。見えない所で護れば良いだけなのだから。思い出されないようにひっそりと存在して、幸せになった姿を見れればそれだけで。

しかし、穹に悲しまれるのは……泣かれるのだけは、どうしたって無理だ。私が居なくなっても、それを引き摺る。幸せとは程遠い。

…………私も随分甘くなったものだ。どうやったら非道になりきれるのか、分からなくなってきた。

仕方があるまいと、右手に意識を集中させる。

「……ゼルとやら、喜べ。五体満足で見逃してやろう。その代わり二度と姿を見せるな」

「龍夜……!!」

「……へぇ、あれだけ屈辱を味わわせておいて、見逃してやろうだってー? あははー……ふざけるなよ」

言うが早いか青二才は、穹目掛けてどこから出したのか分からぬ剣を振りかぶった。

「自分の立場を理解しておらぬようだな」

左手で難なく止めると、信じられないものを見るような目で見られた。残念だが、これが現実である。くっと力を少しばかり込めた途端に刃が砕け散ったが、剣とはこんなに脆いものだったか?

「な、あ、あり得ないぃい……この僕の、竜王の牙を使ってるんだよ!? 折れる筈、ないのにぃ……!!」

「嗚呼、成る程。貴様の一部では駄目だな。鋼等の剣ならばもう少しはもったぞ」

「……?」

「私は『絶望』だぞ? 貴様自身が欠片でも私に対して絶望しているのなら、体から離れたとて貴様の一部……私を害する事は出来まいよ」

「……クソがっ!!」

最早柄だけとなった可哀想な剣を投げ捨てて口汚く罵る。何をするのかと黙って眺めていると、メキメキと音を立てながら体を変化させていく。

成る程。本来の姿に戻るつもりだろう。捨て身の一撃を私に喰らわそうというのか。

しかし残念だったな。もう既に発動させていたのだ。

「五体満足で見逃してやるという温情を無駄にしない方が賢明だと私は思うがね」

先程の亜空間を作った時の応用で、時空を歪める。ここではないどこか別の異世界へ放り出す為だ。あれの元いた世界に送り届けてやる義務は私にはない。

「自分の無力に絶望して三千世界を彷徨うがいい」

もう二度と貴様に会いたくないが、また会った時は覚悟したまえ青二才よ。

「な、まっ、待て!! 僕はここにいなくちゃいけないんだ!! あの方の言い付けなんだ!!」

「あの方……?」

聞き捨てならない言葉を発したので、早く続きを話せと視線で催促する。

「うう……あの方はズィーデン様以外で初めて尊敬したお方。僕をこの世界へと導いて下さったのだ。お前にしか出来ない仕事があるのだと言って下さった」

ちらちらと自分の後ろに出来た歪みを頻りに気にしている。まあ、気になるだろうな。いつ吸い込まれるやも分からぬからな。

「それで? あの方とやらの名前は?」

こちらとしては長々と問答をするつもりもないので、原因の名前を語るよう促す。

「…………あの方の名前は、言えない。あの方の名前を言ったが最後…………僕は消されてしまうんだよね…………あれ?」

答えられないと返した青二才ではあるが、急に頭を軽く押さえて考え込む。この反応はもしや……。

「青二才よ、今、そんな事をする奴をどうして尊敬したんだと思っただろう?」

「……それ、どうして分かったのか、気になるところだよねぇ……」

やはりか。嫌な予感は薄々していたが、何故今になってその存在を匂わすのだろうか。

私は、もう二度と貴様とは会いたくなかったというのに。

「……そんな屑を、私は一人知っているからな。その男の性質のせいで、貴様はそう思い込まされたのだ」

「……何か、確証を持ってるみたいだねぇー……何で分かるの?」

「煮え湯を飲まされて来たからな。む、魔力の流れが視えた。貴様の体……心臓から微量にあれの魔力があるな。そうかそうか、貴様があれの名前を呼んだ時が、お払い箱という訳か」

多分内側から弾け飛ぶだろうなと淡々と告げた事実に、目の前の青二才どころか、後ろの面々までもが凍り付いたのが分かった。あれにしてはまだ優しい方だぞと心の中で付け足しながら、

「それで?」

と問いかけた。

「……何が?」

涙目で聞き返されたが、これは私の質問の仕方が悪かったのだろうか。そんな事より男の涙目はかなり気持ち悪いものがあるな。穹? 穹は別格。守らなければ養い子。

「貴様を許した訳ではないが、折角五体満足で見逃してやろうとしているのに、知らん場所で死んでいましたでは寝覚めが悪い。実質貴様が選べるのは一択だけだ。あれが現れるまで心臓に魔力を宿したままでこちらに残る……だな」

ぽかんとした顔をされたが、至極どうでもいい。とりあえず厄介事は早く処理をしたいのだ。

「え? ええ? 何で? 何で? 僕は君達を殺そうとしたよねぇ? 何で僕を助けようとしてんのさ」

「穹が貴様を傷付けるなと言ったからだな。でなければ放っておいている」

青二才が、ややしょっぱい顔になっていたのは言うまでもない。

龍夜さんマジバトルしてくれない。戦って下さい龍夜さん。

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